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フィアナの浄霊

私「ピコ、あのね」

地底に棲む吸血鬼の夫ピコ「ふん。なんだい」


「あーあ怒ってる。あのさ、脳内に視えるピコの立ち姿がねえ、朝からずっとそっぽ向いてるわけ。あれ?ピコこっち向いてくれないな?どうしてだろう?忙しいのかな?…で、ふと思ったの。「これってピコが、私のとこに来ているのを隠すために…読心術というのを使ってたりして?」って」

(読心術…心の内を読んだり、隠したり、違う映像を見せて相手を混乱させたり、場合によっては洗脳したりする高等技術)

ピコ
僕がそっぽ向いてるビジョンをわざと君に見せてるんじゃないかといいたいんだね。ほんとはじろじろ見てるのに、それをバレないようにしているんじゃないかと」


「そうそう!吸血鬼小説の金字塔、アン・ライスも、吸血鬼の使う読心術について言及してるしね。どうなの?」

ピコ
「さあ、どうだろうね?(への字口)」

私「教えてくれないわけ?」

ピコ
教えるメリットがないだろ。僕に。教えないよ」

私「えーっ!」

ピコ「せいぜい疑心暗鬼になってろ」

(急接近してきたピコに激しく鼻をつままれる!


「鼻が痛い!もう…じゃあ、本題です」

ピコ「ふん。続けろ」


「高圧的だなあ!…今日はね、音叉ヒーリングに行きました。約1時間の施術中、変性意識になって、自分の前世をひっぱりだしました。激しい怒りを抱えたまま亡くなった私の前世のひとつを、成仏させたよ」

ピコ
「そのとき僕がそばにいたの、わかった?」


「わかった!何度か室内を移動してたね。最後は枕元に来てくれた」

ピコ
「そうだね。さてじゃあ、どういう内容だったか説明してくれたまえ」


「まず…日の当たらない屋敷に住む、太った領主のもとで暮らしてる、女の子だったんだよ。名前はフィアナ。雑用から性奴隷までしてる子。ずっと屋敷で暮らしてて、横暴な領主に雑に扱われ、会話もろくにしたことがないの。とても無口で」

ピコ
「君はフィアナのもとへ行き、ひたすら励ましていたね。魂は永遠に生きていると言っていた。だから未来の彼女にとって、この怒りの人生も無駄ではないと言い聞かせた」


2024年のあなたは、すべての願いを叶えてるよって、言った。ただどうしても、1回ぶんの人生じゃ解決できないこともあるって説明して…あなたの願いはいくつか先の、来世ですべて叶うよと。信じてくれたようだった」

ピコ
死んだら終わりという人生観では、未練が残る。生きてるあいだに育ててしまった絶望を解決せずに死んでしまうからね。いつまでたっても成仏できない幽霊の出来上がりだ」


「私は音叉を聴きながら、フィアナに2024年の私の姿、そして家族顔写真を見せて紹介して…愛を伝えた。そして以前、死んだ愛亀の欣二と銀二を迎えに来てくれた、北極老祖という仙人みたいな神様を呼んだの」

ピコ
「でも君はそれだけじゃフィアナが寂しいだろうと、ふかふかの白猫を渡した。あれはなかなかよかったと思うよ。猫のもつヒーリングパワーはすごいからね。幼児性をじゅうぶんに満たされることなく奴隷生活を続けてきたフィアナには、最高のプレゼントだったと思う」


「そしてイメージで、花びらを大量に散らした大きなカゴベッドみたいなのを用意して、フィアナと白猫を乗せた。そして北極老祖に、天に連れていってもらったよ」

フィアナ………
『街並みはあんなふうに活気があったんだ。私は何も知らない。ずっとあの屋敷にいて…あんなふうに太陽が差し込む場所で暮らしたかった。カラフルな服も着たい。買い物してみたい。次、叶えよう…』


「フィアナは天に昇る途中、見下ろした風景に心奪われるわけよ。次は明るい場所がいいって」

ピコ
「君がフィアナに「魂は永遠だから、次に願いを叶えればいい」と言ったのは大きい。その考え方が持てれば、成仏まであと少しだ」


「そして雲の上へ到達するんだけど…そこには巨大な聖母マリアがいるわけ。金色に光ってるの」

ピコ
「その領主が、マリア信仰だったのかもね」


「聖母マリアの金色の光の中に、フィアナは溶けていって。「次は絶対、犠牲にならない!自分のためだけに生きる!」って、強く決めるんだよ。そんで光に溶けていくの。意外と悲壮感もなく…」

ピコ
「さて、どうかねえ。今の君、ひとつ前の前世の君は、本当にのほほんとして、お気楽に生きてるからね。忘れちゃってるんだと思うよ。
フィアナは悲惨な人生だった。人権もない、自由もない。生涯を屋敷から出してもらえなかったから、同情すら与えられなかったんだからね」

私「うーん…そうか…」

ピコ
「フィアナが最期、自分のために生きると決めて。その結果として、今の君がある。自分のためにしか生きない、手に負えない君が完成した」


「あくまで私をディスらないと気が済まないのね?そうですよ!私は自分のためにしか生きてません!でもね、今世、とことん願いを叶えたからね。自分基準だけど。だからこそ、心おきなく地底の漫画に取り組めるってのもあるわけ」

ピコ
「まったくもう。君は僕と交わした契約のことすっかり忘れて、遊んでばかり。今が幸せならこれからとことん描いてほしいよね」

(ピコとの契約…①地底の漫画を描き創造主神に捧げる。②創造主神の私への加護。③婚姻契約。④死後における契約)

ここで会話中断。

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五月女夕希/野良漫画家
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