まともな人間性と引き換えに失恋を10年引きずる話⑤

続きです。

私はAさんのことを忘れられたわけではもちろんなかった。
私は未練がましくも、LINEブロックされた3年前からこのように…

月に数回は欠かさず電話をかけていた(ヒエッ)。
それは、万が一にもどこかでAさんの気持ちが変わってブロックを解除していて、また連絡できるようになっていないか、という可能性にかけてのことだった。
もちろん今に至るまでも既読が付いたことがないのだが。

時は一気に現在まで進む。

Aさんがオリジナルバンドを続けているのは風のうわさで知っていた。
そして現在、同じく東京に住んでいることも。
担当作家さん監視用のツイッターサブ垢で時々Aさんのオリジナルバンドの投稿をチェックしていた私は、
2年ほど前に大学の後輩を誘ってAさんのライブをこっそりのぞきに行くことを企んだ。
ライブハウスは小さめの箱だったので、Aさんに見つかってキモがられたくないという気持ちと、Aさんと話して和解したいという気持ちが混ざり合って、挙動不審になり、自身も非常に落ち着かず、すぐに出ることになった。
「Aさんにばれていたかもしれない」「相当キモかっただろう」という予感が、しばらくライブへ突撃しようという足を遠のかせていた。

しかし、最近になって私は再びAさんのライブを訪れることになる。
たまたま近所でフリーライブをやる報せがあり、なんとなく思い付きでいってみることにした。
Aさんのバンドの出番は3バンド中トリだったので、1,2バンド目から入ってしまうと観客側にいるAさんにばれてしまう可能性がある。
私は出番の前にスッと潜入する作戦を取り、トリまでの2時間ほどを周囲をぶらぶらして過ごしたり、ライブ会場が地下だったので地上にあがってくるエスカレーターがよく見える場所でこっそり監視したりして時間を過ごした。
ストーk…。

そして、Aさんのバンドの出番の直前、目論見通りライブに滑り込む。ステージに立つ2年ぶりのAさんと、一瞬目が合った気がした。

ライブが始まる。

1曲目から私は驚いた。
Aさんは元々とてもギターがうまかったが、5年くらい前に見たよりさらにさらにうまくなっていた。
しれっとものすごい速さで正確なギターを刻み、様々な奏法を軽々披露していた。
照明が落とされた観客サイド、揺れる聴衆の中で私は叫びそうになり思わず手で口をふさいだ。

Aさんはとても輝いていた。
私はAさんを見ながら、学生時代の記憶が凄まじい速さで流れていくのを感じていた。
私はあんなに優しくて、自分のことを大切にしてくれたAさんを、どうしてないがしろにしてしまったのか。手放してしまったのか。
Aさん、Aさん。

気が付くとライブは終わっていた。
私はライブ後にもくもくとエフェクターを片付けるAさんに話しかけようかと迷った。
しかし、私のことを時効で許してくれたのか、それとも、もうAさんの人生に私が登場してほしくないのか確信が持てなかった。それを知ってしまうのが怖かった。結局はしばらくその場にとどまったのちのろのろと家路についた。

その日の夜、たまたま行き着いたAさんのインスタに「謝らせてほしい」旨のメッセージも送ってみたが、返信が帰ってくることはなかった。
そこから、今に至るまでAさんのことばかり考えている。

倫理的に問題ないかはおいておいて。
Aさんに会いたい。
私は、la la landのエマストーンとライアンゴズリングがまだ何物でもない時期に出会って、付き合っていたけど、最終的に別々の道に進むラストシーンのような、
山崎まさよしの「one more time one more chance 」のような、

極端に美化すればそういうやるせない気持ちが
気持ちにふたをしようとすればするほど強化され、くすぶっている。

Aさんがどこに住んでいるか、仕事は何か、私は知らない。
今更泣きわめいてもどうにもならないし時間は戻せない。
でも、今でも東京のどこかで、Aさんとすれ違うことがないか
スタジオのどこかでぱったり会うことがないか(実は私も今でもバンドを続けているので)
探しているのだ。

20代後半の女ですが、人生の安定と引き換えに、未だにウエットめに元の恋人を引きずっているという話でした。

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