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医療ネグレクト体験談

17歳で虐待と貧困で児童相談所に保護されるまで、私は「医療ネグレクト」も受けていたと思う。
若き頃医者になりたがってた父は、私の物心ついたときには「俺は(自称)医者だ」と言い、私の風邪やケガは父の「診察」と「治療」で治された。

学校の定期健診で「アレルギー性鼻炎なので病院に行くように」と言われても父は「アレルギー体質は治らないんだから治療は無用」と。
風邪を引いて休んだ時の担任の先生からの電話口では「いつもの薬(総合風邪薬と麦門冬湯)を飲ませるので」と。
(唯一歯医者には行かせてくれた。父は「歯医者」ではなかったようだ。笑)

父は「病院は死にそうな人が行くところだ」と私に教えた。
別に死にそうでないなら(自称)医者の父の治療を受けなさい、と言われた。

物心ついたときからそれが当たり前で私は特に疑問を持たなかった。
でも、その当たり前が疑われる時が2回来た。

1回目は中学1年生の時。
もともと病気で体調がよくなかった母がこん睡状態に陥り父がタクシーで病院に運んだ(救急車は呼ばなかった)。私はその2日前から40℃近い熱が出ていた。立って歩こうとすると視界がぐにゃっとなるのでただ寝ているだけ。正直当時はこん睡状態の母の心配などできず、後に母が亡くなったときに後悔するのだが。
その時もまたいつもの薬(総合風邪薬と麦門冬湯)を飲んでいたが、熱は夜6時にピークを迎え、体温計では「41.0℃」と表示された。

夜8時頃、父から「母が余命2,3日だから病院に来てほしい」と言われ搬送先の病院にふらふらの足で向かった。

病室へ向かうエレベーターの中で、私は「お父さん、さっき私41.0℃あったよ。」言った。そしたらお父さんは、「あの体温計は壊れているんだよ。」とぼそっと。

エレベーターが到着して、病室への入り口で看護師さんが出迎えてくれた。父は母の病状を聞くため病室へ。私は一人廊下でぐわんぐわん回る頭を抱えて座っていた。そしたら看護師さんが一言。「なんか顔色が悪くない?」と。
熱を測ると40.1℃を示していた。
「やったー!ちょっと下がってる!」とか思っていたらあれよあれよと検査を受けることになり受けてみると「インフルエンザB型」と診断。今までかつて見た事の無い吸入型のお薬を飲んだ。そうしたらいつもの総合風邪薬よりもずーっと早くに熱が下がった。診断書が手に入るので学校との欠席日数についての話も早かった。
「体温41.0℃の人は病院に行ってもいいんだ。」とぼーっとした頭で思った。



2回目は中学2年の時、
風邪をこじらせて、熱は出ないが今度は咳が止まらなくなる時があった。
授業中でも我慢できないほど咳が出るので、父との事情を知っている先生が見かねて近くの病院に連れて行ってくれた。
レントゲンを撮り「気管支炎」と診断され、お薬を貰った。

今回も別に死にそうになっていないのでまるで悪いことをしている気分だった。でも、しんどい症状に名前がついて、その対処もできるようでほっとした。

私が病院から帰宅したとき、父の第一声は「大丈夫?」でも「おかえりなさい」でもなく、私と目も合わせずこう言った。

「久しぶりの病院、楽しかった?」

と。




時は経て、私は高校生で施設に入所した。
そこは、鼻がぐずぐずすると耳鼻科に連れられ、熱が出ると小児科へ連れられ、大きい怪我をすると外科へ連れられる、当時の私からすると変な施設だった。
でも退所して一人暮らしして、周りが見えて来て、どうやらその「変な施設」は極めて一般的な家庭であることが分かってきた。


数年前、父が病院を避ける理由を亡き母の友人に教えてもらったことがあった。それはこんな話だった。

***

私が赤ちゃんのとき、健診のため母の知人が経営する病院に母と行った。その時保険証を出すが、「旦那さんお仕事辞めたの?」と聞かれたそう。
どうやらその保険証は失業者向けの保険証だったらしい。

お母さんは私を連れて家出した。
お父さんは家に帰って来ない私とお母さんを心配して母の実家、知人などありとあらゆる場所に電話をかけた。
そして、母はおじいちゃん(母の父)に説得されてなんとか家に帰った。父を問い詰めると父は会社を本当に辞めたようだった。
おそらくそれから保険証を見せたくないがために病院を拒否していたのではないか、と。

「あの時からもうお父さんはどこか変だったんだ」
「あの時に私が(児童相談所などに連絡して)助けられたら良かったんだけど…」

と亡き母の友人は語った。




就職するにあたって健康診断を受けたら、どうやら赤ちゃんの時に色々打つ必要のあったワクチンを全く打っていないようだった(抗体が無かった)。
風疹、麻疹、ムンプス、etc…
児童養護施設でこれから働こうとしている私はおそらくすべて打つことになるが、お金はどれだけ飛んでいくのやら☆

お父さんへの小さな恨みの1つ。




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