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コドモは苦手だ

はじめまして、ワタシはとい(人間)の猫です。
名前も姿も非公表であります。
(以下、人間をヒトと呼称します。)


近頃、といは、ヒトらしさを取り戻しつつあります。


家猫であるワタシは外の世界へ踏み出したこともなければ、
同居人以外のヒトの生活とやらを知りません。


そんな私の考える「ヒトらしさ」とは、
「ネコの○もち」のような人間向けの教則本に書いてあるような行動を、
浅はかな考えで実行してしまうようなトコロです。

たとえば、
猫語も習得していないくせに、
ワタシに相談もなしに新しい猫を連れてきたり、
あろうことか、そいつがコドモ(子猫)だったり。

(あ、いや、これは愚痴です。)



ワタシだって、新参のコドモに興味はあるのです。

あるのですが…
とにかく五月蝿い。

起きているうちは、とにかく鳴きます。

「ゲージから出して」と言っているのでしょうが、
ワタシには鍵を開けることはできません。

仕方がないので近寄って様子を見に行っても、
何故か攻撃をくらいます。


(…何故だ。納得がいかない。)

ワタシは大人なので適当にやり過ごしているのですが、
やはり、自分だけの時間が長かったからか、
静かさを求めてしまいます。

そして、攻撃される謂れもありません。



(これだから、コドモは嫌いだ)
と思いつつも、鳴き喚く同胞を放っておく程、
猫が腐っている訳ではないのです。

といが、新入りのヒトネコ
(ヒトとネコの狭間のような生物)だった時のように、
子猫のいるゲージの横に添い寝する日々を重ねます。



月日が過ぎて、朝方、
久方ぶりに、といが横たわっているのを見つけました。
ふかふかの毛布の上にいます。
この毛布は、ワタシと、といのお気に入りなのです。

早速、そちらへ向かいます。


例に漏れず、といがワタシを見つけ指先を差し出します。

これは挨拶です。


ワタシはといの指先に頭をスリスリと寄せます。


一度に何往復した事でしょう。
どうしてだが、身体が勝手に動くのです。



いつからでしょう。
挨拶が短くなったのは。
といがヒトらしくなったのは。

けれども、挨拶を存分に受け入れ、
「おはよう、おはよう。今日は甘えん坊さんだね。」
と言って、といが、ワタシを撫でます。


それは、ワタシのコドモの頃の記憶を、
鮮明に呼び起こします。


ワタシが小さい頃のことです。
といは、カイシャが終われば一目散に帰ってきて、
猫じゃらしやら、なにやらたくさん遊んでくれました。


お腹が痛くて部屋の中で粗相をしてしまった時も、
一瞬呆然としながらも、
無言で床や毛布を見やりながら、
「大丈夫だよ。一緒にいれなくてごめんね。」
と言いながら、お尻を拭いてくれました。


頭を撫で、ごはんを食べるときは一粒一粒
「えらいね〜すごい!」と言い、
ワタシのご機嫌を取るべく痒いところを掻き、
ワタシの目を見ながら自分の目もパチクリさせるのです。




そこから幾分か歳月が経ちました。


「行ってきます、お留守番よろしくね。」とワタシの目を見て言うのは、
といが出かける合図です。


ゲージのある猫部屋に、2匹だけ取り残されるとき、
ワタシが何を感じているのか、
といは気付いているのでしょうか。


(鈍感だから気付かないかもしれないな。)

だから、
最近覚えた引き戸と呼ばれる仕切り板を、
ちょっとだけ開けて玄関の仕切りの前で待つのです。


といが帰ってきた時、
キョトンとした顔を下から見上げる為に。




(さて、今度はどんな顔をするかな。)



徐々に玄関に近づいてくる足音。
ガチャリと開く扉。



「ただいま〜…」と、といの声。



(ほら、どんな顔するかな)


猫女中と新入り子猫を見守る猫師匠の視点から書いた物語です。ほぼ実話です。生憎、わたしには猫語がわからないので、本当のところは猫師匠のみぞ知る物語です。

良ければ、こちらもどうぞ。


by:とい(職業:猫女中、属性:ヒト)