「原風景」を扱うコーチングの実践知を大公開します!(23,000文字)
目次
第1章:はじめに
1.1 自己紹介と「原風景」を扱うコーチングについて
はじめまして、石原優希と申します。私はこれまで8年間、500名以上のクライアント、友人を含めれば1,000名以上の方々に「人生の変容」をテーマに「コーチング」をご提供しています。また、コーチング領域を超えて、ヨガ・U理論・NVC(Nonviolent Communication)・ナラティブセラピー・構造コンサルテーション・メンタルモデルなど、人の心理的な構造理解に関する実践学習や自己適用を積み重ねてきました。更に、ここ半年ほど「CRAZY」というU理論や成人発達理論をベースにユニークな文化と深い対話を重視する企業に身を置き、自身を含む多くの人の人生が変わる瞬間を経験しました。
これらの学びや実践知を統合して、今回のNoteを作成しています。
私が主に行ってきたのは、単なるビジネススキルや目標設定のサポートにとどまらず、クライアント自身が「なぜ行動しているのか?」「何を本当は求めているのか?」といった根源的な問いに向き合う時間をともにつくることです。
そこで見えてきたのは、人は「深い潜在意識」に眠る“痛み”や“喜び”に紐づく原風景を抱えており、それが人生全般にわたって大きな影響を及ぼしているという事実です。
痛みの原風景: たとえば幼少期に「自分は受け入れてもらえない」と感じた記憶。大人になっても、その「痛み」が意識下で行動を規定し続けることがある。
喜びの原風景: 「痛み」を感じた時に満たしてほしかったニーズが満たされた、たとえば「自分を深く理解してくれる友人に出会った」という原体験。そこに生まれる安心感や熱量(エネルギー)は、その後の人生で強力なモチベーションや『真の願い』となりうる。
こうした原風景に光を当てる手法として、私は多くの対話のなかで様々なアプローチを試しました。その結果、「痛みと願いの原風景」の両軸を扱うコーチングこそが、もっともクライアントの深い変容につながる、と実感しています。本稿ではそういったノウハウや、私自身が勉強会や面談で得た実践知を整理してお伝えできればと思います。
1.2 「深い潜在意識へのアプローチ」がなぜ必要か
ビジネスや家族関係、キャリア形成など、多くの場面で「表面的な問題設定」のまま対処を試みても、なかなか大きな変化は得られません。たとえば以下のようなケースを考えてみましょう。
「なぜか転職を重ねてしまうが、どこに行っても同じような人間関係の悩みを抱える」
「子どもを叱りつけてしまうたびに罪悪感があるのに、次の瞬間また同じことを繰り返してしまう」
これらは表面の論点だけを見れば「転職先が悪い」「子どもの態度に問題がある」などの説明になるかもしれません。ですが真相に迫ってみると、人によっては幼少期の体験から、「自分は孤独だ」「自分は強く振る舞わないと価値がない」などの深い潜在意識の声を抱えていることがあります。その潜在意識が根底で行動をコントロールしているのだとしたら、いくら別の選択肢を与えても本質的な解決には至らないという構造があります。
「痛みの原風景」を認識し、緩めていくこと
過去に形成された「痛みの原風景」は、多くの場合「二度と同じ体験をしたくない」という防御本能を生み、その人の生き方や人間関係のつくり方に影響を与えます。ただ、痛みを克服するために努力することは誰もが選択する道であり、社会的な成功体験やスキル的な強みに繋がっているため、単に否定するものではありません(たとえば、「理解してもらえない」という痛みから「優秀さ」を重視する生き方を選び、結果として学歴や思考力を得たケースなど)。一方で、後述する「克服行動のループ」となり、意図せず『真の願い』から離れる行動をとってしまうケースがあることも事実です。
