ノルウェー移住1年目: 崖っぷち貧乏暮らし 〜寿司屋に内定取り消された〜
キッチンとトイレ共用、4畳ほどの小さなオンボロ学生寮の一人部屋に夫と2人で住んでいたころのお話です。
崖っぷちの貧乏くらしをしてたころは恥ずかしくてなかなか人に言えなかったのですがもう時効かなと思ってせっかくなので書きたいと思います。
移住したての数ヶ月はハネムーン期と言って大抵の人は新しい国での生活にワクワクするはずです。しかし不幸なことに私はそのハネムーン期を交換留学で消費してしまい、大学を卒業してノルウェーに戻ってきたときには目新しさも無く、現実的な生活が待っていました。
軽い気持ちでフラッと移住
20歳の時に交換留学で1年間ノルウェーに来た私は、そこで今の夫と出会いました。それまで恋愛にすら慣れていなかった私に国際遠距離は厳しく日本に帰国してからは一刻も早くノルウェーへ戻ることを目標にしていました。
本来グータラ生活が得意な私はヒィヒィ言いながら超特急で教育実習と卒論を終わらせて大学をなんとか早期卒業し日本に帰国して半年後、22歳の時再びノルウェーへ。しかしそこに待ち受けていたのは夢のゆとりある北欧生活ではなく貧乏でギリギリの生活でした。
シャワー、トイレ、キッチンを8人でシェア
私がノルウェーに引っ越してきた時、当時の彼氏、今の夫はまだ学生をしていました。特にお金を持っているわけでもなかった私たちは学生寮の1人部屋、机とベッドだけがあってキッチン、トイレ、シャワーは8人で共用という2人で住むにはどう考えてもスペースの足りない場所で同居を始めました。
私は交換留学をしていたときに魚屋さんでバイトをしていていわゆる低賃金重労働の仕事でしたがいつでも戻ってきてねと言われていたので最悪そこへ戻ればいいやとたかを括って引っ越してきました。すぐに仕事も見つかるだろうし仕事をもらったら普通のアパートに引っ越そう、そう思ってました。
お金がない、仕事も見つからない
というわけでしばらく他の働き場所も探しつつ、そこの魚屋さんに帰ってきたぞうと報告に行きました。ところがそれが10月ごろでちょうどシーズンオフ。夏場は魚市場は観光客で盛況しているのが、10月になると客足が減り仕事の需要が全くありません。人手が必要になったら雇って、と言って帰りましたが全く連絡はありませんでした。
交換留学生の時からヴァイオリンを教えていた生徒さんがいたので週に一回ほど教えていましたがそんなお金はすぐに無くなります。当時、音大に入り直してヴァイオリン奏者になろうと思っていて、音大の試験に向けて音大のヴァイオリンの教授にレッスンを週に一回ほどしてもらっていたので私がレッスンして生徒さんから貰ったお金は全てその教授へ真っ直ぐ流れていったのです。
勝手に引っ越してきたので当たり前ですが仕送りもないので交換留学生の時にバイトで貯めた貯金を切り崩しながら、カフェやレストラン、ホテルなどところ構わず履歴書を配り歩きました。そこで見たのが寿司職人の求人。日本人だしいけるんじゃないか、なんて安易な考えでとりあえず求人サイトから履歴書を送りました。寿司は家でよく作ります、日本の家庭料理も作れます、なんてとんだ嘘をついて書いた履歴書です。
共用キッチンで夜な夜な寿司を作る変な日本人
履歴書を出した寿司屋から連絡があって、面接のときに寿司を作って試食して採用するか決めたいというのでこれはチャンスだと思いオッケーと返事をしました。
海老天巻きとサーモンの巻き寿司にサーモンの握りが課題だというので早速準備に取り掛かりました。とは言っても貧乏学生寮暮らしの私にはまともな包丁や炊飯器を買うお金もありません。共用キッチンのありったけの包丁を試して一番新しめのIKEAの包丁が私の寿司用包丁に採用されました。そしてご飯は鍋で炊きます。これもIKEA様の安い鍋です。
寿司の作り方もわからないので母に寿司の作り方の本を図書館で見つけてもらいレシピの写真を撮って送ってもらいました。
そんなめちゃくちゃな環境でとにかく仕事を確保するため毎晩寿司を作り朝も昼も晩も寿司を食べました。
最悪な出だしと変な面接
面接に呼ばれたのは多分11月ごろですごく寒い日でした。日本から持ってきたスマホは寒さに弱く外に出るとすぐバッテリーが切れてしまいました。ということで面接の場所には時間通りに着いたものの改装中のアパートのどこに入ればいいのか分からずしかもスマホの電源がつかないので連絡のしようがありません。仕方ないので辺りの表札を片っ端から読んでやっとこさ変なところにあった玄関を発見しました。この時点で10分ほどの遅刻です。
アパートで面接?と思うでしょうがその寿司屋はまだオープンしていない、というか場所すらまだ決定していないという変な寿司屋でした。そして寿司用に炊いたお米も持ってきてくれと言われていたので寒さで冷え冷えになったお米と共に遅刻した寿司職人(私)が今回戦場となる寿司屋経営者(予定)のアパートに到着したのです。
※炊いた米をバスで持ってくればせめて少しはマシだったと思うのですがお金がないのでバス代を節約してテクテク米を持って40分ほど歩いてそして迷って寿司職人は面接会場へ着きました。この時点でほぼ冷凍寿司飯です。
面接会場には経営者2人が待ち構えており生のエビとサーモンとアボガドと海苔が用意してあり君の米でこいつらを寿司にしてくれ、というのです。私は堂々と持参したIKEAの包丁を取り出してエビを捌き始めました。予行練習どおり天ぷらを揚げ、アボガドを切り、電子レンジで寿司メシをあっためてから寿司を巻き、サーモンの握りも作ります。この時点でほぼ負けは確定していました。すし飯は電子レンジであっためると酢が蒸発して変な味になるのです。
そしてその最悪な寿司を経営者2人に差し出します。感想は意外にも高評価。寿司メシの味は若干気に入らなかったようですがこれが日本の味なんだというとあっさり信用してもらえました(なんでやねん)。君も食べてみろというので食べるとネチョっとして酢の変な匂いのする寿司、これを寿司屋で売れば確実に倒産すると思いました。
なにか改善するところはないかと聞くとアボガドはスプーンでこうやって剥く方が早い、というなぞのレクチャーをされます。
改善するところアボガドの剥き方ってなんやねん。
そして次は面接フェーズに移ります。面接では君を雇いたい、給料はいくら欲しい、いつから働ける、寿司職人としてキャリアを築く覚悟はあるか、など採用する気満々の質問をされ、私は彼らの経営者としての資質を疑問に思いながらこれは内定決定じゃないか、と心の中で万歳をしました。
そして後日メールで、君を雇いたいと思う、雇用契約書の準備をするねとの連絡が入りました。内定万歳!!
そんなうまくいくはずがない
変な寿司屋ですが雇用契約書がもらえると聞いてバンザイ一安心。学生寮の隣人にも寿司屋で働くんだ、サービスするから来てねと開店してすらいない寿司屋の宣伝をして回りました。しかし待てど暮らせど契約書が一向に送られてこない、どうしたものかと思っていると突然一本の電話。明るい声で寿司職人の経験のある人が見つかったからあなたは働かなくていいわ!と言うのです。えええーっ!そんなあ、ウェイトレスでもいいから雇ってくれない?と聞いてもあなたノルウェー語話せないでしょ、と取り付く島もなくあっけなく内定はなくなりました。
それからしばらくギリギリ崖っぷち生活は続きます。