まだ地球に降りてくるまえのこと 私達は綺麗な丸い玉で 言葉はもたず テレパシーで通じていた 自由で 楽しく 笑いに満ちた日々 その時がやって来た 母となる人を選び あの方に許しを得て どのように生きていくのか 宣言し 地上へと降りる ここでの記憶は封印されていた しかし 気づき始めた人々は 自由に往き来する術を知る 私達は ずっと繋がっている (イラスト saku)
ひとつのことに捕らわれて 自分から どんどん離れていっていることに 気がつかず 過去のせいにして 誰かのせいにして 悲劇のヒロインになって 誰の言葉も耳に入らず 孤独 そんな時でさえ まだ 良い人を演じるの? 時には 溢れ出す感情のままに 子どものように泣きじゃくって マシンガンのように言霊を発射して 内側にあったものを吐き出したら 目線の先に きっと青空 「大丈夫、落ち着いて」 ゆっくり深呼吸
何度も繰り返し 見える光景 意識がはっきりしている時も 眠っている間も 気づくと海の中にいて 必死で泳いでいる ブロンド髪のマーメイド あれは いつしかの自分 仲間の元へ 急ぐ たった一人 大海の中を突き進んでいく 怖さと不安を振り払い 強い闘志を胸に秘め ひたすら 泳ぎ続ける 前へ
桜の木の下で あなたを待つの いつもは寝坊ばかりしているけれど 今日は早起き 昨日の夜は 着ていく服を選ぶために 何時間も悩んで 1人ファッションショー あなたに逢うために 丁寧に髪をセットして メイクはナチュラルに あなたがくれた 桜色のリップ 気づいてくれるかな? 「可愛い」って言ってくれるかな? もうすぐあなたがやってくる 鼓動がどんどん速くなる あなたに逢ったら なんて言おう あまのじゃくな私だか
うっ・・・ぐっ・・桜花ぁ」 読み終えると、堪えていた涙が溢れだした。 手紙を抱きしめて人目も憚らず、泣いた。 そして、彼女が笑顔の裏で抱えていた気持ちに気づけなかった自分を責めた。 (逢いたいよ、君に。もう一度桜花に逢いたい) 身体中の水分が全て無くなってしまうのではないか、と思うほど、泣いた。 どんなに泣いたって、桜花はもう現れないのに。 ひとしきり泣いて、泣き腫らした不細工な僕は、ふらふらと桜並木を歩き出した。 こんなにも悲しいのに、桜は一瞬の輝きのために咲き誇っ
結局一睡もできないまま、簡単に身支度を済ませ、桜花からの手紙を握りしめてホテルを出た。 暖かな日差しがきつい。 いっそ雨でも降ってしまえばいいのに。 桜花のいないこの町に、もういる意味なんてない。 満開の桜を見るために、たくさんの人で溢れている。 人込みから外れ、桜花と最初に話した土手に座り、川の流れを眺めていた。 握りしめていた手紙は、クシャクシャになっていた。 手でしわを伸ばし、ゆっくりと封を開ける。 綺麗に折りたたまれた便箋と、桜をモチーフにした、この町のゆるキ
一日待っていたけれど、桜花は来なかった。 約束を忘れてしまったのだろうか? それとも、最初から来るつもりはなかったのだろうか? もう、僕の事を覚えていないのだろうか? 感情がぐちゃぐちゃなまま、とぼとぼとホテルへ向かった。 フロントでキーを受け取り、部屋へ行こうとした時、清掃員の女性が話しかけてきた。 「人違いだったらごめんなさい。 あなた・・・もしかして、智史君?」 「はい、そうですけど」 すると、清掃員の女性が涙目になり 「そう、あなたが」 僕の顔をまじまじと
別れの日。 駅のベンチで電車を待つ。 「本当にありがとう。楽しかったよ。君に逢えて良かった」 「私も。来年、またここで待ってる」 連絡先を聞こうとして、携帯を取り出した手を、桜花が止めた。 「そういう繋がりじゃなくてもいいでしょう?私達。いつでも連絡出来たら、再会の楽しみがなくなっちゃう」 「・・・わかった」 「逢えない時間が愛を育てるって、ねっ?」 悪戯っ子のような桜花の微笑。 その代わりにと、桜花は手紙をくれた。 「そろそろ行かなくちゃ」 僕は手紙をリュックに