「喜びの原風景」からのエネルギー
一方で、人は「喜びの原風景」も持っています。「痛み」を感じていた時に持っていた「ニーズ」が満たされる経験は、その人の希望になります。たとえば「優秀でないと理解されなかった」と感じてきた人が、「自分自身の本来の姿で分かり合えた」と強く感じられた瞬間があれば、今度はその喜びを周囲にも与えたいと願うようになります。ここに「真の願い」が宿るのです。
この「痛み」と「願い」の双方を扱うには、表面的な目標設定や相談に終始するのではなく、より深い潜在意識層へアプローチする必要があります。これこそが「深い潜在意識へのアプローチ」が大切だとしている理由です。
■ 第1章のまとめ
8年間のコーチングを通じた現場知や様々な人間の内的な構造に関する勉強会における知見、書籍がベース。
深い潜在意識下にある「痛みの原風景」と「喜びの原風景」を扱うと、人の行動変容やエネルギーの高まりが大きくなる。
■ 第1章 質疑応答(Q&A)
ここでは、社内の勉強会で受けた質問と回答を記載していきます。
第2章:思考よりも感性的な領域、潜在意識を扱う
ここからは人の内的構造を深く理解していくためのポイントを扱います。
2.1 氷山モデル(意識/潜在意識)
コーチングの世界ではしばしば「氷山モデル」が比喩として使われます。海面に浮かぶ氷山のうち、水面上に見えている部分は全体のほんの一部にすぎず、大部分は水面下、つまり目には見えないところに存在しています。人間の意識も同様に、日常的に認識している「顕在意識」は実は全体のごく一部(5%ほど)であり、残りの多くは「潜在意識」として隠れています。
水面上(顕在意識):
思考・推論・論理的判断など、普段自分で意識できている部分水面下(潜在意識):
感情・価値観・原体験・固定観念など、自分でも気づいていない部分
人が何か行動を起こすとき、その背景には必ず水面下にある「潜在意識の領域」が存在します。ここを一切無視して「水面上」のみで問題解決しようとすると、何度も同じパターンを繰り返すケースが多く見られます。
2.2 潜在意識の領域を扱う上での補助線
私が多くの面談をしてきた中で実感しているのは、人の行動や感情を左右している最大のドライバーは、本人の内側にある「価値観」や「欲求(ニーズ)」だということです。
ニーズ(NVCでの概念):
NVC(Non-violent Communication, マーシャル・ローゼンバーグ)では、人間の感情は「ニーズが満たされているか/いないか」で決まるとされます。たとえば「誰かに理解されたい」「安全でいたい」「主体的に選びたい」など、あらゆる行動の裏には満たされたい欲求があると考えます。価値観:
より大きな枠(ニーズがより普遍のものになったもの)として、その人が大切にしている「世界観」や「生きる上で何を尊重するか」という信念体系も存在します。これが強いほど、人生の多くのシーンにおいて共通するものの見方が現れ、その人のエネルギーも大きく左右します。
実際の面談での活用方法
人間のエネルギーは常に一定ではなく、ある出来事に対して「上がる」こともあれば「下がる」こともあります(ここでいうエネルギーとはモチベーションや情熱とほぼ同義です)。これらを面談で掘り下げていますが、次の2つを問うシンプルな方法をよく使います。
エネルギーが高まった時(プラスに働いた出来事)
どんな場面・シーンだったのか?
そこでどんな気持ちがあったか?
(理想に対して)何があったのか?(ニーズ・価値観)
エネルギーが下がった時(マイナスに働いた出来事)
どんな場面・シーンだったのか?
そこでどんな気持ちがあったか?
