麒麟から読み解く古代史
麟 リン、きりん
声符は粦、粦は鬼火、蛍火。
「兵の屍、牛馬の血、粦となる」とある。
粦には光を発するものの意味がある。
麒 キ、きりん
声符は其、其は箕(みの)の形
麒麟は牝牡の称である。麒はオス、麟はメス。
想像上の聖獣とされる。
西方の神獣の観念と、鹿を神獣とする伝統的な観念とが集合して生まれたものらしい。
形は鹿に似て大きく背丈は5mあり、顔は龍に似て、牛の尾と馬の蹄をもち、麒角、中の一角生肉。背毛は五色に彩られ、毛は黄色く、身体には鱗がある。古くは一本角、もしくは角の無い姿だが、後世では二本角や三本角で描かれる例もある。また、翼を持つものもある。
性格は非常に優しく穏やか。
『礼記』によれば、王が仁のある政治を行うときに現れる神聖な生き物「瑞獣」とされ、鳳凰、霊亀、応龍と共に「四霊」と総称されている。
また、青龍、朱雀、白虎、玄武に加えて5霊とされる。
さて、麒麟が象徴するものは、まず鹿。
それも雌雄の鹿である。
雌雄どちらも角を持つ鹿と言えば、
トナカイである。
トナカイの生息地は北方のシベリア辺りである。
移動手段、肉、乳、毛皮、角(針を作る)、靭帯(糸を作る)、あらゆるものが生活に生かされた。
メスの角は冬場の食糧獲得に必要な為、冬に生える。
オスの角は繁殖のため春夏に生える。
サンタクロースのトナカイは冬に角があるから、メスである。赤い鼻は、毛細血管が透けてみえる為である。
さて光る鼻である。これは、苔、ヒカリゴケであろう。
トナカイの食糧は苔である。
ヒカリゴケは、日本では北海道と本州の中部地方以北に、日本国外ではロシア極東部やヨーロッパ北部、北アメリカなどの冷涼な地域に広く分布する。
洞窟や岩陰、倒木の陰などの暗く湿った環境を好む。
洞窟のような暗所においては金緑色(エメラルド色)に光る。
この発光現象が麟の粦につながるのではないか。
北方に住む人々にとってトナカイは神が与えてくれた恵であり、神そのものであったろう。
過酷な寒さ、環境では農業は営まれず、従って都市化する事もなかった。アイヌの人々同様、争いを好まず、自然の恵に感謝した生活を続けてきた。
トナカイの蹄は体重分散されるよう大きく、雪面を沈まず走ることができた。これが、飛ぶと言う表現につながったのではないだろうか。
そして、角に関して、何故一角なのか、である。
この角は、トナカイの角ではなく鯨類のイッカクを象徴しているように思う。
イッカク
雄が非常に長い一本角(実際は牙)をもつことで知られる。
北方民族の生活体系は、トナカイの遊牧、狩猟と漁労である。
このトナカイの家畜化がいつ頃始まったかはわかっていない。しかし、中央アジアの遊牧民族が関わっていたようである。西と北の融合である。故に鹿と西方が結びつく。
中国東北部の粛慎、挹婁と言う民族の名は、トナカイを飼う人と言う意味がある。
つまり、麒麟と言う伝説の聖獣は、中国東北部アムール川以北の北方民族を指していると推測する。
中国古代史に僅かに登場する流鬼国、夜叉国。カムチャッカ半島説、樺太説とあるが、オホーツク人文化圏が存在していた、と言う事がわかっている。
これらの国から朝貢にくることはほとんどなかった為と、あまりに過酷な気候な為侵略も考えられなかったのだろう、記録には残っていない。
王が仁のある政治を行なった時にしか現れない平和を好む麒麟。それは、平和を愛した北方の民族だったのではないだろうか。