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脳の構造は変えられる?2 <習慣化した思考パターン>

前回「脳の構造は変えられる?1」では、習慣化思考パターンによって、それに対応する神経回路が反復して使われることにより強化されていく仕組みを解説いたしました。

今回は、神経回路が実際に私たちの生活にどのように影響するのか、長年うつ病と不安症に苦しんできたEさん(35歳・女性・会社員)の事例を使って具体的に考えてみましょう。

Eさんは中学生くらいからずっと鬱々とした気持ちや不安な気持ちを抱えて悩んできました。生活面では特に大きな問題は何一つないのですが、いつもどこか不幸せな気持ちが強く、幸せを感じることが難しいと感じていました。この状況を変えて、幸せを感じて生きていきたい、とセラピーに通うようになりました。セラピーを重ねる中で、ある日、私はEさんに次のようなお願いをしました。

「毎日どんなことを考え・感じているか、気にかけてみてください。そして次回のセラピーで、どんなことに気が付いたか教えて下さい」

その日から、Eさんはふとしたときにご自身が何を考え・感じているか気に留めるようになりました。朝起きたとき、歯を磨いているとき、仕事をしているとき、料理をしているとき、食べているとき...と注意を払い、Eさんは気が付いたことをメモして私に見せてくださいました。そしてEさんは次のようにお話してくださいました。

「自分の思考や感情は想像以上にネガティブなものばかりでびっくりしました。
『自分は要領が悪くて仕事ができない』
『私は暗いから誰も好きになってくれない』
『上司がうざい』
『私の人生って何の意味があるんだろう…』
そんなことを朝起きてから夜寝るまでひっきりになしに考えていて、それに伴って自己嫌悪、虚無感、悲しみ、孤独、憎悪等を感じました。」

Eさんはご自身の思考・感情のパターンに注意を払うことで、どれだけ普段ネガティブなことを考えているかを発見しました。このことから、おそらく、Eさんの脳内ではネガティブなことを考える神経回路がポシティブなことを考える回路よりも発達し、外界からの刺激をネガティブに捉える癖がついているのではないかと推測できます。

例えば、Eさんは先日、親しい友達の一人と2ヶ月ほど連絡を取っていないことに気が付きました。その途端、Eさんは、自分が何か気に障ることをしたり、言ったりして、その友達に嫌われているのではないかと気になり始め、次第に他の友達たちにも自分は好かれていないのではないかとどんどん不安になり、「自分は好かれない・愛されない人間だ」「自分はどこかおかしいんだ」と自己嫌悪に陥ってしまったといいます。

もし同じ状況にポジティブ思考の人が置かれたら、Eさんとは異なる反応を示したかもしれません。友達と連絡を取っていなかった理由を、お互いに忙しかったから最近連絡取ってなかった、といった外的要因に見出し、久しぶりに連絡をとってみよう、と考えるかもしれません。

そして実際に、Eさんの友達はこの2ヶ月、急な出張が入ったり、その後、風邪を引いたりして連絡をする余裕がなかったことが分かり、Eさんの苦悩は杞憂に終わったのでした。

このように、ネガティブに考える癖がついていると、本来はニュートラルな事象を悪い方に捉えて余計な苦しみを抱えてしまうことがあるようです。

今回の事例では本題から逸れるため割愛しましたが、通常セラピーでは、思考・感情パターンを解明するために、日々の出来事から幼少期の経験や家族関係に至るまで幅広く時間をかけて探っていきます。馴染み深いパターンには自分自身で気が付くことが難しい場合もあります。Eさんが試みたように、日々どのように考え・感じているかに関心を払い、気付きを書き出すのはとても効果的な方法ですが、難しさを感じた場合にはセラピストに相談してみるのもいいかもしれません。

ご自身が想像以上にネガティブなことばかり考えている場合、それに気が付いたときにショックを受けたり、絶望感を感じることがあるかもしれません。しかし、日々の心掛けとちょっとした習慣で、脳の構造は少しずつ変えていくことができます。次回以降、脳の変化に関するこれまでの研究結果や脳を変えるためのトレーニング方法をご紹介していきますのでご興味がある方はご覧ください。

次回、『脳の構造は変えられる?3 <脳と幸せ・幸福度の既定値とは>』では、幸せ・不幸を感じているときに脳ではどのような活動が行われているのか、そして「幸福度の既定値」という概念をご紹介します。

長谷川由紀

☆おことわり☆
本ブログ内の記事は、精神科・心療内科等での治療を代替するものではありません。必要に応じて医師・心理カウンセラー等に直接ご相談ください。
また、本ブログの事例にて紹介されている人物や状況は、全て架空のものです。セッションを通して伺ったお話をブログにて公開することはありません。

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