ライター仕事を思い出し、ニューヨークのブックオフで涙ぐんだ。

長い通学時間を埋めるべく、本を探しにブックオフに行った。

ところが、店内はフィギュアとゲームと英語の本ばかりで、日本語の本は2列のみ。若干ガッカリしながら棚を見ていると、目線の高さに、重松清氏の「その日の前に」を見つけて、涙ぐんでしまった。

実はこの本は、故・大林宣彦監督が映画にした本で、公開前に試写を見て、大林監督にインタビューに行き記事を書いた。
ライター生活の中でも、印象に残っているお仕事なのだ。

当初、45分の約束でインタビューが始まったのだが、監督はしょっぱなからノリノリで、独演が止まらず、私が質問する隙が全くなかった。
何も質問ができないまま、1時間、1時間半と過ぎていく。
途中で1度、無理やり質問を挟んだのだが、話を折ってしまって、
一瞬監督の話が止まってしまい、余計な事をしてしまった。
けれども、内心このままではマズイと思い、机の下で、隣に座っている編集者とカメラマンにSOSを出したのだが、2人とも困った表情のまま固まっていた。監督のあまりに熱の入った話っぷりに、どうしても遮ることができなかったのだ。

2時間近く経った時、ふと監督の後ろの廊下に、ズラリと並んだ、
次の取材陣たちが見えた。どうしよう、でも、こんなに熱弁している監督を遮るのは……。
困っていると、隣の部屋から奥様が出ていらして、
「監督、お時間過ぎてますよ」
と言ってくださり、内心、ああ、助かったと、
編集者共々、胸をなでおろした。

ところが、写真撮影が始まると、今度は映画で使った小道具を次々に出してきて、1つ1つカメラに見せながら、説明が始まった。

結局、45分の約束が3時間になり、大勢の取材陣を待たせ、文字起こしされた数万文字は、5000文字に収まった。
その時のボイスレコーダーの音声は、ニューヨークに来る直前まで、
削除することができなかった。

その後、編集者と少々バトルになり、出版社は破綻し、裁判所関連でやりとりがあるなど、監督以外でも諸々あった。
私生活でもすったもんだあり、毎日生活することに必死だった。

Manhattanのブックオフで、ふいに目の前に現れた書籍に、
当時、ライターとして奮闘していた事が、一気にブワーと思い出されて、
ジーンとして涙ぐんでしまった。

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YUKIE
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