見出し画像

ヘッドフォンチルドレン


 THE BACK HORNのアルバムで一番最初に聴いたアルバムであり、今でも一番好きなアルバム「ヘッドフォンチルドレン」。似たような曲はなく、最初から最後まで個性に富んだ幅の広い作品。確実に「私を構成する○枚」みたいなSNSの企画で真っ先に選びたいアルバムである。

 高校生の頃に近くのレンタルショップでCDを借りて聴いたのが初めて。バックホーンの存在を知り、ベスト盤から聴いていた訳だが、それ以外の曲も聴いてみたくなった私はCD裏面の曲タイトルでどんな曲かを想像をしながら「ヘッドフォンチルドレン」を借りたのだった。

 とりあえず一周して「なんて目まぐるしい喜怒哀楽の激しいバンドなんだろう。」という感想を抱いた。人間のあらゆる感情を満たすような曲の並びに何度も繰り返し聴いた。

 思い入れが強いので、ここからはアルバム一曲目から順番にレビューしていきたい。


1、扉

 バックホーンの漢字一文字シリーズにハズレなし。これでシングルカットされてないあたり層の厚さが伺える。
 まさに重い扉をゆっくりと開けていくような岡峰光舟の重低音ベースから始まり、溜めに溜めて美しくエモーショナルなサビへとなだれ込む構成に鳥肌が立つ。内向的な歌詞ではあるが真っ暗闇を照らす蝋燭のように微かな希望を見出せる曲。いつかこの曲から始まるライブも見てみたい。


2、運命複雑骨折

 鳴りを潜めたように思えた初期からの狂気はここで甦る。不協和音全開で始まるイントロと中毒的なリフ。葛藤と自己否定で歪んでいく人間の鬱屈とした闇を描いた歌詞にメッタ刺しになる。「売れればいいけれど売れなきゃただのクソ」「歌わなきゃ気が狂いそうさ」客観的に聴くとヤベー奴等なのでは?と感じるのだろうが、私はこの凶暴でありながら壊れそうな弱さを纏った人間臭さに惹かれていったのだ。


3、コバルトブルー

 紛うことなき代表曲の一つ。ギターの菅波栄純が鹿児島の知覧特攻平和会館を訪れ、曲にしなければと思い、神風特攻隊をモデルとして生まれた曲。初めて聴いた時、衝撃で震えた。単純なカッコいいを通り越した壮絶さや重みをこの一曲からは感じる。
 ライブでもセトリから殆ど外れない彼らにとっても特別な曲。ちっぽけな私の人生においても、覚悟を決めたいここ一番という時に何度も助けられた曲である。



4、墓石フィーバー

 強烈なディストーションで潰れたような音のギターが特徴。歌詞に関しては完全に言葉遊びで中身よりも勢いで突き進む印象。案外ライブでも演奏頻度が高く、まさに魑魅魍魎が「ええじゃないか」と踊り狂うようなパフォーマンスで盛り上がる曲でもある。


5、夢の花

 激しめの曲が続き、ここでお洒落ダンサンブルナンバー投入で流れを変える。雨降るMVが印象的なマツ作詞の名曲。こんな透明感ある曲まで作れんのかと驚きだったが、「自分さえ愛せずに人を愛せはしない」の名フレーズもあり、ただお洒落なだけではなく温もりがあるのがバックホーン。表情豊かな将司のボーカルワークの技量を感じる曲でもある。



6、旅人

 人によっては地味に感じるかもしれないが、私はこのアルバムで旅人が一番好きかもしれない。

正体不明の絶望に
心が殺されぬように
泣き顔のままで笑ったら
旅路は花びら景色

旅人/THE BACK HORN

 この一節に何度助けられたか。きっと本当の意味での痛みや弱さを知らなければこんな詞は書けない。この頃の栄純の書く詞にはそんな個々に対する繊細さを宿した死生観が詰まっている。

