児童館は、中高生の「居場所」として十分か?「こどもの居場所」を巡る議論と中央区の現状
今回は、こどもの居場所、特に中高生の居場所としての児童館について。
「児童館」というと未就学から小学生くらいまでのイメージの方が多いのではないでしょうか。実は、中央区内のすべての児童館で中学生、高校生の受け入れも行っており、特に一部の児童館では中高生向けに20時まで開館しています(小学生は17時まで)。各施設での開館時間は下記のとおり。
一方で、行政としてそのように位置づけていることと「当事者たちがそのように理解していること」、そして「実際に利用されていること」とは必ずしもイコールではありません。今回は、特に中高生の観点からこの居場所の現状の課題について考えてみます。
そもそもの、「こどもの居場所」を巡る議論
なぜ必要なの?
どこまで認知度があるのかやや不安ですが、昨年12月にこども家庭庁において「こどもの居場所づくりに関する指針」が閣議決定されました。これは要するに、こどもの居場所が必要なのでそれを作るにあたっての基本的な考え方をまとめようぜ!というもの。
それでは、どういう問題意識に基づいてこの指針が作られたのかという点が気になるわけですが、それはこの指針の概要資料から。
こども家庭庁のスライドは色がどぎつくなくて良いですね。それはさておき、この「背景」にあるのは3点(項番は便宜上、わたしが付けました)。
地域コミュニティでの人間関係は希薄になり、その中に子どもたちが居場所を作るというのは困難になった。また、様々な統計で現れているように児童虐待や不登校・自殺などは軒並み増加しており、現代の子どもたちの育つ環境は決して易しいものではない。さらに、価値観の多様化によって居場所のニーズも多様化している。
いずれも、何となく理解できるところではないでしょうか。こういった背景があるなかで、これらに対応できるような「居場所」が求められているということです。
どういった場所が必要なのか
もう少し、この指針について説明を続けます。この指針の中では居場所づくりを進めるにあたっての4つの基本的な視点を掲げています。それは「ふやす → つなぐ → みがく → ふりかえる」というもの。
いわゆるPDCAサイクルみたいなもので、まずは居場所となるような場所を「ふやす」、そして居場所ができたらそこと子どもを「つなぐ」、さらに利用者との対話やニーズの把握によってより良い場所となるよう「みがく」、最後にこれまでの取組を「ふりかえる」というわけです。
中央区における「こどもの居場所」の現在地
さて、これまでは国の動きを追ってきました。これらの動きがある中で、中央区においてこれらはどの程度実現されているのかという点が本題。
まず現状としては冒頭に挙げたとおり、一応は児童館が「居場所」としての役割を担っているようです。したがって、まずはこの児童館が「居場所」として十分に機能しているのかというところから現状の課題や今後の展開などについての議論を進めていこうと考えて、それが今回の問題提起の背景としてあります。
何が問題なのか
それでは、具体的に現状における問題点として考えられる点を大きく3つ挙げていきます。
問題1:児童館の中高生利用は決して多くない
まず、現在の児童館の利用状況について。「小学生」や「中学生」といった利用種別ごとの利用状況はデータとして存在しております。それの5年分をまとめたのがこちら。
一見して、「未就学」や「小学生」などと比較すると「中学生」「高校生」が少ないのが分かります。この数字は1年間の中央区内すべての児童館を合わせたもの(上のリンクから、児童館ごとのデータも見られます)。
中高生になると部活やバイトなど活動の範囲が広がることから単純に比較はできないにしても、少なくとも言えることは中高生の居場所として児童館が「積極的に使われている場所である!」「十分に機能している!」と言えるわけではないということです。
問題2:若者に特化した施設ではない
次に、施設の位置づけについて、他の先進地域との比較から。
先進的な自治体においては、中高生の居場所という位置づけに特化した施設を作るような取組も生まれています。その一例が、文京区の「青少年プラザビーラボ」。
施設の説明にはこんな記載があります。
学校とも自宅とも違う居場所として、中高生に特化した場所であることが分かります。できることとしては勉強やスポーツといった活動だけでなく、ただくつろぐこともできる居心地の良い場所を目指しているようです。
もう1つの例としては尼崎市立ユース交流センター。これも施設の位置づけや施設内でできることは文京区の例と同じような感じ。
これらの例のように、単にこれまである児童館といった施設を活用するという考え方だけではなく、中高生のニーズを捉えた別の場所を作るという取組も行われ始めているというのが現状。一方で、残念ながらこういった動きは中央区の中には見えないところです。
問題3:当事者である中高生の意見が聞けていない
問題1としてあまり利用が芳しくないこと、問題2としては中高生に特化した施設がないことを挙げました。この根っこにある問題意識は、それが当事者である中高生の声を聞いていないのではないかという点。
あらかじめ話を十分に聞いた上で「どうせ区の施設なんてイケてないから使わねーよ」という声の結果として現状があるのであれば何の問題ありません。しかし、実際にはそのような意見を表明する場所や機会はないという認識です。
そういった場がなければ当事者の意見を聞くことができず、そもそも「居場所」というものを作ろうという機運も生まれないですし、生まれるとしても行政などの側による勝手な思い込みによるイマイチな場所ができてしまうだけでしょう。
今回の質疑
これらの問題意識に基づいて、予算特別委員会で質問したのは以下の3点。
