趣味で凍死しそうになる。
私の趣味は因果な趣味だと思います。蝶の卵のために死すなんて洒落にもなりません。
あんた、馬鹿じゃないのと言われそうです。いかに人間、欲に目が眩むと周りが見えなくなるかという事です。
冬山の大雪のなか、雪が深く積もったバス道を登っている時、道の脇にミズナラの大木があり、いかにもお目当てのゼフィルスのアイノミドリシジミという蝶が卵を産みそうな木がありました。道から下を覗くと崖になっていてしかし少し足場が有りました。バス道から降りても背が届いて登ってこれそうな所に見えました。危険とは思いましたがアイノミドリシジミの卵が取れるという誘惑には勝てませんでした。そこの足場は雪が積もっていましたが、何とか又バス道へ登って戻れると判断し友と2人で降りたのです。
しかしこれが運のつきでした。
固いと思った雪が新雪でズブズブと底無し沼のように足が沈んでいってしまったのです。
しまったと思った時はもう遅かったのです。慌てて手を伸ばしても勿論道に届きません。登れなくなってしまったのです。周りは崖。右にも左にも逃げられません。まさに完全に身動きがとれなくなってしまったのです。
時は夕方、深々と冷え込んで来ます。絶体絶命です。こんな所で凍死するなんてついさっきまで思いも及びませんでした。人は勿論、車だってこんな大雪の中通らないでしょう。身体極まりました。
手足がかじかみ、こたつでミカンでも食べてればよかったと後悔しました。何故か母の顔が浮かびました。
しかしこういう時こそ人間、頭を使うべきだと思いました。左へ行ったり右へ行ったりして友と思案にくれている時、はたと気付きました。道へ登るには、ようは踏み台があればいいんだと。
そこで友の肩の上に登山靴で、友も痛かったでしょうが崖上のバス道へ私がよじ登る事にしました。上手くいきました。今度は私が友をひっぱり上げました。渾身の力を絞って引き上げました。やっと2人とも道へ出られました。その時の嬉しかった事。何故か2人とも笑い合いました。しかしもし私1人だったら絶対に助からなかったでしょう。
後で何でこんな所で凍死してるんだと言われてしまう所でした。
人間欲をかくと、ろくな事が起きません。そしてどんな時も、人間、頭があるのだから頭を使うべきです。しかし人のやらない趣味はそれだけ危険がともなうという事も多いに気付かされました。