まともな人間性と引き換えに失恋を10年引きずる話②
続きです。
新歓のみ会でカナダのプログレバンド「Rush」が好きだといった私に、サークルの上級生の誰かが引き合わせてくれたのが、Aさんだった。
Aさんは当時3回生、サークルの幹部をやっており、最初話すときに身構えたが、物静かで落ち着いた雰囲気を醸し出す人だった。
音楽に詳しく自分と同じギターを担当していたので、ひとしきり話した後、
少しぼーっとしていると、Aさんは自身のパーにした手を見つめだした。
「どうしたんですか」
と聞くと
「何もやることがなくなると、つい手のひらをしげしげ見ちゃうんだよね」
私はなんだか笑ってしまい、この人はなんだか素敵だなと謎の部分で思った。
(ちなみに以来つられて、私も何もやることがなくなると手のひらを見るという癖があります)
飲み会では、連絡先を交換したかまでは覚えていないが、私たちは連絡を取るようになった。
飲み会後、関係は急速に発展していった。
奥手な私にしては勇気を出し、Aさんにギターについて教わるために会ったり、学生会館でクレープを食べたり、
Aさんも何故いろいろ女子がいるなかで、この眼鏡をかけた芋を…と今になっては思うが、当時LOFTでやっていたブックカバー展に誘ってくれたり、
そうこうしているうちにあっという間に仲が深まり、私たちは付き合うことになった。
大学に入って1,2か月目くらいのことで、私にとって初めての恋人だった。
そこからはしばらくとても楽しい毎日だった。
私はAさんの温かい人柄に触れ、彼の音楽の豊富な知識や自分が読んでこなかったようなサブカル寄りの漫画(当時だとアナーキーインザJKとか、甘々と稲妻とか九井諒子作品とか)や映画など、カルチャーの薫陶を受け、彼のことを知れば知るほど好きになっていった。
大学に入学するまでは憂鬱だったが、一緒に夜コンビニに行ったり、朝まで映画を観たり、ちょっとエッチなことをしたり、Aさんの影響でタバコを吸い始めたり、まさに大学生の、ぽい生活を思いのほか楽しむことになった。
一つよく覚えている思い出がある。
たぶん自分の誕生日だったか、私がしつこくせがんだ結果Aさんがディズニーランドへの一泊の旅行をプレゼントしてくれたことがある。
当時学生だったので往復の移動は夜行バスだった。そしてバスの集合は夕方だった。
若干ADHDみがある私はバスの出発時間割とぎりぎりにつくように出た結果、集合場所へ行く電車が遅延してしまい、夜行バスに間に合わなかったのだ。
当日だったので、払い戻しもほとんどできなかったと記憶している。その際、申し訳なくて涙ながらに謝ったが、Aさんは全く怒りもせずにもう一度別日に予約を取り直してくれたのだ。
私はその時、Aさんは自分が人生で出会った中で一番いい人、この人と将来一緒になりたいと本気で思った。
しかし、ただ単にお互い思いあう気持ちは徐々に変質していく。
引っ込み思案なのもあって、入ったイケイケ軽音サークルではコミュニケーション面でも上級生と打ち解けられず、楽器も大して上手でなかった私はサークルにこれといった居場所がなかった。
友達も少なかったのもあり、私の気持ちは一方向にAさんに依存していく。それはAさんが軽音サークルで幹部を務め、楽器がうまく(且つちょっと特徴的な弾き方をしていて私はそれを見るのが好きだったし憧れていた)、まわりとも仲がいいのを、
「Aさんの彼女」であるという所にアイデンティティを見出すようになったせいでもあった。
初めてできた恋人の扱いを知らなかっただけではなく、もともと人との距離感がわからずサイコパス気質があったこともあり、私の行動はより頭がおかしい方向にエスカレートしていく…
つづく。
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