ゆき

心のチューニングページ。書くことが好きな先生です。

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  • 灯りをひとさじ

    エッセイ

  • 味日記

    食やお料理にまつわるエッセイ。

最近の記事

青い箱

肩にかけた青い箱 そこには色が詰まっている 絵の具が乾くのを待つ時間、こころの色がうごきだす 水に溶けるのを眺める時間、おとが水を漂い始める カラフルないろみずを、ベランダに並べて一気に倒したい こぼしたいろみずが広がってゆく 記憶の隅までときが広がってゆく 透明に還るその刹那、空が溶け出す ペンギンたちが眠る夜 色の記憶は手や顔に宿り 色を待つ時間が、ひとをつくる

    • とっておきのシャツ

      今週末、彼は友人の結婚式に行くと言う。 スーツをクリーニングに出し、ご祝儀袋を用意する。そうして準備をしていた日曜日、「二次会で着るのにいい、とっておきのシャツがある」と言うので、彼の家に取りに行くことにした。 聞くと、「テロテロの緑のシャツ」らしい。なんだかイカつそう…。 彼は普段、ほとんどデニムと白Tしか着ない。冬には上がスウェットになるだけで、選択肢はとてもシンプル。わたしは流行に疎いし、着たいものを着ればいいと思っているから、彼に似合っているそのシンプルなファッショ

      • 夏休みパスタ

        “グルテンフリー”という選択肢が日常に組み込まれつつある昨今において、パスタと聞くとファストフード並みの罪悪感を覚えるようになってしまった。 わたしは思う。夏という時間は、暑さに振り回される日々を自らの欲望でコントロールするような背徳感を得たくなる季節なのだと。 たまには、そんな季節のせいにしてもいいじゃないか。そうだ、パスタを作ろう。 たっぷりの塩を含んだお湯の入った鍋でパスタを茹で、具材を炒めているフライパンにその茹で汁とパスタの麺を投入する。フライパンを返すたび、ちゃ

        • 火星でネオンが光る

          8/12(月) 台風5号のマリア様が日本に上陸し、わたしの住む北国にも注意報が出た。 今日は何もすることがないので、家でじっとしていられない彼とわたしは、雨風が強くならないうちにスパへ行くことに。 10時半ころ家を出て、11時には到着。 ここは一年前に、ごく普通の銭湯からオールインクルーシブなスパへリニューアルしたらしい。彼もわたしもはじめての来店で心弾んでいた。 入り口にはネオンの看板。ネオンを見るといつだって夜のようなうきうきを感じる。 台風だから混んでいないんじゃ

        青い箱

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        • 灯りをひとさじ
          4本
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          3本

        記事

          ウィンナ・コーヒーの夢

          スタバでバイトをしていた大学生のとき、わたしはオープンに入ることが多かった。そのスタバは中心街のホテルの中にあり、店内はホテルのロビーと繋がっていてちょっと高級感のある雰囲気だった。 チェックアウトのときに立ち寄る人も若干いたが、出勤前のひとときを過ごす人、お散歩途中のご夫婦など、名前の知らない多くの常連さんが、各々の朝時間を過ごしていた。名もなき常連さんがガラス越しに外から歩いてくる姿を見ると、脳内でドリンク名とカスタムが自然と出てきたものだ。 よく同じ時間帯に入ることが多

          ウィンナ・コーヒーの夢

          ほくろの位置を知るような距離で

          8/8(木) 姉の誕生日。10個上の姉には、3人のお子がいる。 帰省するたびに手脚が伸び、一番下の子さえもそろそろ抱っこができなくなりつつある。 長男の夏休みのドリルが終わらないらしく、教えてくれと頼まれた。 10時ころにシャワーを浴びたあと、思い立ってスタバのドリンクチケット2枚をLINEギフトで送る。 500円分のチケット。500円にした理由は、700円だと新作フラペチーノを飲まないと元をとれないため。コーヒーかラテしか飲まないわたしは使いどきに困る、といういささか主

