児童養護施設の暮らしは社会の可用性を担う共同体づくり③
どうもこんにちは。ゆきちかさん、という名前でnoteを書いています。
児童養護施設の心理職として働いています。
本noteの目的は、“児童養護施設”の検索結果をよりグラデーション豊かにする、というものです。
前回①②に引き続き、佐々木俊尚著「そして、暮らしは共同体になる」(アノニマスタジオ)を児童養護施設職員の視点から読解していこうと思います。
「横へ、横へ」のネットワーク志向の生き方
本書の中で複数回に渡って説明がなされた生活の志向性について、以下を抜粋してみましょう。
大衆消費社会の中で成り上がり、出世し、お金持ちになろうとする「上へ、上へ」という上昇志向。
もうひとつは大衆消費社会を蔑視し、「大衆は騙されている。自分たちは違う」と反逆クールをきどる「外へ、外へ」というアウトサイダー志向。
新しい方向とは、所有するモノを減らし、快適な動きやすい衣類を身にまとい、身軽に移動し、世界とダイレクトにつながるような裸の感覚を持つこと。わたしたち自身がじかに他者や都市とつながり、内外を隔てない開かれた共同体概念をつくっていくこと。つまりは「横へ、横へ」というネットワーク志向であること。
近代において、人々の考え方のありようは上記の志向の二つに分かれていたと言います。しかし、リーマンショックと東日本大震災を経た今は、「上へ」でも「外へ」でもない、「横へ」の移動が求められている。上を目指しても、外を目指しても本質的に豊かになれない時代になった、という解釈です。
これはなるほど、児童養護施設(社会の縮図)みたいな、集団生活の閉じた関係の中で上を目指すことや、反施設の姿勢で外を目指すことではなく、施設の人とも施設の外の人とも横へ繋がっていく方向性か。と素直に納得できる話でした。
ゆるやかなつながりを確保する「公」と「私」の間の領域
本書では、いくつか新しい繋がり方の例が紹介されています。シェアハウスの発展系、という言い方で合っていればいいのですが、過去の世代では一般的にあった共同体感覚を今に合う形で作り直す取り組みなのだと思います。象徴的だなあと思った一文がこれです。
血縁でも地縁でも、同じ会社という社縁でもない。なんの関係もなかった人たちが集まってきて一緒に暮らすという、無縁からはじまる共同体です。
何の関係性もなかった子どもと大人が暮らす児童養護施設にも当てはまり、希望を感じさせる一文です。
特徴的なのは、近代において失われた「閾」と呼ばれる概念です。完全に「公」と「私」に分断された世界をつなぐ場として活きる環境設定です。共同で購入したマンションの共有部分に大きなキッチンを用意して、居住者による共同体の中で持ち回りでご飯を作り、一緒にご飯を食べる、といった「内」でも「外」でもない場。共同体が作られた道のりや意思決定の工夫なども施設運営のヒントとして読み取ることができます。
「公」と「私」の間の概念については、影山知明著「ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~ 」でも取り上げられています。影山氏は間となる概念を「共」と記していて、カフェが公私をゆるやかにつなげる場として意味付けています。「公共」という言葉を更に分けて「公・共・私」という段階づけをされています。
人間関係が多層化することを活用する
東京・軽井沢・福井の3拠点を移動しながら生活している佐々木さんは移動生活について次のように記しています。
「どこにもつかまれない」
じゃなくて、
「あらゆるところにつかまることができる」
これまた、児童養護施設に来るを得なくなった子ども、児童養護施設を経て社会を生きている人にとっては希望を持てる道として映るのではないか、と期待するところです。
もちろんつかまる力を伸ばすお手伝いをすることも、手を伸ばせばつかまれる場所を増やすことも、まだまだ課題ばっかりですが、たくさんの場所を移動し、その都度人間関係を結び、つながれる場所を増やしていく生き方がしやすい時代ではあるんだ、と希望を感じています。
支援者の側が、強いつながりによって問題解決することを非支援者に望まず、ゆるやかにつながっていて良い、離れても良いし、また来ても良い、という関係性の地盤を用意できると、その時に暮らしている場所はあまり関係なくなるのではないか?と思います。少なくとも、未だ主要な価値観である強いつながりではうまくいかない人が取る選択肢の一つとして新しいスタンダードを立ち上げることにはニーズがあると思います。
子どもが特定多数の大人とゆるやかに繋がり、一つ一つの関係性が強くなくても、全体として子どもの安心と安全が必要分提供される“可用性の高い”世界。何だかワクワクする響きなんですけど、いかがでしょうか。
まだまだ取り上げられそうな内容がいっぱいあるのですが、一旦この読書感想文は締めたいと思います。
お付き合いいただいた方、本当にありがとうございました。
ゆきちかさん