大きな世界を変えることができなくても
「ビカスのようにいつか世界で活躍するんだ」
彼の目はとても輝いて見えた
自分の存在が初めて認められた気がした
出会いが運んだある少年の夢が
僕の原動力となっていた
Part 6.僕にも変えることができた世界
学校建設自体は失敗に終わったが、
その過程において
今の自分を作った出会いがあった。
僕はある少年との出会いをきっかけに
自分の中での「世界を変える」意義や
その意味を確立した。
初めてネパールを訪れた時の出来事である。
首都カトマンズから車で8時間
険しい山道を越えてたどり着く村は
「ラムジャコット村」
初めて、この村に降り立った時の
感動は今でも覚えている
たくさんの子供が走ってくる
物珍しそうに見てくる
そんなテレビでしか見たことのない光景に
圧倒される中で、その日は泊まり込みで
ホームステイもさせていただいた
ホームステイ先に選ばれたのは
ビカスという男の子のお家だった
お気づきでしょうか?
僕のネパールネームも「ビカス」
名前が一緒だったこともあり、
これが二人を引き寄せた
「ビカスはビカスの家ね!」
ゴクールさん(当時はアテンド役)からのアナウンスに
高校1年生の彼はとても嬉しそうに
僕の手を引っ張って、家まで連れて行ってくれた
川で浴びるシャワー
毎日の水汲み
鳥をゼロから捌いて作る料理
蚊帳の中で寝ること
どれも新鮮な体験だった
自分とはかけ離れた生活をしている彼であったが
共通することもたくさんあった
家のこと、家族のこと、日本のこと
好きな人のことまで
世界のどこへ行っても恋バナは共通して盛り上がる
そんな中、将来の夢の話になった
僕「将来の夢はある?」
ビカス「実は、これといった夢はない」
僕「・・・」
ビカス「・・・でも」
僕「どうしたの?」
ビカス「家族を幸せにしたい!そのために出稼ぎに行ってたくさんお金を稼ぎたいんだ」
僕「素敵な考え方だね」
ビカス「でも僕は貧乏だから海外もいけない。どうしたらいいと思う?」
僕は何も答えられなかった。
アドバイスは愚か、彼が直面している問題が問題なだけに
何も答えられなかったのを今でも覚えている。
ビカス「ブラザー(僕)の夢は?」
僕「僕は困っている誰かのためになりたいと思っていた。だからこうしてネパールに来て学校を建てるお手伝いができたらいいなと思っていた。これからもソーシャルワーカーとして世界で活躍できる人でありたい。」
ビカス「とてもいい夢だね!ブラザー最高だよ」
(写真左がビカス)
次の日。。。
新校舎を建てるために学校を取り壊す作業や
一緒に勉強したりして一日を過ごした
村の人たちと交流することも束の間
お別れの時がきた。
ビカス「ブラザー!こんな村まで来てくれてありがとう!」
僕「こちらこそありがとう!出会えてよかったよ」
ビカス「それでブラザーの背中を見てて僕は思ったんだ。ブラザーみたいになりたい!って。だから僕は自分の好きなエンジニアで将来日本に行って、ブラザーのように世界で活躍する人になりたい。」
それを聞いたときに、僕は身震いしたのを覚えている。
ただ最初は自分のためにネパールに来た。
漠然と世界を変えたいと思ってここに来た。
それが行動を起こすことで、
誰かの夢を形作るお手伝いができるなんて思ってもいなかった。
まさに僕が「世界を変える」と豪語していた中に
アイデンティティを見つけた気がした。
大きな世界は変えることができなくても
自分の行動一つで、一人の背中を押したり
小さな想いを作ることができる。
それこそが僕の成し遂げたいことだと気づいた。
まさに「エンパワーメント」
あれから5年。
彼は村から出て、首都カトマンズにいた。
そんな彼に僕は聞いた。
僕「まだ夢は日本に行くこと?」
ビカス「もちろん、僕の夢は日本に行くこと。僕は君に出会った時から今まで必死に勉強したんだ。ITの勉強をして、将来コンピュータープログラマーになるんだ。そのためには、まず日本語の学校で言語を学びながらバイトをして生活費をためる。」
いつしか、彼の夢が僕の原動力になっていた。
いつの日か日本で会えることを楽しみに、僕も僕の夢に突き進む。
つづく
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