7、パッパラ

 勢いで曲名を付けてしまったのか。パッパラパッパラ繰り返す曲なのだが、これが結構クセになるようで聴いていて面白い。ダンスとロックのノリを掛け合わせた曲調でなかなかに情熱的。


8、上海狂騒曲

 いきなり銅鑼が鳴り響く中華系パンキッシュナンバー。どっしりとしたイントロから急にビートを上げ、勢いに任せて疾走していく。激しさとキャッチーさを兼ね備えたライブでも大熱狂のキラーチューン。暴力的な表現も多い歌詞だが、そこに見え隠れするロマンチシズムがバックホーンらしさを感じさせる。


9、ヘッドフォンチルドレン

 レゲエ調でピアニカや口笛の音色が印象的なミディアムナンバー。表題曲でもあり、このアルバム全体の核にもなっている。ヘッドフォンをしたまま外との関わりを遮断して生きる孤独感、そこに救いが無いことは分かっていてもどうしようもない無力感。そんな他者との関わりを持つことが難しい人々の世界を描いた曲だが、少しずつその殻を打ち破りたいというこの時期のバックホーンの意思表示でもある。
 初めて聴いた時は単調で印象の薄い曲だと思っていたが、今では自分にとっても特別な曲になった。



10、キズナソング

 最初は王道過ぎるバラードという印象が強く、あまり好きになれなかった。別にバックホーンがやる必要無いんじゃないか?とさえ思っていた。しかし、悲しみや孤独、怒り、憎しみといったやり場のない負の感情を荒々しくも繊細に表現してきたバックホーンだからこそ辿り着いた境地がこの曲なんだとすれば、キズナソングはその苦しみを乗り越えてきた証だと言える。闇を知るからこそ描くことのできた光なんだと今は思えるし、そんな悲しみを肯定して初めて内から外へ向けて歌われた曲だから、より一層感慨深いものがある。武道館DVD「裸足の夜明け」観てると栄純が泣きながらギター弾いてて、こっちまで泣きそうになった。


11、奇跡

 キズナソングのようなエンディング感増し増しな曲でも終わらず、最後にこの大名曲が控えているところに恐ろしさを感じる。乙一の短編作品「ZOO」の映画主題歌にもなった。開けてゆく歌詞と熱を帯びる曲調に生きていく活力が湧き上がる。大学の友人も好きな曲でカラオケでよく歌っていたけど、本当に良い曲だなぁとしみじみ。Cメロからラスサビへの流れが好き。ヘッドフォンチルドレンのラストを締めるに相応しい名曲。



 2000年代特有の不穏な雰囲気や世相も感じつつ、バンドとしての勢いも感じられる一枚。人間プログラム、心臓オーケストラ、イキルサイノウまでを初期とすれば、ヘッドフォンチルドレンは中期に入ってくるだろう。メンバー自身のメンタリティも変わりつつあったタイミングで、内から外へエネルギーを放つようになり、それが音楽性にも反映され始めた時期。そんな当時の揺れ動く感情すらパッケージされているから、アルバムを聴くという行為には醍醐味があり、やめられないのだ。

 私のとってのロックはここから始まり、確実にその土台を築いた一枚。アルバムジャケでTシャツを作れるキャンペーンでも迷わずヘッドフォンチルドレンを選んだ。

「好き」を身に着けるって素晴らしい


 かれこれ十数年、飽きることなく彼らのファンで新しい音源やライブなどを楽しませてもらっているが、寄り添い共鳴していくという根幹は変わらずに、生命力に溢れた曲を世に送り出し続ける彼等には感謝と尊敬しかない。
 自分は付いていくバンドを間違えなかったと心底思う。年明けに新しいアルバムも出るようなので楽しみに待ちたい。



 以上、私の人生を変えた名盤、THE BACK HORN「ヘッドフォンチルドレン」の紹介でした。気が向いたら他のアルバムもレビューしてみようと思います。読んでいただきありがとうございました。


 おやすみなさい。



いいなと思ったら応援しよう!