入札監視委員会の「抜け穴」は大丈夫? - 他自治体の事例も踏まえ、対象範囲を広げて透明性と公正性の確保の実現を
ここ数年で、千代田区や江東区で入札行為に関する不正行為があり報道されました。同様の事態を中央区で起こさないよう、将来的にもこれらのような事件が生じないようにあらかじめできることがあればやっておくことが大事と考えております。
今回は、その行政運営にまつわる不正防止の取り組みについての第2回で、入札を監視する外部有識者からなる委員会について。ある「抜け穴」があることが明らかになっており、これは早急に改善すべきと考えております。
第1回はこちらです。
どういう問題?
まず、「中央区入札監視委員会」なるものがあります。
これは中央区の入札及び契約手続における透明性及び公正性を確保するために設置されているもので、 「中央区の入札及び契約手続における透明性及び公正性を確保するため、中央区入札監視委員会を設置しています。」なんてことがWebサイトには書いてあります。
この説明だけを見ると、中央区内の入札が適正に行われているかどうか第三者的にチェックしてくれる機関であるような印象を受けるかと思います。
また、過去の議会でのやり取りにおいて入札制度の改善を提案した際、現状で十分だからやらないといった旨の回答があったのですが、その例示として挙げられたのがこの入札監視委員会でした。
そのときの答弁としては「本区においては、日頃から契約事務の適正処理について全庁的な周知徹底を図るとともに、第三者機関である入札監視委員会において厳正なチェックを受けるなど、入札・契約事務における不祥事の防止に努めております」ということで、素直に読めばこの委員会が入札・契約をしっかり監視していて、不祥事の防止に役立っているように見えます。
これらは一面としては事実ではあるのですが、一部抜け落ちている部分があるよねという点が今回取り上げる問題です。以下、この点について解説していきます。
何が問題?
入札監視委員会の対象範囲
さて、何が問題なのでしょうか。端的に言うと、この委員会が対象とするのは「工事」だけである、ということです。
何のこっちゃとなる方多いかなと思いますので、背景となる部分から説明します。行政における調達のざっくりの括りととしては「工事」と「物品」という分類があります。これは、一例として「東京電子自治体共同運営電子調達サービス」の入札情報に関するページ。
左側の大きなカテゴリで「工事」と「物品」が分かれているのが分かるかと思います。何に根拠があるのかイマイチ不明ですが、こういう分類をしてるのですね。
「工事」についてはその名のとおり工事。道路の舗装や建物の建築、その他工事にかかる設計など。以下は、同サイトの業種選択画面。より詳しい業種がツリー状に表示されます。
もう1方の「物品」の方は、普通の人だとイメージがつきにくい部分。その名のとおりの物品の購入はもちろんこちらの括りなのですが、単純な物品購入以外に印刷や清掃などの「役務」や施設運営や調査などの「業務委託」といったものまで含まれています。いわゆる業務委託という手法はかなり多く行われていますが、これも「物品」なのですね。
これを整理するとこんな感じです。
この前提があった上で冒頭の話を再度しますと、中央区の入札監視委員会が対象としているのはこの左側の「工事」の部分だけ。「物品」の部分は見ていないのです。
これに気付いたのはこの入札監視委員会の議事や資料を見たときに取り扱っている内容が工事にかかるものだけっぽく見えたのがきっかけで、そこから担当部署に確認したところで発覚しました。
入札監視委員会の根拠
とはいえ、諸々の経緯を辿ってみるとすぐさま「違法!」とまで言えるものではないことが分かりました。
というのも、この根拠となる法律は「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」であり、あくまで工事を対象としたものであるため。こちらは、この法律に基づいた対応のためのマニュアルの一部。
この法律においては公共工事の発注者である自治体などの入札や契約のプロセスの透明性確保のために第三者機関の設置が必要とされており、それが中央区にもあるような「入札監視委員会」なのです。法律の名称にあるとおり、その対象は「公共工事」なんです。
他の自治体での運用例
「だったら問題ないやないかい!」という話になるかもですが、そういうわけではありません。というのも、この法律を根拠としつつも様々な自治体では同法の趣旨を踏まえて設置要綱や条例において工事以外の製造の請負、業務の委託、物品の調達等にもその範囲を広げているためです。
わかりやすいのは、この京都府の例。
設置の根拠となっている法律の対象が「工事」であることは理解しつつも、その「趣旨を踏まえ」、「府が発注する建築工事、製造の請負及び物品の買入れ」をその対象範囲としています。要するに、工事のみに限定していないということです。
これは京都府だけではもちろんありません。これは23区での入札監視委員会の対象範囲をひとまずweb上で調べた結果。Web上で要綱などが確認できなかったものは空欄にしていますが、おおよその雰囲気は理解できます。
確認ができた17区のうち、工事のみに限定しているのは中央区を含めた3区のみ。その他の14区は工事以外の調達(業務委託や物品の調達など)も対象としています。
どうすれば良い?
この問題は、これまで書いてきたように入札監視委員会の対象範囲が「工事」のみであること。したがって、他の自治体の事例を踏まえて要綱などを改めてこれらも含めて監査を行うべきということになります。
これは一例としての江東区の入札監視委員会設置要綱。
委員会の所掌について、「工事」だけでなく「工事又は・・・」といった形で対象範囲を書き換えてあげれば良いのです。シンプル。
実運用としては見る範囲が広がって監視すべき入札案件の数も増えることから、委員の増員や対象とする範囲や頻度の見直しなども必要かもしれませんが、まずは要綱などを改めるところからです。
今回のやり取り
質問したこと
これまでの内容を踏まえて、今回質問したのは2点。
問1.現在の対象範囲についての改めての確認
まず、入札監視委員会の対象範囲がどこなのかについての改めての確認。すでに書いたとおり工事以外は見ていないのは担当部署に確認の上で明らかではあるのですが、議事録に残しておくためにまず確認。
問2.対象範囲の拡大
次に、今後の改善について。例示した他の自治体のように「入札契約適正化法」の趣旨を踏まえて工事以外の調達も入札監視委員会の範囲とすべきと思われますので、これに対しての見解の見解を伺うもの。
質問に対する答弁
上記の問いに対する答弁は、以下のとおり。
基本的なことはしっかりやっていて、特に工事に関しては専門的な見地からチェックを依頼しているとの答弁。問1の部分はかろうじて回答しているものの、問2の今後の部分についてはほぼ触れられていないことから再答弁を依頼。その内容がこちら。
他区の不祥事の例もあることから、区としての契約案件について入札監視委員会の委員に意見を聞く、との答弁。少し前向きになりました。ただ、現状の委員は工事を前提とした選任なので人材の選定から必要とのこと。これは仕方ないことかと。
答弁への考察
本件について、「今後改めます!」という明言はなかったものの、再答弁において今後委員に意見を聞いてみること、そして委員の選定についての話も出てきたことから、単なる問題提起だけではなく、少し前に進めることはできたのかなと思います。
文中にも掲載したように、23区という括りで見ても大半は工事以外の調達も対象としていることを踏まえるとこの対応は急務ではないかと考えております。最短では委員の改選のタイミングとなるのでしょうが、それまでチクチクと忘れずに突っ込み続けていきます。
今回の記事についての感想や、その他ご意見などあればぜひお聞かせください。