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谷川俊太郎さんの死出の旅路に贈る言葉は「はなむけ」、それとも「たむけ」? 「アクロス・ザ・ユニバース(Across the Universe)


先週は特別編として、11月13日に亡くなられた詩人・谷川俊太郎(*1)さんの死出の旅路への私からの「はなむけ」の言葉をお届けしました。
「はなむけ」と同じような意味の「たむけ」という言葉がありますが、
谷川さんの死出の旅路に贈る言葉は「たむけ」ではなく「はなむけ」の言葉で正しいのでしょうか。

(*1)谷川俊太郎:https://tinyurl.com/yc4dz8fr

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◆「はなむけ」=「馬の鼻向け」
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調べてみると「はなむけ」という言葉は「馬の鼻向け」という日本古来の習慣に由来します。
日本では平安時代より以前の時代から、遠方に旅立つ人を見送る際に道中の無事を祈って、旅人が乗る馬の鼻を目的地の方角に向ける習慣があったと伝えられています。
この習慣を「馬の鼻向け」といい、そこから人の門出や旅立ちを祝って金品や激励の言葉を贈ることを「はなむけ」と称するようになったといわれています。
現在では旅の安全祈願よりも卒業式や結婚式などの晴れやかな門出や、進学や就職などで人生の新たなステップに踏み出す人を祝って贈る言葉や物に使うのが一般的ですね。

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◆「はなむけ」=「餞」あるいは「贐」
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「はなむけ」は漢字で「餞」または「贐」と書きます。
「餞」と「贐」はいずれも訓読みで「はなむけ」と読みます。
でも漢字の成り立ちや意味は違います。
そのため「餞」と「贐」は状況によって使い分けるべきだという考え方もあります。

「餞」という字は「酒や料理でもてなす」という意味の「食」と、「少量」を意味する「戔」という字の組み合わせになります。
そのため「餞」には「ささやかな宴席を設けてお祝いをする」という謙遜に近いニュアンスがあります。

一方、「贐」という字は「お金や宝」を意味する「貝」と、「尽(つきる)」の旧字体の「盡」とを組み合わせた文字になります。 「贐」の意味は「餞」とは逆で「お金が尽きるまで出して、人の門出を盛大に祝うこと」をあらわします。 「餞」と「贐」は読み方も意味も「はなむけ」ですが、たとえば結婚式ではご祝儀に多額のお金を贈るので「はなむけ」の漢字は「餞」よりも「贐」のほうがふさわしいとされています。

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◆「はなむけ」≠「たむけ」
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以上、「はなむけ」は親しい人の門出を見送る言葉ですが一般的に死出の旅路を見送るときには使いません。 お葬式の供え物などは「はなむけ」とは言わず「たむけ」というのが正しいマナーだそうです。 ですから死出の旅路へ贈る言葉は「はなむけ」とは言わず、「たむけ」の言葉と普通は言います。

ただし「たむけ」は葬式専用の言葉ではなく、「はなむけ」と同様に、門出や転出を祝う餞別の意味もあるそうです。
だから「はなむけ」を「たむけ」の意味で使う、つまり死出の旅路に対し使うのは誤用ですが、逆に「はなむけ」の意味で「たむけ」といっても誤用にはならず、たとえば「教師が卒業生一人一人ににたむけの言葉を贈った」という使い方も可能だそうです。

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◆「たむけ」=「手向け」
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「たむけ」は漢字で「手向け」と書きます。 意味は「神仏や死者の霊前にものを供えること」。またはお供えもの自体をいう言葉です。 手を向けて供え物を供えるから「手向け」と言うのでしょう。

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◆谷川さんを送る言葉は「はなむけ」
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では、谷川さんを送る言葉は「はなむけ」の言葉ではなく「たむけ」の言葉でしょうか。
死の旅路は谷川さんにとっては『二十億光年の孤独』(*2)ではなく、むしろ「アクロス・ザ・ユニバース(Across the Universe)(*3)」であり宇宙とのさらなる交感だと私は思います。 ですからあえて「はなむけ」の言葉とさせていただきました。

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