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【小説】Interviews ( After C-2024 ) .6
2024.9
光と虫)
「拓生くんのしている学習の中で、楽しいのは何?」
「面白いなって思っているのは昆虫の生活と行動について調べること。友達と一緒にやってます」
「どんな点に興味があって始めたの?」
「興味を持ったきっかけは保育園のころから虫を見るのが好きだったこと。それにそのあと、薬が出来たじゃないですか。虫から。あれをテレビで見た時に、凄い!って思って。」
“Cウイルスに効果が見込める(可能性がある)”として2020年5月以降、日本だけでなく世界中で既存薬の認可や新薬の開発が進み、260億ドルにも及ぶ巨額の投資が行われた。
開発には製薬会社だけではなくテック企業(主にAI関連)が共同で分析・開発を進めるケースが増え、世界中で期待が高まったが、ウイルスが各地の気候(主に湿度の変化)により変異を始めたことで、遅々として進まなかった。
その間にも、一時は拡大が収束したかに見えた各国の大型都市で、ほぼ同時期にクラスターが発生し、津波のように巨大な“第2波”は医療崩壊を再び招くことになった。
(この時期、SNSを通じて広まった民間療法や誤った情報による対処が、特に途上国を中心に感染者・重傷者を増加させた)
新型ウイルスに対するワクチンの開発に差し込んだ光は、思いもよらないところからだった。
「皆がめちゃめちゃ嫌ってた“あの虫“から、人間を救う薬が出来るって、なんか凄く面白かった。うちのお母さんなんて、家に出たら未だに悲鳴上げるけど、ほんとは感謝しなくちゃですよね」
私も“あの虫”は大の苦手なので、お母さんの気持ちはとてもよくわかる。あの素早い動き、触覚の長さ、脂分でテカる黒い身体、静かな部屋では鳴き声(身体の軋み?)が聞こえる様子・・・。思い出しただけでどんよりした気持ちになる。
“あの虫”の消化器系の中には、何のために存在するのかわからない器官があり、その中には一種の細菌が存在していることがわかった。
その細菌には、他の細菌やウイルスが宿主の中で自らを増殖させるのを『完全に止める』機能と、逆に『爆発的に増殖させるのを助ける』機能の両方があることが分かった。
この発見により新薬の開発は一気に進み、南米、アフリカの一部の地域を除き、現在ではほぼ世界的にも収束している。
これをきっかけに昆虫の生態についての研究が大きく進むことになる。
おかげで『食用』として日本でも流通する予定だったコオロギの中には、アレルギーの症状を悪化させる成分が含まれていたことがわかったし、
巣の中でシロアリの王と女王だけが食べることができるゼリーに似た物質から、若返りを促す成分が発見され、各企業がこぞって商品化を進めることとなった。
現に今、彼と私が飲んでいるのは、名前こそ “コーヒー” だが従来のコーヒー豆は使われていない。