質問したこと
問1:現在の利用状況への見解
データで示したとおり、現状での中高生の児童館利用はイマイチという印象。この件について、中央区がどのようにこの数字を捉えているかについての確認。
問2:こどもの居場所についての課題認識
問1に関連して、現状が中央区として中高生を含めたこどもの居場所の整備として十分であるかどうかという問い。現状でまったく問題ないと考えているのか、何かしら課題を感じている部分があるのかということについての確認。
問3:子どもたちへの意見聴取の状況
最後に、これはこども基本法の大元の部分にもかかわる部分という認識ですが、子どもの意見聴取という件。最終的に現在の状況が十分であるかどうかの判断を行うのは行政でも政治家でもなければ子どもたち自身です。
現状の施策に対する評価や、そこに限らず「もっとこういうことをやりたい!」といったようなニーズを聞くような場が存在するのか(ないという認識だけど)ということです。
回答
上記の問いに対する回答は、おおまかに以下のとおりでした。
利用状況については小学生などと比較するべきものではなく、対象者に対して周知などは行っている(したがって、利用を希望する層は利用できている = 行政としては十分対応できているというロジックか)。そして、児童館に来てくれれば職員が温かく迎えられており、現状において課題はない。また、意見聴取については現在検討中とのこと。
答弁への考察
見解
中央区の見解としては、中高生の場合には絶対数として減るというのはある種仕方ないということで、さらに居場所としての機能への課題はないとのことでした。これらは現時点での区の見解を明らかにしておきたいという意図であって、これはある程度想定していた答え。
重要であるのは繰り返しになりますが行政がどのように考えているかではなくて、結局は子どもたち自身がどのように考えるのかという点。それを明らかにすることで、行政の現状認識とのズレがあるのであれば施策の方向性を転換していくきっかけになります。
この意味で、極めて重要なのが今回の問3として確認した意見聴取の部分。この質疑を行っていた時点では「検討中」とのことだったのですが、その後の子ども・子育て会議で具体的にアンケートを実施することが決まっており具体的な調査項目案まで提示されました。
こういった調査に乗り出すということ自体は素晴らしいことなのですが、問題はこのアンケートで果たしてしっかりと意見聴取が行えるのかという点は大いに疑問で改善の余地が多々あります。問題として考えるのは大きく2点。
問題1.子どもたちの意見を聞くものになってない
まず、根本的な部分として、子どもの意見聴取ができないのではないかという懸念です。設問の多くは、「誰と住んでいるか」「1日をどのように過ごしているか」といった現在の状況や「子どもの権利について知ってますか」といった認知度を聞くようなもの。
「困っていることや悩んでいること」についての設問はあるものの、選択肢を選ぶ形式で詳細を書く欄はありません。
総じて、「意見聴取」というよりは「実態調査」のニュアンスが強いのです(子ども・子育て会議でもまさにこの点を突っ込まれていました)。一応、一番最後に自由記入として「中央区やまわりの大人の人に伝えたいことやお願いしたいこと」という設問がありますが、この場所に置かれてしまってはよほど思いの強い子は自由記入に書くでしょうが、そういった声を拾うだけでは一部の意見でしかありません。
実はこういった点もこども家庭庁では考慮していて(素晴らしい!)、どうやって政策決定過程の中でこどもの意見を反映させていくかについての委員会がが立ち上がって、報告書を出しています。こちらはその一部。
そもそも意見を聴く前には「十分な情報提供や学習機会」「こども・若者によるテーマ設定」が必要というプロセス。こんなプロセスはもちろん現状だと想定されていません。
その上での意見を聴くときのお作法として挙げられているのは4点(項番はほづみが便宜上付けました)。
今回の単一のアンケートという手段だけではいかに不十分であるかがよく分かるかと思います。
問題2.対象者の範囲が狭すぎる
もう1つの問題は、対象者の範囲があまりにも狭すぎるという点。今回の対象者は下記のとおり。
要するに、全体を母数とした調査ではないのです。小学生は「6年生」だけ。中学生は「2年生」だけ。高校生も「2年生」だけ。特に小学校においては1年生から6年生までの発達の程度は大きく異なっていることから当然まったく異なる意見も出てくるはずではありますが、そもそも聞く機会が提供されません。
また、小中については「公立」のみが対象となっています。これも大きな問題で、なぜならば私立に通う子たちは丸ごと対象外になってしまうためです。特に中学校では43%の生徒が私立に通う中央区において、これらの方を無視してしまっては結果も限られたものにならざるを得ないでしょう。
今後の対応
このアンケートについては期待も大きいだけにあれこれ書きすぎて、全体のボリュームが増えすぎたのでまた記事を改めて書こうと思います。
最後に本題に戻りますと、今回取り上げた児童館の課題の根っこはやはり、現状において十分に子どもたちの意見を聴くことができる状態にはないということ。こういった場をいかに設けていくかが今後の課題で、そのような場がうまく政策のプロセスに組み込まれればその議論の中であるべき姿も見えてくるでしょう。
当面の話としては、直近のアンケート実施の中身を今よりも良いものになるよう、働きかけていきたいと思います。今後のあり方についてはわたし自身としても引き続き考えていますが、ご意見などあればぜひお聞かせください。
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