(理想に対して)何がなかったのか?(満たされないニーズ・価値観)
意外にも、この2つの問いだけでも多くの人が「自分にとって何が大切なのか」を認識し始めます。そして、特に何度も繰り返し「下がる」パターンには、「痛みの原風景」から来ている固定観念・セルフトーク(「どうせ自分は…」「やっぱり理解されない…」など)が潜んでいることが多いです(第4章で重要なポイントになります)。
2.3 潜在意識をコーチングで扱うことが大切な理由
潜在意識の領域こそが、人の行動や感情を根本から左右していますが、言葉どおり「意識されていない」領域なので、自分ひとりではなかなか気づけません。そこでコーチとの対話が役立ちます。以下は潜在意識をコーチングで扱う利点です。
問題の根幹を探れる
表面的な「行動」の問題と思われていたことが、実は深い価値観や痛みの原風景が原因だったというケースはよくあります。根源にアプローチしない限り、行動の一時的な変更では本質的な解決になりません。新たな選択肢や視点が生まれる
潜在意識下にあった思い込みを見直すと、「自分にはほかにも選択肢があるのかもしれない」といった視野の広がりが起こります。特定の状況で思わずルーティン化してしまう反応に変化が生じ、主体的な選択が増えるのです。大きなエネルギーの解放
潜在意識下の「痛み」に気づき、そこにセルフコンパッションを注ぐことで、長年自分を縛っていた制限が緩んでいきます。すると、今度は「本当にこうしたい」という願いが自然と湧き上がり、行動に強いエネルギーをもたらします(詳しくは後述します)。
■ 第2章のまとめ
「氷山モデル」でいう水面下=潜在意識が行動の大部分を握っている。
エネルギーの源泉はニーズや価値観にあり、エネルギーが上がる/下がる瞬間からそれらを探る。
潜在意識に向き合うことで問題の根幹を探り、大きな変容と新しい可能性を引き出せる。
■ 第2章 質疑応答(Q&A)
第3章:ダウンローディングを止めて新たな気づきを得る
ここからは、もう少し具体的に「潜在意識の領域」にたどり着くためのアプローチを解説していきます。特に「ダウンローディング(U理論の概念)」は、まだ私自身学習中ではありますが、参考になる点が多いので引用していきます。
3.1 ダウンローディング(U理論・まだ学習中)
C・オットー・シャーマー氏の『U理論』では、私たちが普段「当たり前」に感じている思考やパターンを、ダウンローディングと呼びます。既存の枠組みや判断基準に沿ってものごとを捉え、意識的・潜在意識的に「自分の知っている世界」に当てはめてしまう状態です。
ダウンローディング状態の特徴
頭の中に「常にこれまでの経験や先入観の音声テープ」が流れ続けている
新しい情報を受け取っても、すぐに過去のパターンに当てはめて解釈する
「やっぱりそうだ」「どうせ無理だ」「結局こうなる」という既存結論で会話を済ませがち
コーチングの面談においても、クライアントが長時間「ダウンローディング的な発言」を続ける場面があります。もちろん過去経験の共有は大切ですが、ダウンローディングのまま終わってしまうと、深い変容や新たな気づきにはつながりにくいです。
ダウンローディングを止める意義
思考のループから抜け出す
「どうせいつもこうだから…」と自動的に思考を走らせてしまう限り、新しい発見や変容は生まれません。一度、今まで考えてきたことから離れ、新しい視点で見直すことで、より深い潜在意識や新しい視点へつながる扉が開きます。感情や身体感覚に注意を向ける
ダウンローディングを止めることで、自分の内側に起こっている感情の変化や身体感覚の微妙な変化、忘れていた経験に目を向けられるようになります。ここに「痛みの原風景」や「喜びの原風景」への入り口があります。
3.2 Why→What(抽象的な問いの投げ方)
面談やコーチングでは、よく「なぜそう思うの?」とWhyで質問しがちです。Whyも必要ですが、しばしば論理的な回答や過去の理由付けに終始する場合があります。そこで「感性的に思考してもらう」ために有効なのが、「What(何が…?)」という問いの投げ方です。
Why型の問い
相手の論理的・思考的な説明を引き出す。過去に蓄積したロジックやストーリーが出やすい。「なぜそんな行動をしたんですか?」
「なぜその会社を選んだんですか?」
もちろん論理的な構造を理解する上ではとても有効です。しかし、こうした問いは過去の理由を論理的に説明する形に陥りやすく、ダウンローディングをさらに強化してしまうリスクもあります。
What型の問い
