天祖のパパ上に報告しに行く
天空の祖であるパパ上
「やあ。さいきんよく上空からお前にメッセージを送ってるんだけど。気づいてる?」
私
「気づいてる!宇宙船からよく手を振ってくれてるよね」
パパ上
「美味しいお菓子があるからおいでっていってるんだよ」
私
「美味しいお菓子?じゃあ、いく。ええと…ちょっと時間つくって、絶対にいく。私もパパ上に話したいことがあったから」
パパ上「待ってるよ!」
★晩御飯のあと。変性意識になる私。
私は4000年前、天空人だったときの、少女の姿で、空を飛ぶ。
私「パパ上!きたよ〜!」
宇宙船の扉が開き、パパ上は私の手をつかむと、船内に招き入れた。
パパ上
「ちょっと狭いけど。隣の管制室へいこう」
私とパパ上は管制室のカウンターに座る。
パパ上はお菓子の入ったトレイを持ってきて、ジャーンといって、蓋をとった。
パパ上
「ビターカカオのティラミス!」
私
「わぁ〜、大人っぽい!ねえ、飲み物は私が用意していい?」
パパ上がいいよというので、私はザクロジュースをイメージして、出した。ザクロジュースの上に、大さじ一杯ほどの酵素ジュースをかける。
私
「酸っぱくて苦いおやつになるね」
パパ上
「この酵素ジュースって、おまえの家の庭の野草で作ったものかい?」
私
「そうだよ。あ、いうの忘れてたけど、お酒になっちゃってるかも。ほっときすぎちゃって。アルコール大丈夫?」
パパ上
「自動操縦だから大丈夫。ところで話したいことがあるって?」
私
「そうなの。あのね、私…どうも…ピコと結婚した…らしい?雲見海岸の、夫婦岩で」
パパ上「ぶふっ!」
スプーンで口に入れたばかりのティラミスを、パパ上はほとんど噴き出してしまった。パパ上の詰め襟の制服が茶色く染まる。
パパ上「なんてこというんだ!」
私
「あれ?知らない?宇宙船からみてなかった?」
パパ上、タオルハンカチを取り出して、あちこちを拭いている。
パパ上
「みてない!ああ…そうか、おまえはアストラル体で、ピコと結婚式をしたんだね。肉体である本体で結婚したわけじゃなくて」
私
「ピコは本体だったと思うけど…」
私はパパ上が、小さなタオルハンカチでは拭ききれないだろうと思い、自分のポケットから出した子ども用おしり拭きで、床に散らばったカカオの粉を拭きとった。
パパ上
「はぁ…おまえ、一体いつまでピコの茶番に付き合ってやるつもりなんだい?どうせあいつは、お前が悲しむようなことしかしないだろう?今だって…」
私
「ピコがいうには、鬼って成長周期がすごく長いんだって。だからもうちょっと精神的成長をするまでに時間がかかるって。優しくなれるまでまだ時間かかるから、先に結婚式しちゃおうってことだったみたい」
パパ上
「そんなの!実力が及ばない、未熟なうちから唾つけとこうって考え方じゃないか!なんて狡猾な!……ええと、すまない…唾などという、下品な言葉を使うべきじゃなかった」
私
「パパ上のいってることは正しいよね。わかってるよ。その通りだと思うもん」
パパ上「じゃあどうして…」
私
「うーんと…ピコに呼ばれてる気がして、変性意識になって行ったの。そしたら、目の前に夫婦岩があって…」
パパ上
「お前に許可を求める前に、さっさと結婚しちゃったということ?」
私
「ああ、でもそうかも…ふたりで夫婦岩のうえに上がって、手を合わせて…いきなり誓いの言葉が始まって…」
パパ上
「そんなの無効だ!あり得ない!」
私
「私は…もう逃げませんって、言ったの。ピコは…未来永劫、幸せにしますって、言ってたと思う」
パパ上
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………(長いため息)」
私「今でも信じられなくて」
パパ上
「おまえ…覚えてないだろうけど、いくつも前の前世で、私はピコに言ったんだよ。結婚すらできないような男は消えてくれって。それくらいあいつは、いい加減で、女性を見下してて…それなのに…」
私
「ピコってそのときと比べて、改心したと思う?」
パパ上
「今は地底で、黄泉の国の神を祀ってるんだろ?改心してなきゃそんなことはしないだろうけど…あいつの人間性が、そこまで大きく変わったとは思えない。むしろ……」
私
「不良なまま、大フィーバーしてるよね。仕事がうまくいってるから」
(地底におけるピコの本職は神官。もうひとつの仕事は、芸能プロダクション運営)
