地底のリラクゼーションエリア
私
「夫よ質問があります」
地底の夫「どうぞ」
私
「あなたがいる神殿の、もう少し上空に見える土地はなに?」
地底の夫
「いちばん近いところ?」
私
「そう。まるでプールのための土地というか…その土地の上空はガラスドームみたいので覆われてて、夜が演出されてるし」
地底の夫
「リラクゼーションエリアだよ」
私
「リラクゼーション?」
地底の夫
「肉体修復のための場所。あと肉体をチェンジしたりとか…」
私
「??日焼けサロン?」
地底の夫
「ぜんぜん違うよ。つまり、良質な仮眠をとったり若返ったり細胞を修復できる…医療機関ではないんだけど…」
私
「それすごいいいじゃん」
地底の夫
「肌の色も好きなものに変更できたりね」
私
「アバター交換的な?」
地底の夫
「いや、もうちょっと…ナチュラルかな…容姿を交換するわけじゃなくて…」
私
「いわゆるメディカルベッドとかいうやつがあるの?」
(注)陰謀論などでいわれる何でも治せる高度なテクノロジー由来のベッド)
地底の夫
「それはない。あくまでそれは地上の人間用じゃないのかな」
私
「ふーん。ねえ、なんで返事がぼんやりしてるの?」
地底の夫
「人間向けの正式名称がないからかな。あと、吸血鬼の僕には無用な場所だから、何もわからない。入ったことがない」
私「あ、そっか」
地底の夫
「今さら言うけど、君さ、吸血鬼にならなくたって、ああいう場所で細胞を再生させながら生きながらえる選択肢だってあるんだよ」
私「なに急に?」
地底の夫
「よく考えて。吸血鬼になったらどうなるか。ヘアカラーしても翌日には元通り、ほとんどのおしゃれは意味がないし、美容整形したって翌日には二重の糸がデトックスされてしまうしね。いいの?」
私「なによそれ」
地底の夫
「ビジュアルを完全維持する生き物(死者)が吸血鬼なんだよ。だからたぶん、吸血鬼になったら美というものについては楽しみが一切ないと思う」
私
「そういうことは考えていなかったよ。…というか、なにか別の手段で、肉体を若返らせてから吸血鬼化がベストなんじゃないかなって思ってた」
地底の夫
「リラクゼーションエリアで若返ったあとに吸血鬼になるってこと?」
私
「リラクゼーションエリアのあと、ダイエットして、鼻高くしたり顎削ったり、整形してから吸血鬼化かな」
地底の夫
「にやにや。ダイエット以降は全部無駄だよ、ナチュラルな状態に戻るためにデトックスされちゃうから」
私
「朝、プロテーゼが枕元に転がってるってわけね」
地底の夫
「削った顎の骨も再生する」
私
「悪ふざけがすぎると思うんだよね!私は真剣に考えてるんです!いつも一生懸命なの!(大激怒)」
地底の夫「わかってるよ」
私
「でもたしかに、急に明日モデルになりたい、みたいな夢ができちゃったら…吸血鬼だと諦めなきゃいけないもんね?」
地底の夫
「地底は美の基準がだいぶ寛容だからそんなに心配いらないだろうけどね。でも自分の理想の外見ではないからといって、髪の色も長さも、まぶたさえ変えられないとなったら、それはどうなんだろうね?」
私
「吸血鬼化について、再考する必要ありって言いたいの?」
地底の夫
「君が飽きっぽいからね」
私
「…うーん…」
地底の夫「………」
(ラクダみたいな表情で微動だにせずぼーっとこっちをみている)
私
「わかった!じゃあ、まず100年くらい、そのリラクゼーションエリアで肉体を再生させながら生きてみる」
地底の夫「うん…」
私
「そんでやっぱ吸血鬼になりたいって思ったら、なる!」
地底の夫
「わかった。好きにすればいいよ。でもとりあえず、君はまだ将来、地底に来れるかどうか、わからないんだからね?」
私「うっ」
地底の夫
「2032年までにクリアしなきゃいけない課題があるでしょ。それに時間は君が思ってるより、もう…」
私「はい、ないです」
地底の夫
「せっかちなんだよ、もう」
ここで会話は中断。
私はいつも、未来ばかり見て生きてきた気がします。
心ここにあらずでいることで、たくさんの夢を楽しんできました。
とりあえず制作に入ります。