          ほくろの位置を知るような距離で

          夏の狼煙

          8/7(火) 18時。 彼は仕事の繁忙期に突入したらしい。つい昨日から。 これまでも、「これからは毎日残業になる…。そんな兆しが…。」と話していたが、ついに昨日からその兆しが現実のものとなったようだ。 「20時コース」 とLINEが来たので、うい!と返してから時計をみる。 ふん。2時間もあると思うな。 わたしは料理をしているときは時間の進みを感じることができないようで、目の前の食材をざくざくと切るだけで気づくと20分経っていたりもする。 だから、料理が完成したあとにはい

          夏の狼煙

          手のなかで立ち上がる

          うなされて起きる。 わたしのうなり声がうるさかったのか、彼は目を瞑りながら眉間に皺を寄せた。 朝目覚めたとき、隣に彼が眠っていたことに深く安心して、逆にぐったりとしてしまった。寝違えたのか、左肩の筋が痛む。変な緊張をしていたのかもしれない。 久しぶりにみた夢は、とても孤独で苦しい夢だった。何がと聞かれるとうまく説明ができないのだが、どこへ行っても「独り」で、誰も助けてはくれなかった。けれど、そこは深い森の中でもなく、暗闇でもなく、海の中でもない。旅行に来たらしい見知らぬ土地

          手のなかで立ち上がる

          月の涙

          夏至の夜、月が綺麗だった。 ただそれだけのことなのだが、こんがりと脳裏に焼きつく月の妖しい輝きは、今から思えばこの世から一つの魂が失われたことを示唆しているように思えてならない。 実際の知らせは、姉から日曜日の朝に届いた。5月末に母から「覚悟をしておいてね」と言われてから、おおよそ1ヶ月後のことであった。 おばあちゃんは、とても綺麗好きで几帳面。裏を返せば、心配性で少し頑固なところがあった。早くに旦那さんを亡くし、80代後半で施設に入るまで一人暮らしが長かった。最後の数年は

          寂しさのさえずり

          今年4月に小学校へ入学した甥が、最近になって行き渋るようになったらしい。特に大きな理由はないけれど、学校へ行きたくない。おもしろくない。そんなところのようだ。 日々、1年生と共に学校で過ごしていても、子どもの考えていることや感情の波は、未だによく分からないなと思う。ある失敗を引きずって、1時間おいおいと泣き続けたかと思うと、ちょっと一人にさせていたものの5分でケロッと笑顔をみせたり。自分の失敗を認められず、「先生のせいだ!!」とトイレで泣いて動かなくなった子も、給食を食べた

          寂しさのさえずり

          みじかい襟足

          今日は、とある事情があって、髪を結ばなくてはならなかった。 それは分かっていたし、頭の中で髪を結ぶタイミングまで考えていた。が、肝心のヘアゴムを忘れたことに気づいたのは、出勤途中の車の中だった。 あー、やってしまった。けれど、わたしはこういうとき、心のどこかでどうにかなると思っているものである。脳内で、ヘアゴムの代わりになりそうなもの…と考えるとすぐ、「輪ゴム」が思い浮かんだ。きっと、黒い輪ゴムがあったはず。希望的観測でしかないのに、妙な安心感を得る。もし、あの何色なのかわ

          みじかい襟足

          ままならない6月

          わたしは今、6月の只中にいて、カレンダーの赤い数字を指折り数えている。 祝日がない、じとじととした「陰」な存在の6月を、どう乗り越えるか考えているのだ。 2人で暮らす、ということ自体は案外できていることに驚く。窒息しそうになるかと思いきや、意外とそんなことはなかった。けれど、自分の声を聞く周波数が整わない。奥底の自分が、何を求めて、何に向かおうとしているのか、聞きたくても聞こえないのだ。まるで、チューニングの合わないラジオのつまみを永遠と回し続けているみたいに。 今日こそは

          ままならない6月