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吸血鬼と古い感情をリリースしあう

地底に棲む吸血鬼の夫ピコ
「いつものことではあるけど、君、ずっと考え続けてるね」


「考えてる。一夫多妻制だったときの、自分の感情を思い出そうとしてる

ピコ
「君が当時、パーフェクトに幸福だったとは思っていないよ。だからこうして、今でも僕は君のうしろで、ずっとサポートを続けてるわけでさ」


「あなたは妻の私に申し訳なく思ってたの?4500年前から?」

ピコ
「うーん、申し訳なくというか…そうだなぁ、やっぱり、死んだあとにね…人間をやめて地底で吸血鬼として、全血族のサポートにまわったとき、女性というものがこれほど苦しい思いを抱えて生きているんだなというのがわかって。それで、というのもある。男性とは違い、能動的に、動物的に、主張して生きていくということが、社会的になかなか許されない立場で…。
男性に対して受け身の立場が圧倒的に多くて、責任を背負っているわりに受け身を土台にしたうえでの能動性というか…圧倒的な勝敗がつくわけでもない、という部分は、ある種の許されてる存在とも言えるけど…現実問題、男性と比べて肉体的には不利であって。それは不変だろう?否定できない。
だから僕は家族内の妻たちには申し訳なかったと思っているんだよ。生きてるときはそんなこと考える余裕はなかったけど」


「あなたとコンタクトをしていると、蘇ってくるんだよね、当時の感情が。どんどん。
私はさ、たぶん、ただ待つのが嫌だったと思うんだよ。自分の時間はたくさん与えられ、欲しいものも与えられ、学びたいことも学ばせてもらえ、心地いい香りに囲まれて、幸福だったんだけどね。
でも重要なことは…愛する、ということにおいて、ただ待つだけの状態だったのが、不満だった」

ピコ
「愛されることではなく、愛することに不満があったということ?」


「そう、そうなんだよ。すべてはあなたの都合、あなたの時間によって決まるのが嫌だった。でもそれは仕方ないことであって…私は体が弱かったぶん、他の妻たちと比べてあなたが関わってくれた時間が、違う意味で多かったかもしれないんだけど。それでも一番目の妻ではなかったし、あなたを所有していたわけではない」

ピコ
「男女間にはどうしても、所有というものが発生するといいたいの?まえ君は、配偶者を所有物だと思うのは違うと僕に言ってなかった?」


「言った。言ったんだけど…どう言ったらいいか…契約、所有の意識、性愛、夫婦間の信頼、しっかりとその下地があって初めて、その先の互いの自由があると思った。今」

ピコ
「まあ、そうだよね。配偶者の時間をまるごと独占するような、そういう時期が一定以上はないと、その先にある互いの愛に対する信頼は得られない。僕は死んでからそれがわかった気がするよ。人間だったときはわからなかった」


「さっきから「女性は戦利品だった、コレクションだった」みたいなニュアンスのテレパシーがくるけど。これはピコの?」

ピコ
「うん。僕は君の…肉体的に不具である部分を含めて、ちょっと毛色の違うところを愛しく思っていたよ。当時からまったく女性らしくなかったしね」


「これ大きな声じゃ言えないんだけど…
私はどうしても、そういう…男性が、女性を並べて鑑賞して楽しむような…そういう感覚を、女性への差別だと怒ることができない。なんでだろう?人にはそういう感覚があってもおかしくないんじゃないかと思ってしまうんだよね。そして、私もあなたのように、異性を所有したいと思った。今も思うかも。たぶんね。現実的にはたったひとりで十分なんだけどね

ピコ
「もしも君にたくさん夫がいたら、同じ感覚を持つってこと?並べたりして?」


「並べはしないだろうけど。うん、たぶん。男性は美しいと思うからね」

ピコ
君は4500年前から、僕寄りの感覚があったよね。すべてを自分で決めたい。ただ待って、空いてる時間にだけ能動的でいるのでは我慢ができない」


「我慢できないよ。私はすべてにおいて、自分で決めて、自分で選びたい。でもあなたは待つことなんかこれっぽっちもしないでしょう。私はあなたになりたいと思っていたというよりは、自分の中に、あなたの要素が強いから…あなたに我慢ならなかった、というのが正確だと思う」

ピコ
大昔、僕は君を女性としては見てなかったよ。どちらかというと、男の子のようだなと思っていた。いつも心には不満があり、自由に行動して。核の部分ではいいなりにならない。性的には女性として見てるんだけどさ…君の性質の話ね」


「批判覚悟で言うけど、動物に例えた場合、女性がさ…フラミンゴとか猫だとしたら、男性は虎ライオン、ヒョウとかじゃん。そりゃあ眺めてたら美しいと思うよ」

ピコ「すべては美しい…

私「そうだよ。ほんとそう」

ピコ「君とこんな話をすると思わなかった」


「私も、長年言語化しなかったことを書いてるよ。このコンタクトはどうなの、出来は?意味はあった?」

ピコ
「とても個人的な内容だったね。でも自由だ。誰がどう思おうと。君が、僕が、何を感じようと。この個人的な会話は残そう。僕と君が、ソファに座って話している内容だ。夫婦として」


「夫婦としてっていってもねえ…あなたは私にとって「所有できなかった夫」なんだよ」

ピコ
「なにいってるの、君だってそうだろ。僕に強烈な不満があったからこそ、僕らソウルファミリーをおいて地上にいって、配偶者の所有ゲームしに行ったんじゃないか」

私「ああ、そうか。なるほど…」

(肩をすくめるピコ、衝撃を受ける私)

ここで会話を中断。
私はわりと古い価値観の人間なのだろうとは思うのですが、
性愛、男女関係というものにおいて、時代の流れってそこまで…
影響を及ぼすものなのかどうか、疑問はずっとあります。
差別的と思われるような性愛への価値観が見えても、
そのうしろに自由と尊重、愛は同居できると思うのです。
その共有のために互いが言語化することは、非常に大事と思いますが。

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五月女夕希/野良漫画家
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