叶わなかった1人気ままなManhattan
日曜日の朝。
今日もエリパパ(ホストファザー)が淹れてくれたコーヒーから、
1日が始まる。
食卓のiPadには、テレビ電話が繋がっており、画面には品の良い初老の女性が映っていた。子どもたちが日常会話をしていたので、すぐにエリパパの母親であることが分かった。
「Nice to meet you.My name is YUKIE」
と挨拶をした。私より少し年上だろう。ほのぼのとした日曜の朝だった。
けれど、私の休日の予定が、ここから一気に崩れていく。
住んでいるところがあまりにも田舎過ぎて、週末はほぼ電車が止まり、
みな車移動の生活をしている。購買意欲がわかない、古びた小さな商店はあるが、欲しい物はすぐには手に入れられない。
私のように、休日はManhattanに繰り出したいと思っている人間には、
何とも面倒な街である。
そんな私が欲しい物とは、スリッパや爪楊枝立てなど、日本に居たら簡単に買える物。けれど、ここではわざわざもう少し街か、いっそのことManhattanに出なければならない。
元々、Manhattanのダイソーと無印良品に行きたいことを、ホストに伝えてあった。電車が止まっているため、バスを使って走っている路線まで出なければならないので面倒だが、Manhattanに出られる嬉しさと、一人気ままに出かけられるワクワクで楽しみにしていた。
ところが、ホストファミリーもManhattanに行くので、一緒に車で行こうと言われた。気乗りしなかったが、同じところに行くのに、私だけバスと電車で行くのはおかしい。別にホストファミリーが嫌なわけではないが、1人でManhattanを楽しみたかったのだ。けれど、小心者ゆえ、そのことをホストには言えなかった。そして、機転の利かないアンポンタンYUKIEは、とっさに、嘘も方便が使えなかった。何よりホストファミリーが善意で声掛けをしてくれたことが分かっていた。
気持ちを切り替え、チャイルドケアもできるし、車でManhattanに行けることも、楽しもうと思った。
橋を通り川を渡り始めると、摩天楼が見えてきた。
いつか夜にイエローキャブに乗って、通りたいと思っている風景だ。
あいにく真昼間なのは残念だが、いつか動画で見た光景を、リアルタイムで体験できたことは嬉しかった。