見出し画像

新聞広告は「まわり」に依存する:コピー研究会Week3

「コピー研究会」をはじめました。コピー・本のタイトル・見出しなどを見たり、書店やコンビニに入ったときの、「心の動き研究会」です。

Week3は、新聞広告。手元にあった3日分の日経新聞を見てみることにしました。

まず、日経新聞では書籍の広告は1面と、2・3面で様相がちがう。
手元の3日分では、4面以降に書籍の広告はないが、たぶんたまたま。あることもあると聞いたことがあるので、これからはもう少し注目して見てみよう。

1面

『普通の人が億万長者になれる方法』

まず、これしか目に入らない。「億万長者」という単語は強い。

もう1秒見つめれば、左の『Z世代のアメリカ』。
真ん中5つが縦書きなので、横書きだし、「Z」はじまりで、「アメリカ」とアルファベットやカタカナが入っていて、単語が短くフォントが濃い、それだけで目に入る。中身じゃない。

つぎに右の『かくれ繊細さん(のやりたいことの見つけ方)』。
書名の()内は、頭に入っていない。「かくれ繊細さん」という聞いたことのある、少しキャッチーな、そして文字の大きさが少し大きい7文字だけが頭に入る。

お次はこれ。

『サンガジャパン プラス』。
「知っている固有名詞」がまず目につく。

①知っている固有名詞 がまず目につく。
『サンガジャパン プラス』を読んだことがあるので、Vol.02がようやく出たんだなと目に入る。それ以外は目が横すべり。

かろうじて、
②左の『KASUMI 石川佳純のすべて』のグラビア感(ちょっと肉欲がそそられる) 、
③『養豚界』「肥育期」という単語への驚き(「えっそんな世界があるのか」)
が目につく。

そして、

……

こちらは全滅。何も頭に入ってこない。
全部横並びなので、フォントの違いが気になるくらい。
文字の「横並び」感によって、お互いがお互いをつまらなくしている。

せっかく大金をはたいて掲載しながら、自分で選べない「まわりの環境」によって作り出された「頭に入らない」状態に自らをおかなくてはいけないのは、新聞広告の博打感がある。金額規模もちがうだろうが、電車広告ならそうはならないだろう。

2・3面

2・3面では、出版社が記事下の枠をまるごと買い取り(全5段)、より自由に与えられた枠をデザインしている。1冊の広告でこの枠を使い切っている場合もあるし、何冊かに振り分けている場合もある。

『小学生がたった1日で19×10までかんぺきに暗算できる本』

この広告は、文字のデザインがすごい。いま打つまでは書名の「小学生が」とか「かんぺきに」という単語は誌上で読んでいたとは言えない。
でも、全体の文字列から、すごい複雑なことが簡単にできるようになる「という感じ」のメタメッセージを受け取る。

「本当にできるようになる」とか「5秒で2ケタ暗算」という文字を「読む」と、自分にもできるのだろうかと試したくなり、ほしくなる。次に書店で見かけたらパラパラめくってしまうかもしれない。
「役立ちそう」「できたらかっこいい」というポジティブな自分像を想像してしまう。実際に2ケタ暗算をしなくてはいけないシーンなんて、冷静に考えれば日常でそんなにないはずなのに、

ここまでで、広告の文字を「読んだ」、そして「ほしくなった」まで感情がかき立てられたのはこの広告だけかもしれない。

次はこれ。

『なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること』

目にはつく。おそらく、漫画の絵のせいで。
でも、煽られている感がしてポジティブなイメージは湧き上がらない。
マトリクスがいい感じに余白を生み出しているからか、図や吹き出しに目がいく。

ちなみにこの写真だと絶対に目につくけれど、実際の新聞では「悪いのはあなたの頭じゃない、『準備』です!」というコピーはほとんど見ていない。

右側のおじさんの顔以外は頭に残らない

このページは全体的に頭に入らない。目に入っていても頭に入ってこない。書名さえも、「Amazon第1位」も「チャンネル登録者数96万人」も「たちまち重版」も。
かろうじて、左の書名『ズルい腹筋』が目につく程度。ワクワク感、シズル感、「欲望をかきたてる何か」がないんだろう。

『だから僕たちは、組織を変えていける』

これも、「見たことがある」から目に入る。

そしてもう1秒見れば、『ずるい検索』。
コピーは「賢い人は、調べ方で差をつける」「ChatGPTを使いこなすには、検索リテラシーが必要だ」。自分で検索リテラシーがなくて困った経験があるから、ちょっと買いたくなる。

そして次はこのページなのだけど、

……

こちらはなんと、人の顔や署名は「まぁ見たことあるな」という程度で、
隣の紙面に全部もってかれた。

なにかというと……

『堀江貴文のChatGPT大全』

ホリエモンはやっぱり強い。なぞの悔しさ。

ここで目についたのは、意外にも書名下の小さな文字「無料 すでに2300人が登録!書籍購入者限定HP(LINEグループ)で使い方を質問できる!」というユニークな特典。
そのあとで、じっくり中身を読んでしまった(おそらく普通は読まれないし読まない)。
ここまで読んだけど、特に惹かれる、そそられるものがなかったので、買わないだろう。

最後に、上の「今やらないヤツはバカ!知って、使って、周りと差をつけろ!」を読んで、「まぁ、そうなのかもな。ChatGPT使ったほうがいいかもな。バカなのかもな。」という気になる。

でも、こうやって煽られるのって、もう読者は疲れている気がする。もういいよ、バカで。
こういう煽りって、まだ効くんですか?

感想

全体的に受けた感想は、新聞広告が目につく・頭に入るかは周りの環境にけっこう左右されるということだ。それは「タテ書き・横書き」というわりとシンプルな話でもあり、隣にホリエモンがいたら負けという博打なオチでもある。

それでもうまく作れば、購買意欲は湧く。33冊分の広告を見て、1冊か2冊(『19×19の暗算〜〜〜』と『ずるい検索』)。ここでのポイントは、「できたらかっこいいことが、自分でもできそう」と「困ったことがあることが解決されそう」だった。どちらも、思想・教養というよりは実務書だ。

心理学でいう「単純接触効果」は大事で、書店や広告で見たことがあるから目に入る、売れが売れを呼ぶんだろうということがうっすらわかった。

ただ新聞広告を見て、Amazonで検索してその場で購入する人は、どれだけいるんだろか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?