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【創作大賞2024感想】作品:夢と鰻とオムライス/花丸恵

 創作大賞2024。
 自分の応募作品を投稿したらまず読もうと思っていた、酒本歩先生の「紫に還る」を読了し、さて次は何を読もうかと応募作品をクリックしていく感覚に、百円玉を握りしめて縁日の出店を冷やかして歩いた子供の頃を思い出した。
 創作大賞はお祭りですね。
 気になった作品をクリックし、あらすじを読んで本編を何行か読む。そこでいくつかの作品から離脱。
 良いとか悪いじゃなくて、文章との相性というのはあると思うけど、生意気を言わせてもらえれば、こういう感じだと読み進めてもらえないのかと勉強になる反面教師的な作品もあった。

 そんな中で、Yogiboのソファに座った時のように、体がすぅっと沈み込むような感覚で、全く身構えることなく、気がつくと読み進めていた作品がこれ。

 ファンタジー部門に応募されているけど、完全なファンタジーではなくファンタジー要素のある家族もの。
 家族構成や家業があることなどから絡み合ってしまった感情の糸。
 ボクは人の性格形成には家族構成が大きく作用すると思っている。もちろん親からどういう愛情を受けたかも大きいけど、男同士の兄弟、女同士の姉妹、姉と弟、兄と妹などの構成によって考え方は異なっていくと思う。
 このお話の家族はまさにその典型例で、それを主人公である次男の目線から描いている。

 ボクが読み進められた理由のひとつは、興味があることであったことは間違いないが、もうひとつの理由はやはり文章なのだと思う。
 ボクには文章の上手い下手を論じられる力はないが、これだけ引っ掛かりもなく読ませるというのは、やはり上手いのだと思う。
 一見、なんでもない文章が実は難しいのかもしれないということは、読み進められなかった作品のいくつかが物語っていた。

 話の進め方も全く無理がなく、冗長になることもなく、自然に展開していく。
 読み手にストレスがない。
 視点も主人公からだけなので分かりやすく、各キャラクターの描き方も必要最小限という印象。
 正じいについてはもう少し知りたかったとも思ったけど、読了してみると、あれ以上分かってしまうとリアリティに欠けていたのかもしれないと思った。

 少しだけネタバレしてしまうけど、このリアリティにすっかり主人公に感情移入し、18話の最後で父親が訪ねてきた時には、主人公の瞬太と同じくらい驚いたと思う。驚いただけではなく、嫌な感じや怖さも体感した。
 そして印象的だったのが父親のこのセリフ。

 俺もお前のそういうところが少しだけ怖い。

 このセリフは父親の気持ちになって読むことができた。おそらく同年代だし。
 これはかなり勇気を出して言ってますよね。勇気だけではなく、反省も含みながら、子供に向かってプライドを捨ててさらけ出している。
 そうなんですよ、日常で絡み合った感情の糸をプライドで固めていっているんですよ、いつの間にか。家族ってものはね。
 そのプライドを溶かして剥がし、絡んだ糸を解きたいという意思がこのセリフから感じられる。
 父親がこのセリフを口にしたことで、母親の改革がいかに成功したかもわかるし、それなら兄の慶太も変わっているだろうと期待できる。

 カメラマンの友人が、どんなに有名なカメラマンが撮った写真も、家族のひとりが撮った家族写真には敵わないと言っていた。
 家族にしか見せない表情を家族が撮る。それは非常に個人的なことなんだけど、それと同時に誰もが理解できる普遍的な感情が写っているということ。
 この小説を読んで、そんな写真を見た時のような気持ちになれた。

余談だけど、終盤から母親がどうも脳内で吉田羊になってました(笑)


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