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小説「ムメイの花」 #46繚乱の花(最終話)

朝の日課。
家の前に立つ。
右手には1本の花。

首からはデルタのカメラを下げている。


今日、僕はこれから地球へ向かう。

僕のおじいちゃんや
大好きなデルタも
地球に行ったとされている。

そして地球には
見ると必ず感動するという
花が咲いているらしい。

地球人の言葉が理解できるか、
正直他にも不安はたくさん。

だけどそんな花が咲く場所に住む地球人だ。

困ったときにはこの右手の花を差し出そう。
きっとこころを開いてくれるに違いない。


ブラボーとチャーリーに
挨拶をしてから行こうとは思うものの、
今朝2人の姿はまだ見えていなかった。

実は2人に隠していることがある。
僕はロケットに携わる家系なのに、
ロケット自体、生まれて初めて乗る。

まあ、まだ内緒にしておこう。


ロケットが地球に向かって
次々と打ち上がっていく。
僕が乗る予定の時間まであと少し。

空を見上げていると
ゴーっという音と共に風が吹いた。

始めは微風だったのが
あっという間に強風に。
目を開けていることなんてできない。

同時に強い風に乗って甘くて心地良く、
優しい香りが僕の鼻に届いた。



強く目を瞑っていると
誰かの気配を感じる。

「そこにいるのはブラボー?」

返事はない。

やっとの想いで薄く目を開けると
辺りには無数の花びらが舞っている。

花びらが舞う空間の中、
ハットを被った髪の長いオトコが立っていた。
ハットが深すぎて顔を見ることはできない。

オトコは僕の方へ近寄ってくる。

普通なら恐怖が芽生えるはずが、
安心していられた。

それはオトコが近寄るにつれて
癒しと安らぎを感じ、ふわり
体が吸い込まれる感覚だったから。

初めて会ったようにも思えず、
懐かしささえ感じていた。



さらに風は強まる。

目を薄くだろうと開けていられず、
さらに強く瞑った。

目を思いっきり瞑っていると、
全身が温かさと存在感のある重さ、
心地良いチカラの強さで圧迫された。

僕は今、抱きしめられている……。



耳元でオトコは優しく囁く。

「ハナヲ ミヨ」
「あの言葉のオトコ?!」

無理をして目を薄く開けると、
徐々に風は弱まっていった。

全身で感じていた温かさも次第に消え、
いつもの僕の体の感覚に戻る。



目を完全に開けられるようになると
あんなに舞っていた花びらは
1枚も残っていなかった。

オトコの姿もない。



僕は右手の花を見た。
右手の花に変わったことはなく、
僕をただ見上げて咲いていた。


今の出来事は生涯忘れることはないだろう。

今日を迎えられたことを
こころから有り難く思い、
僕はぱんぱん、ありがとうをした。



そろそろブラボーとチャーリーが
現れるはず。
感動的なお別れの挨拶でも考えておこうか。


もう一度空を見上げると、
さっき打ち上げられたロケットが
僕に向かって来るように見えた。

ロケットも僕を歓迎してくれているようで、
お迎えに来てくれたんだね。


「みんな、こころからありがとう。
 僕は地球へ行……」

-END-

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