自分の内面を改めて見つめなおす、新しい気づきの扉になりやすい。「何がそうさせたんでしょう?」
「そこには何・どんな思いがあるんでしょうね?」
「今、何が心に浮かびますか?」
たとえば「どうして会社を辞めたいんですか?」と聞くと、相手は既存の説明(ダウンローディング)を語りがちです。「上司が厳しくて…」「残業が多くて…」など。しかし「その思いには、いったい何があるんですか?」と問うと、相手はハッとし、実は「自分がチームに所属していないという寂しさを感じる」といった心情に初めて気づくことがあります。
こうした問いを投げると、クライアントは既に語ることができる説明ではなく、「まだ言語化されていないもの」を手探りで言葉にしようと試みます。そのプロセスがダウンローディングを止め、潜在意識下にある感覚や感情を引き上げるきっかけになります。
3.3 メタ視点の問いかけ
ダウンローディングが続いてしまう場合、コーチや面談者が「メタ視点の問いかけ」をすることでそれを解除する手もあります。
相手の「感性的な反応」にフィードバックする
「今のお話をされていた時、表情が一際明るかったですね。」
相手の表情の変化を伝えることで、その人自身の感性的なスイッチがより入り、感性的な思考が促進されます。
場に投げる
「○○さん、本当はどういう思いなんだろうね。あの人にもそうする理由があるのかもしれない…」
一緒に考えている口調で、「〇〇さんはどう思うんだろうな…」と“並走”するように場に投げかけるやり方、一緒に考えるスタイルを取る方法も効果的です。
“iメッセージ”でフィードバックする
「以前から考えていた話がされているように感じるんですが、○○さんはどう感じますか?」
このように「あなたはこうだ」ではなく、「私はこう感じる」と主語を自分に置き換えた上で、その場に起きている状態をフィードバックすると、新しい視点を開きやすくなります(信頼関係が前提になることに留意してください)。
3.4 感情の奥にあるニーズを探る際の問いかけ
クライアントの感情に着目し、「その感情の奥にはどんなニーズがありそうか?」と尋ねるのも非常に有効です。
具体的には:
「そのとき腹が立ってしまったのは、何が満たされなかったからでしょう?」
「落ち込んだのは、ほんとはどんな関係性や働きかけが欲しかったからだと思いますか?」
はじめは戸惑う方も多いですが、問いを続けていくと「尊重されていないと感じたから」「本当は一緒に考えてほしかったから」などの言葉が出てきます。ここにニーズが隠れています。
3.5 安心安全の場・関係性を築く
深い話題に踏み込むためには、コーチングの「場づくり」そのものが大事です。具体的には以下の点に配慮します。
「上手く言葉にできなくて良い」というメッセージ
場づくりにおいて最も重要な点ですが、「うまく言葉にできなくて大丈夫」「わからなくても構わない」と伝えることが大切です。日常では「伝わりやすいか?」が評価されるため「伝わりやすい」、つまり「思考的」に話すことが当たり前になりやすい状況にあります。このため、この面談の場では「うまく言葉にできない方が良い対話」という共通認識を作るようにしています。声のトーン・表情
唐突に潜在意識に関する質問を投げかけると、クライアントは身を守ろうとして防御姿勢になります。柔らかな声のトーンと落ち着いたペース、時には沈黙を活かすなど、相手が話しやすい「間」をつくることが重要です。物理的な空間
カフェのように周囲が気になる環境よりも、落ち着ける部屋やリラックスできる場所が望ましいです。オンラインならば、クライアント自身が安心できる環境で接続できるように促します。同意確認と範囲設定
事前に「本日はどこまで踏み込みたいか」「言いたくないことは言わなくて良い」という同意を取り、限度を明確にします。これにより安心感が高まり、クライアントは必要に応じて深い話題へ進みやすくなります。
■ 第3章のまとめ
「ダウンローディング」は既存の先入観や過去パターンに基づく思考の反復。
これを止めるためにWhyよりWhat、iメッセージ、場への問いかけなどを用いる。
感情の奥にあるニーズに気づくことで、痛みの正体や願いを見つける道が開ける。
そのためには安心安全な場づくりが欠かせない。
■ 第3章 質疑応答(Q&A)
第4章:痛みの原風景と「克服のループ」
ここからは、いよいよ本稿のキー概念でもある「痛みの原風景」とそこから生じる“葛藤”の構造について詳しく説明していきます。
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