「クリスチーネ・F(Wir Kinder vom Bahnhof Zoo)」
デヴィッド・ボウイ主演映画で一番好きな作品はもちろん「地球に落ちて来た男」。
それから「ジャスト・ア・ジゴロ」。
「ハンガー」や「ラビリンス」も好きだ。
そして忘れられないのがこの映画。
原題は「Wir Kinder vom Bahnhof Zoo(我らツォー駅の子供たち)」
ベルリンに住む実在の女性クリスチーネ・ヴェラ・Fの手記を映画化した作品だ。
1970年代後半の西ベルリン(当時)、夜のツォー駅界隈を徘徊するローティーンの子供たちの青春を描いた問題作。
子供といっても彼らは全員ジャンキーだ。
13歳の少女クリスチーネは母親と二人暮らし。母親には恋人がいて家に居場所はなく、寂しさを紛らすため夜の街で遊ぶうちにいつしかクスリに手を染める。
そんな彼女の憧れのスターがデヴィッド・ボウイ。
クリスチーネがはじめて夜の街へ遊びに行くシーンに流れるのがベルリンを舞台にしたアルバム「ヒーローズ」に収められている「V-2シュナイダー」。
夕闇迫るベルリンの街を走る地下鉄のシーンにこの楽曲は本当にピッタリで、まるでこの映画のために作られたのではないかと思うほどだった。
(この映画は全編を通してボウイの楽曲が使用されておりベルリンという街と彼の音楽の親和性を非常に強く感じた)
夜通し遊んで地下鉄の駅のホームに座り込み始発を待つ間、ホームの壁に
ボウイのベルリンコンサート告知ポスターが次々と貼られてゆく。
その時のクリスチーネの幸せそうな表情は、13歳の可憐な少女にふさわしいものだった。
コンサート当日。
クリスチーネは背中に「BOWIE」のロゴを手づくりし縫い付けたスタジャンを着て出かけ、会場で出会った少女バプシーが興味深げにそれを見つめる。
そして舞台にボウイがゆっくりとその姿を現した。
ゆったりとして、威厳のあるその姿はなにか幽玄というか神々しいばかり。
孤独な少女にとっての「神にも等しい存在」であることが映像から余りあるほど伝わってきた。
歌われる曲は「ステイション・トゥ・ステイション」。
後方の席にいたクリスチーネは、身体がひとりでに動くように前へ、前へと進んでゆき、気がつけばすぐ自分の目の前に憧れの人がいて歌っている。
うっとりと彼を見上げる憧れと陶酔の眼差しに、ファンなら誰もが共感したことだろう。
私もまるで自分自身がクリスチーネになってその場にいるように思えてならなかった。
映画自体はどうしようもないクソジャンキーの救いようのないストーリー。
クスリ欲しさに血も売れば売春もし、クリスチーネの恋人デトレフは、ホモの相手に身体を売る。
ただ演じる役者の少年少女たちの瑞々しさ、ベルリンの街並みの美しさが素晴らしく、それらが逆に彼女らの閉塞感や絶望をリアルに浮き立たせ、ボウイの音楽とも相まってぐっと引き込まれた。
バプシーの言った「ドラッグをやめて…そしてどうなるの?」という短い問いには、この幼い少女の抱える底なしに深い絶望が込められていた(彼女は結局OD死。享年13歳)。
映画のラスト、クリスチーネは「黄金の一発」と言われる高濃度のヘロイン注射を自らの腕に打ち自殺を図る。
ゆっくりと倒れてゆく彼女の姿で映画は終わるが、日本版のみ?若者に悪影響を与えないための配慮か、最後に実在のクリスチーネの静止画と「私は助かり、現在は立ち直るために頑張っています」みたいな字幕が入れられていた。
そしてラストに流れる「ヒーローズ」。
原作本はドイツ国内で300万部を売り上げ、映画も本国では大ヒットした。
ドラッグの是非は別として、主人公らの抱える深い孤独に共感する若者は
大勢いたのではないだろうか。
実在のクリスチーネは結局ドラッグからの脱却は出来なかったようで、
現在は重い病の床に伏しているとの近況があった。