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evelopment(開発・発達)とgrowth(成長・増大)の違いってなんだろう SDGsなどをめぐって
こんにちは。
二年前の1月9日に私のメールマガジン「リベラルアーツ事始め」(https://www.mag2.com/m/0001696198 )にアップした記事を、転載します。
ご高覧いただければ幸いです。
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今回は、国連が掲げる人類共通の目標、SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)を単なるバズワードにしないために、development(開発・発達)という言葉とgrowth(成長・増大)という言葉の違いなどに注目して考えていきます。
◆成長の限界、人類は「ゆでガエル現象」に陥っているか
はたして人類はわれわれの孫の世代まで生存できるのかといった危機感から、世界がかかえる複雑に絡んだ問題の分析に取り組でいる研究機関「ローマクラブ(*1)」が発足してもう50年以上たちます。
ローマクラブが資源と地球の有限性に着目し、マサチューセッツ工科大学の環境学者デニス・メドウズ(*2)を主査とする国際チームに委託して、コンピューター・シミュレーションを駆使した「システムダイナミクス(*3)」の手法を使用してとりまとめた研究報告書「成長の限界(*4)」は、1972年に発表されました。
内容は「21世紀中には人口と経済の成長が地球の限界を超えるため、ただちに手を打って崩壊を回避しなくてはならない」というその衝撃的なもので、世界中で大変な反響を呼びました。
しかし、切迫する環境問題・気候危機、格差拡大、米中の経済戦争・覇権争い、エネルギー問題、領土問題、民族の対立による紛争などをかかえつつ、私たちはただちに手を打って崩壊を回避しようとしてきたでしょうか。
カエルは、いきなり熱湯に入れると驚いて逃げ出しますが、常温の水に入れて水温を上げていくと逃げ出すタイミングを失い最後には死んでゆでガエルになってしまうという、現実にはありえない作り話のような状況に人類は陥っていないでしょうか。
人間の活動が環境に取り返しのつかない影響を及ぼすという共通認識はみんな持っているのは間違いありません。
しかし、その解決策、特に経済成長の抑制を伴う解決策に関しては、研究者など強い影響力持つ人々、政治家や企業のトップなど決定力を持つ人々の間で意見が分かれています。この意見の相違が行動を妨げているのです。
世界が必要としているのは、この論争よりも重要な目標、つまり、壊滅的な環境破壊を食い止め、すべての人類の幸福度を高めるという目標を一刻も早く策定し、実行・実現することでしょう。
例えば、2015年9月25日に国連総会で加盟国の全会一致で採択されたSDGs(*5)は、「成長の限界」への答えとして素晴らしい内容です。
SDGsに積極的に取り組んでいると発表している企業なども多く、SDGsバッチを襟元に着けたサラリーパーソンもよく見かけますが、単に目標を掲げるだけではなく、十分な実効性をともなった取り組みにならなくてはなりません。
(*1)ローマクラブ:https://is.gd/ZUIsKf
(*2)デニス・メドウズ:https://is.gd/TSNFSU
(*3)システムダイナミクス:https://is.gd/GxeeGL
(*4)成長の限界:https://is.gd/FHzS2o
(*5)SDGs:https://is.gd/AVPgbO
◆民主主義は自由経済の概念とは何のゆかりもない
その「成長の限界」を共同執筆し、未来に世界が抱える数々の問題を指摘した経済・社会予測専門家のヨルゲン・ランダース(*6)は2020年1月1日にネットにアップされたインタビュー「未来予測の大家 ヨルゲン・ランダース教授が語る、資本主義と環境問題の相関」の中で「民主主義は自由経済の概念とは何のゆかりもない」と語っています。
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私は民主主義と自由競争がリンクしている社会を見たことがありません。
民主主義だからこそ自由経済が保たれている? いや、そんなことはない。
あたかも民主主義という概念を背景に自由市場が展開してきたかのように語られ、信じ込まされているだけです。
たとえば、本当の資本家というのは民主主義的な人でしょうか?
