パフォーマンスの外側
オリンピックの開会式で、ジャズピアニストの上原ひろみさんの演奏を久々に見た。
「めちゃめちゃ楽しそうにピアノ弾くなあ」
と思ったのだけど、こう思ったのが自分の中でびっくりしたことだった。
というのも、彼女がピアノを弾く姿は独特で、
10年前は「ちょっと頭がクレイジーな人なのかな?」と思っていたからだ。
同じ頃、「聞かせる」だけでなく「見せる(魅せる)」ことも重視した男兄弟のピアノデュオ、レ・フレール( Les Freres )とかも話題だったけれど、彼らのような振り付けチックなパフォーマンスとも違っていて、
客席に向かって叫んでいるような、挑発するような、顔芸みたいにコロコロ変わる彼女の表情。
立ったり座ったり、激しく演奏する姿を見て、なんでそんな顔して弾くの?なんで客席の方見てるの?って本当に謎だったんだ。
↑レ・フレール( Les Freres )の演奏
(全部じゃないけど、腕を交差したり、あえてのパフォーマンスも。今見ると彼らもすごく楽しそうだ!!)
で、私と同じように疑問を持ったんだろうね。
音楽番組でアナウンサーが、
「弾いてらっしゃるときはどんなことを考えてるんですか?」
「客席の方に向かってアピールするようなしぐさをされますが・・・」
というような質問を投げかけたことがあって、
(今思えばめちゃ恥ずかしい、、、!)
「そうそう、私も聞きたい!!なんであんな風にするの!!」って思ったのだけど、彼女の答えはとくにピンとくるものではなくて、でも受け答えからクレイジーな感じも全くしなくて、本当に謎だなあ~とあきらめていた。
* * * * * * * * * * * * *
私はピアノを10年以上習っていたのだけど、クラシック一本だったし、習わされていたから楽しいと思ったこともあまりなくて、「いかに間違えないように弾くか」ということしか考えたことが無かった。
だから、「もっと感情込めて弾いて」と言われても、どういうことなのか全くわからない。
それでも先生がお手本を見せてくれた時、
ff(フォルテッシモ)のところでは体をゆらし、
優しい曲のときは手を上にあげてから鍵盤に触れたり、
弾き終わった後はそっと手を腕ごと上にあげるのを見て、そういうことだと思った。
弾き終わった後に、鍵盤のすぐ上で手を放すんじゃなくて、わざわざ上の方に上げる。バレエのときみたいにしなやかな腕で。
ffのときは体をゆらしながら鍵盤をたたく。
これが「カンジョウ ヲ コメル」ということらしい、と、外側だけマネした。
楽しそうに弾く、せつなそうに弾く、荒々しく弾く。
ちょっと眉間にしわを寄せて切なそうな表情で。
そんな外側しか見てなかったのに、10年ぶりぐらいに見た上原ひろみさんの演奏は、心から楽しんでいるんだと感じることができた。
ずっと謎だったあの表情は
「ちょっと聞いて!!この音ヤバくない!?」
という顔だとわかった。(正解は知りません)
あんなに謎だったのに。
たぶん、心から楽しくて何かをしてる人がいるっていうことを、この10年で知ったからだと思う。
もう今思うと衝撃なんだけど、(娯楽以外で)楽しいとか、好き好んで何かをしてる人がいるって、知らなかったの!
ピアノが上手いからピアニストになったんだな、とか
早く走れる能力があったからスポーツ選手になったんだな、とか、言語化してなかったけど、そんな感じ。
だから普通のサラリーマンや主婦は
「特別な能力が無かった人」で、
もちろん私もその一人。
「能力があった人」と、「できなかった人」「なれなかった人」。
それこそ、俳優さんとかは目立ちたいとか有名になりたいからやってるんだと思ってたから、「演じることが楽しい」という感覚があるのを知らなかった。
だから、脇役系の俳優さんとかは、「主役になりたかったのになれなかった人」というものすごい失礼な見方をしていたのよね。
YouTubeだってそう。
役に立つ系の解説動画を出してる人は、「役に立つから」だけじゃなくて、解説することが楽しくてやってるし、
メントスコーラとかスライム風呂とか、奇抜なことをやる人は、それが「目立つから」だけじゃなくて、楽しいからやってるんだとわかった。
だから私も、最初は解説系の動画とか、台本を一字一句考えて、どうしたら役に立つものができるかってやってたけど、「これめっちゃウケる」とか「役にたたなくてもいいや」ってなって感情そのまま表したりしてる方が楽しい。
そしてその楽しいという感情は、人の心に響きやすいから、再生数も多い。
10年ぶりの、発見でした。
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