二日目の朝。 彼女は時間よりも早く着いていた。 軽自動車で迎えに来た彼女は、僕の姿を見つけると、満面の笑みで手を振っていた。 助手席に乗り込んだ僕に 「おはよう。昨日は眠れた?」 と彼女。 「うん。たくさん歩いたからグッスリ眠れたよ」 「良かった。じゃ、出発するね。どこに行くのかは、お楽しみに」 そう言うと、車はゆっくりと走り出した。 彼女は色々な所に連れて行ってくれた。 彼女の通った学校、行きつけの店、お気に入りのスポット。 夕暮れの頃、一番のお気に入りスポットへ僕を誘
いつの間にか、僕達は隣町まで歩いていた。 「あー喋り過ぎて喉乾いちゃった。この先にファミレスあるから行こう」 桜花は僕の手を取って、走り出した。 「おい、ちょっと・・」 お構いなしにどんどん進んでいく。 (彼女のペースにのまれているな) 僕は、心の中で苦笑した。 ファミレスでドリンクバーを注文し、一息つくと 「今日はたくさん歩いたね、疲れた?」 顔を覗き込んで訊いてくる桜花。 「ちょっとね、普段あんまり歩かないから」 「そっか、私はいつも一人で歩いていたから、今日は智
「ねぇ、まだ時間ある?もう少し話さない?」 彼女の誘いに僕は頷いた。 土手に座り、しばらく無言で景色を眺めていた。 何をどう切り出していいのかわからずにいると、彼女が口を開いた。 「どこから来たの?」 「東京」 「そうなんだ・・・私、まだ行ったことないんだよね、東京」 「そんなに変わらないよ。ここも素敵なところだね」 「ありがとう。私、この町が好きなの。特に桜の咲く、この季節が」 彼女の隣で、僕はゆっくりと頷いた。 「いつか東京においでよ!その時は、僕が案内するよ
駅へ降り立つと、たくさんの人で溢れていた。 ゆっくり深呼吸すると、知らない土地の香りが広がる。 駅の近くに、彼女がいた桜の名所があった。 ちょうど見頃を迎えた桜の花が、長く連なっていた。 僕は、人の流れに乗って歩き始めた。 桜を写す川の水面と遠くに見える残雪残る山。 自然が創り出す美しさに感動していた。 桜並木をしばらく歩いて行くと、前方にいる人陰に目を奪われた。 (彼女だ) そう思った。 僕が見た、いつかのポスターと同じように、白いワンピースのその女性は、細
桜の花が咲く頃、僕には蘇ってくる思い出がある。 何の夢もなくて、何もしないうちに時間だけが過ぎていく日々。 大学生活も半分が過ぎ、このままで良いのだろうか? 漠然とした不安を抱えて生きていたあの頃。 ある日、ぶらぶらと町を歩いていた僕の目に飛び込んできた一枚のポスター。 旅行会社の壁に貼ってあった、地方のポスターの中の写真が、僕を捉えて離さなかった。 桜と共にその写真に写っていた女性が魅力的で、キラキラと輝いているように見えた。 そう、きっと僕は恋をしたん
こんなはずじゃなかったのに 何の疑いもなく この愛はずっと続くものだと信じていた あの頃 いつからだろう 笑いあえなくなったのは いつからだろう 支えあえなくなったのは いつからだろう 愛し合えなくなったのは 嘘が上手くなる俺と 嘘を責めない彼女 ちょっとしたすれ違いが 俺たちの愛のカタチを変えた これが今の愛のカタチ 「終わりにしよう」 たった七文字が言えなくて 今にも消えそうな愛にしがみついている
どこで間違えた? 何が悪かった? 急に世界が歪み始め 色を失くした 見えない境界線に阻まれ 進むことができない 感情はないのに 涙が溢れる 麻痺した心とからだ 何をしても 誰といても 孤独しか感じない 心配して向けられた言葉も 耳には届かない 生きているのか 死んでいるのか 歪んだ世界の中で それでも時間は過ぎていく 少女の腕についた傷は