パパ上
「おまえはそれを、理解してるんだね?ならなぜ…」
私
「うーん…私は自分の人生を、次に進めたいけど、進められない。なにか行動を起こそうとすると、ピコがやってきて、引き止められてしまう。でも、ピコがもう少し、もう少しだけ変わってくれるならいいのになって、思ってて……でもだからといって、いきなり結婚式あげちゃうとは思わなかった」
パパ上
「あれは厄介な男だよ。もしいつか別れることになったら、お前は今までとは比べ物にならないくらい、ピコに傷つけられるだろう」
私
「私もそう思う。だから…とりあえず、喜ばないようにしてる」
パパ上
「はぁ…そうだね。それくらいしか、やれることはないだろうね。あいつからお前を手放さないかぎり」
私
「そういう日がくる?(パパ上をじっと見つめる)」
パパ上
「…わからない。こればかりは。男女のことはよくわからないよ。私は一見すると男性だけど、おまえを産んでるわけだからね。両生具有だ。おまえも、両生具有。男でもあり女でもある我々は、かなり合理的だ。感情がないわけじゃないが、そもそも感情に振り回されることが少ない。でもピコは違う。鬼だよ。凶暴な。改心してるとはいえ、今でも怒りを完全に抑えるのは無理だろう?」
私
「じゃあさ……パパ上。もしピコが私を手放す日が、いつかくるとして…私が、とても悲しむようだったら…」
パパ上
「まさか、生まれ直したいって?」
私
「そう!生まれ直したい。完全に記憶を無くして、もう一度パパ上から生まれて、ピコのことも完全に忘れちゃいたいな。それ、可能?」
パパ上
「………(呆れ果てるような表情)」
私「無理?」
パパ上
「うーん…そうだな…でも、それしかないんだろうね。ピコは本当に、しつこいから…深入りすると逃げられなくなるってことなんだろうね。私は残念だよ。おまえがここまで頑張って生きてきたというのに、あいつのせいでゼロからやり直しだなんて」
私
「ピコとうまくやっていける未来は、ないのかな?」
パパ上
「……もしあるとすれば、もっと……ずっと先の話になるだろうね。それこそ来世…ピコが、鬼ではなくなったときとか」
私「すごい先だね」
パパ上
「申し訳ないけど、私は常におまえの味方だから。どうしてもピコに期待することはできない。ピコが今まで何をやらかしてきたか、知ってるわけだからね」
私「そうだよね……」
(ピコがたくさん人を殺した過去があること、私とパパ上と、トラブルを起こしてきたことを思い出す。でもそれと同時に、今はピコが、地底で私の強力なサポートをしてくれていることも、思い出す…)
パパ上
「おまえは今日、安心したくてここへきたんだろう?あいつと次の段階へ進みそうだから。いざという時のために、別の選択肢を用意しておきたかったんだね?」
私
「ピコは私を臆病者だっていってるよ。逃げグセがあるって。私もそう思う。だって怖いもん。常に逃げ道を用意しておかないと、ものすごーく傷ついたとき、もうそれ以上生きていかれない気がしちゃう」
パパ上
「私もだいぶお前を甘やかしてきたとは思うよ。でもそれでいいじゃないか。私はこれからもそうするよ。親が子に幸せになってほしいのは当然だ」
私「パパ上、ありがとう」
パパ上
「はぁ……あれよりもっとましな男は他にいると思うんだけどね。でもおまえもなんだかんだいって、真面目なところがあるし。一度決めてしまうと、頑固だから……」
パパ上はその後もずっと、ため息ばかりついていた。
ピコとの未来は、どうなっていくのだろう?
とりあえず、期待はしちゃいけないとは思っていて…。
ピコが神前結婚式を選んだということは、私が神を裏切らないだろうと思ってのこと。
雲見海岸の女神は、磐長姫(イワナガヒメ)。
とても力が強く、とても合理的で、怖い女神だ。
これからの新地球時代に必要とされ、ひっそりと完全復活をしている。
磐長姫は永遠の、精神性の象徴だ。
私はかつて、この雲見浅間神社で、死んだ愛亀の欣二と銀二に再会するまでは生きながらえたいと祈ったことがある。
ピコは私たちの結婚のために、その場所を選んだのだ。
ピコは神官だから、神前で式をすることの意味が重いのは、よくわかっているだろう。
入籍とは違う、神との契約になるのだ。
私たちはいつも、契約ばかり。
怠け者だけど真面目な私と、勤勉だけど不良のピコ。
悲観せず、冷静に。浮足立たず、やるべきことをしよう。
漫画を描いていこう。