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らーめん

 基本的に無精な人間なものだから、外出をしない。この土地に戻ってきてしまってから、近場への外出体験に不愉快なものが多くあったからかもしれない。訳の分からない喧噪に巻き込まれながら、人の滅亡を望みたくないのでひとり静かに佇んでいたいほうである。

 その点、ラーメン屋はよい。目の前のどんぶりに真剣になる人々が脇目もふらずに麺をすすっている。運ばれてきたラーメンを前に、曇った眼鏡を外す姿は、まさに臨戦態勢。そんなやる気の仕事着おじさんは、いつ何所で見てもなんとも良いものだ。注文をした品を運んできた店員に「俺ら、●●県から来たんだよねえ」と親しげに話しかけていたが、なるほど、駐車場の高所作業車がそれであるかと、窓の外を見たりした。遠くからお疲れ様。

 馴染みと言うほどではないが、ラーメン大好きな私はいつも決まった店にゆく。いつも厨房で豪快に中華鍋を操る女性がいるところで、しつこくない爽やかな明るさが私には優しく感じられる。その人が、いつものように熱々のラーメンを運んできた。袖を肘まで捲り上げた腕の内側に、斑点模様と表現しても差し支えないような、無数の火傷の痕に目を奪われる。肌があまり強くない祖母が、来客用に天ぷらをたくさん揚げている時によく見たそれと同じだから、すぐに火傷跡と気がついた。いくら仕事のためとはいえ、火傷跡は目立つから気になるだろうにと余計な心配をする。

 いつもどおり、しっかりと完食しつくしたあとも、その日は火傷跡のことが気になってしまって、より明るく仕事ができるように「はやく治りますように」と誰ともなしに、言いたくなるのであった。