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編集者として、初めて本が出て、浮かれてたときのこと

「校了した瞬間から、その本のことは忘れろ」
そのくらいの気持ちでいいと言われた。
「俺は打ち上げもあんまりやらない。だって、本作りたくてやってんだから」
思わず顔を上げて編集長の顔を見た。

人生で初めて、ゼロから企画して、著者さんに会いに行って、断られて、でもひょんなことから書いてくれることになって。

2023年1月17日。書きましょう。と合意した。
8月7日。校了。印刷機が回り出す。
9月6日。発売。

初めてお話を聞いてから約1年で、本は完成した。

さすがに、売れてほしかったし、
わずかながら献本もさせていただいたし、
記事をつくるお手伝いもしたし、
広告も勉強した。

校了してすぐ、その本のことを忘れることなんてできなかった。

やることはいろいろあった。だから発売1週間前の「見本日」(初めて、印刷された本の見本が届く日)も、発売日もあんまり「待ち侘びて」いる感覚はなかったし、あっという間にその日はきた。そしてその日が来たからといって、浮かれていたわけではなかった。

ほんとのほんとに(アシスタントとしてだけど)初めて自分の名前を奥付(うしろのクレジットのページ)に目にした日とか、先輩からバトンを受けて担当した翻訳書が世に出た日みたいに、胸が高鳴ってワクワクしたり、というよりは、やるかとがたくさんあって気づいたらもうこの日だ、という感じだった。 
1年もかかったのだから「初めて」という感覚はあまりなかった。実際の作業のほうが、「初めて」の学びが大きかった。「発売日」や「デビュー」ということには、あまり意味を感じてなかった。

「この本は著者さんのものだ」という感覚もあったかもしれない。
意外と気持ちはあっさりしていた。

周りは、「デビューおめでとう」と言ってくれる。だからなんか、乗っかってたけど、テンションは置いてかれてたと思う。著者さんに電話した「いよいよですね」も、なんか言葉だけがふわっと浮いていた。ようやく、感情がおいついてきた。あんまり、高揚してなかったということに。

もちろん、発売当日にSNSで見かけはじめるとソワソワした。エゴサもいっぱいした。発売から10日経ってもまだ、毎日のようにしてる。
でもなんか、「初めてデス!」は、もうやめようと思った。

毎週のように会ってるひとはさんが、投稿にコメントして買ってくれたこと、前職で気にかけてくれていた先輩とランチできることになったこと、身近な人たちが「お祝いしなきゃね」と言ってくれること、そんな半径5mてきな喜びのほうが、大きかった。

それでも嬉しかった、3つのドキドキ

尊敬する人への手紙

「初めての本」は献本させていただこうと、2人の人物を決めていた。ずっと、前から。
だから、その方々から受け取っていただけるという快諾の連絡がきたときは嬉しかった。

ある方への献本は最初だけにしようとしていだけど、「今後も送ってくれ」と、言ってもらえたのも、感想会をひらいてもらったのも、本当に嬉しかった。人生で嬉しかったことの片手に入る日だったかもしれない。

丸善丸の内本店

発売日(出版業界においては正確な言葉ではないが、割愛)の前日。
「まだ、ないよね」と思いながらも立ち寄った丸善丸の内本店で見つけたときは、思わずドキッとしてしまった。

体育館で別のクラスの好きな人を見つけたときみたいな。ちょっと距離があって遠くから見つけたときみたいな、会えるかなと期待しつつ期待してないときに、ふいに顔を見つけちゃったときみたいな「ドキ」でした。

重版の連絡

発売日の夜、Amazonランキングで101位が最高で、でも翌日重版はかからなくて、期待はしないようにしようと思った。

それなのに、発売5日後に重版の連絡がきた。嬉しかった。まだまだなんだけど、それでも1つ実績を作れて安心した。

「初めての担当作で、重版は喜んでいいですよ」と編集長と電話で話せて、それも嬉しかった。

これからのこと

「浮かれてても許される感」「初めてです!を使えるのは今回だけだから」というなんとなく自分で生み出しているような、世間に許されているような、そんな空気に自ら乗っていたけれど、今はこれからのことしか考えていない。

本をつくっているときは、
「編集者にとってはこれから続く担当作の『1冊目』だけど、著者さんにとっては『一生に1冊』かもしれないから」という気持ちでやってきた。

でも、やっぱり発売して、というか重版できて、スタートラインにようやく立てた、その気持ちが大きい。
いろいろなフィードバックも受けて、反省ポイントもあって、「あれもやりたい、これもやりたい」という気持ちになった。

書籍編集者って、PDCAが回るのが遅い。入社して1年3ヶ月で、ようやく1冊目。でも元々は断られていた企画。そのまま流れていたら、「1年経っても出版見込みなし!」っていうことになっていた。
本当にラッキーで、感謝しかない。これがなかったら1年間給料をもらい続けていることにストレスとプレッシャーがたまりまくって、勢いよりも焦りがまさって萎縮してしまっていたに違いない。

「世界をやさしくする」とかきれいごとを言ったり、「●万部目指す」と目標を高く持ったり、上を目指したりすることもできなくなっていたかもしれない。現に、インプットの質や学びの解像度が上がり、結果やキャリアへの危機感の質も上がった感覚がある。

だから「編集者にしてもらった」、スタートラインに立たせてもらったことに最大限の感謝をして、これからももっともっと、心が震えるような、「ありがとう」と言ってもらえるような、「いい本」をたくさんつくっていきたい。


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