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初デートは失恋のあとに。

「Rさんってモテそうだよね」
飲み会の席で、声の大きな人が言う。
「いやでも彼女いるからなぁ」
別の人がすかさずそう返す。
たわいない言葉の中で、静かに時間がフリーズしていく。
その瞬間、私は初めて失恋をした。

目の力が強いな程度に思っていた彼を、好きだと自覚したのはいつからだっただろう。
この1年、彼の気を惹こうと躍起になっていた。
少しでも長く一緒にいたくて、口実をつくっては相談をしたり電話をしたり、そんなことばかりを繰り返していた。
そこまでやってなお、何もないままそれだけの時間が過ぎてしまったということはそういうことだったのだと、気づくことすらないくらい盲目になる。
若さと経験のなさは厄介で、子供のように可愛がってもらえることがただひたすらに嬉しかった。
もう少し、あと少ししたら胸の内を明かしてしまおうと、そう思っていた矢先の出来事だった。

失恋ってこんな感じなんだって、付き合ってすらいなかったのにこれ以上の苦しみはないのではないかとすら思いながらぼんやりと考える。
言葉の現実味が、頭の中で強くなったり弱くなったりを繰り返す。
好きな人を好きでいることは、その先を望んでしまう自分でいることは、誰かにとって迷惑になってしまうのだと、そんな残酷なことを突きつけられたようだった。

受けたショックの大きさに、眠れない夜に溜まっていたレポートを仕上げる。
回らない頭で作ったレポートなんて、きっと酷いクオリティだっただろう。
そのまま思考が溢れてしまって、SNSに投稿してしまう。
”こんな苦しいこと、もう経験したくない”
それに反応してくれるのは、やっぱり唯一彼だけだった。

「大丈夫?何かあった?」
電話までかけてくれてしまう彼の優しさが、今は少しも嬉しくない。
嘘、本当はすごく嬉しい。
嬉しいけれど、それ以上に余計に苦しい。
甘くて苦くて、数日前だったら心底喜んでいたであろう出来事が、複雑でよくわからない味になってしまう。

「落ち込んでるでしょ?気晴らしにどっか行こうか」
そう言う彼に、観劇デートに誘われる。
”二人で出掛けるからデートだ”なんて思ってはいけないと思っていた私に、待ち合わせ場所で始めに言われた一言は「今日はデートだ」だったから、デートと言ってしまっていいだろうか。

ずるいあなたに振り回されて、わかっているのに期待してしまう。
もう終わった恋だと自分に言い聞かせながら、それでも接点をまだ増やしたかった。
終わりにできない私も、終わりにさせてくれない彼も、手を離すことができなかった。

優しさは時に残酷で、余計に苦しい明日をつくってしまう。
それでもあの1年、彼を好きになってから失恋して初デートをした1年は、何よりも切なくて大切な思い出として、今も大事にしまってある。

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みみ
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