民主主義は自由経済の概念とは何のゆかりもないのです。
過去40年間、国々はマーケットを自由化してきた。つまり国家の力を意図的に脆弱化させてきたのです。
資本家は存分に自らの力を発揮し、富裕層はさらに豊かになっていくという構造が生まれ、大きな不平等を生んでしまった。(https://is.gd/q4ctmM)
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(*6)ヨルゲン・ランダース:https://is.gd/OcCPOv
現状は、ハイパーグローバリゼーションと国民国家(ネーション・ステート)と民主政治のトリレンマや自己植民地化が進んでいます。
トリレンマや自己植民地化についてはまた回を改めて考えていきますが、マーケットの網の目が地球を覆いつくしたハイパーグローバリゼーションは、皮肉なことに世界が強固につながってしまったことによる格差や分断をいたるところに生んでいます。
◆自由経済≒欲望の果てしなき拡大再生産に抗するグリーンムーブメントの第3の波
自由経済≒資本主義経済を駆動させる人間の「欲望」はある意味、ゴールのない「the more…the more…」。
ランダースは同じインタビューで次のようにも語っています。
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70年代にグリーンムーブメントが起こり、アースデイが開催され、国に環境省が設置されました。
環境問題への関心は大いに高まりましたが、80年代には一気に忘れられました。
そして20年前に第2波が来た。
今がグレタ・トゥーンベリさんで、それは第3波がやって来ただけのこと。
人間とは、非常に短期的視野でしか生きられない存在なのですよ。今日のことしか関心がなく、次世代の未来まで見越して献身する人はごく稀です。
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私は1970年代の第1波のころより、もっと切実さが増していて、グレタ・トゥーンベリさんに代表される昨今のグリーンムーブメントは、三度目の正直だと考えています。
なお、彼は自由経済≒欲望の果てしなき拡大再生産に抗してこれから持つべきビジョンについては以下のように語っています。
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192カ国が批准したSDGsの17の目標を達成できるよう行動することです。そのためには気候変動、貧困、不平等を取り除いていくことが必要です。
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私は、斎藤幸平氏(*7)が主張するように「SDGs」は企業や国家にとりおためごかしのある種の自己欺瞞になりかねない懸念があると考えていますが、17の目標自体は本当に重要です。
(*7)「SDGsは大衆のアヘン」グレタ トゥーンベリさん世代に向けて 「人新世の『資本論』」を書いた。斎藤幸平さんが伝えたかったこと:https://is.gd/JrKnDP
国際連合広報センターは、SDGsに関して以下のような発表をしています。
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持続可能な開発目標(SDGs)とは、すべての人々にとってよりよい、より持続可能な未来を築くための青写真です。貧困や不平等、気候変動、環境劣化、繁栄、平和と公正など、私たちが直面するグローバルな諸課題の解決を目指します。SDGsの目標は相互に関連しています。誰一人置き去りにしないために、2030年までに各目標・ターゲットを達成することが重要です。
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*詳しくは、SDGs:https://is.gd/AVPgbO
◆development(開発・発達)とgrowth(成長・増大)
ではこのSustainable Development Goals、持続可能な開発目標)で使われている「development」はどのような意味を持つ言葉なのでしょう。
経済や社会でも持続可能性の分野でも、よく使われるgrowth とdevelopment の違いは何でしょう。
「サステナブル・ディベロップメント(sustainable development)」とは言うが、「サステナブル・グロース(sustainable growth)」という言葉は、企業の事業活動、経営経計画などで使われるくらいです。
つまり、経済成長は、エコノミック・グロース(economic growth)。
何が違うのでしょう?
辞書を引いてみると、たとえば、
growth:成長、普及、増加、増大
development:発達、発展、進展、進歩、成果、開発
とあります。
◆「成長」はgrowth。「発達」はdevelopment。
アル・ゴア『不都合な真実』(*8)の翻訳者としても知られる環境ジャーナリストの枝廣淳子さん(*9)の見解をまとめて記しておきます。
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「子どもの育つ姿」を表す言葉。
・身長が伸びる(成長)
・体重が増える(成長)
・知恵がつく(発達)
・感情が芽生える(発達)
・心肺機能がしっかりしてくる(発達)
◆「growth」は量の変化で測定可能。「development」は質の変化・測定不能な変化も多い。
「成長(growth)」は言ってみれば、形態学的な量の変化で、その変化は手軽に測ることができる。単に生物学的に増大していく現象です。
「発達(development)」は、質の変化といえるでしょう。
人間としての機能などが大人のレベルに向かって向上していくこと。測定できない微妙な変化も多く、経験・練習・訓練・教育などの「学習」によって、基本的な生物学的現象に付加される人間にとってとても重要なものも含まれています。
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(*8)アル・ゴア『不都合な真実』https://is.gd/z1ABpY
(*9)枝廣淳子:https://is.gd/XQgKut
「成長の限界」、2作目の「限界を超えて」に続くシリーズ3作目『成長の限界 人類の選択』を2005年に出版したヨルゲン・ランダース、デニス・メドウズさんたちは、前書『限界を超えて(訳:枝廣淳子)』で、以下のように述べています。
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本書のなかで最も重要なのが、「成長(growth)」と「発展(development)」の区別である。・・・何かが成長するときには、量的に大きくなり、発展するときには、質的に良くなるか、少なくとも質的に変化する。量的な成長と、質的な改善は、まったく異なる法則に従っている。・・・この二語以上に明確な区別を必要とする言葉はないと考えている。両者を区別することで、成長に限界はあっても、発展には限界のないことが示されるからである。
地球は有限で成長しないから、そのサブシステムである経済も、無限に成長することはありえない。
量的な成長ではなく、質的な発展を求める経済や社会への転換を急ぐ必要がある。
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◆成長(増大)と発展(開発・発達)のデカップリング
成長と発展のカップリングはもはやありえないということ・・・。
ということは、SDGsのDevelopmentも「開発」ではなく「発達」のほうが訳としてふさわしいのかもしれない。
最も一般的な「開発」の意味は、土地・鉱産物・水力などの天然資源を活用して、農場・工場・住宅などをつくり、その地域の産業や交通を盛んにすること。「資源開発」、「新商品の開発」などなど・・・。
これに限界が来ているのですから。
持続的開発ではなく私たち自身がもっと発達していくべきなのかもしれません。
◆「開発」は仏教用語で、「かいほつ」と読む
もっとも開発の語源は仏教用語で、「かいほつ」と読み、仏性を開き発(ほっ)せしめること。つまり「他人を悟らせること」、「内心に潜んだ仏への心に目覚めること」を「開発」というそうです。
つまり、天然資源と同様に自分の中に本来そなわっている能力を新しく起動させるはたらきが「開発」の本義だということです。
私たちは、もっともっと「開発(かいはつ)」ならぬ「開発(かいほつ)」されていく、ないしはしていく努力を怠ってはならないでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
あなたは、SDGsについてどうお考えでしょうか。