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RSNA AI 2024 まとめ:医療画像AIはどこへ行くのか?

こんにちは、島原です。現在はMAPI(医療AI推進機構)BEC(Bio Engineering Capital) といったファンドを通じて、医療画像AIの社会実装や海外展開を推進する活動に力を注いでいます。
さて、毎年恒例のシカゴ開催、RSNA 2024(北米放射線学会)に今年も参加してきました。RSNAは世界最大級の放射線医学の学会で、今年は約3.9万人(※1)の放射線科医や研究者、企業関係者が集まったと言われています。コロナ以降、参加者数はやや頭打ち傾向にあり、AI Showcase自体もピーク時の盛り上がりに比べれば落ち着きを見せている印象です。来年も4万人弱程度の参加規模となるかもしれません。それでも世界最大級の学会には変わりはなく、大きいです。
今回も、昨年に続き、特に印象に残った医療画像AI関連のトピックや各企業の最新動向をまとめてご紹介したいと思います。



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1. RSNA会場の雰囲気:AIブースが当たり前になった世界

これまでも多くのAIが展示されていましたが、今年も「どの企業もAIを強みにしている」「AIと何らかの形で連携している」ということが明らかにされており、当たり前のように感じられるものでした。実際、会場を歩いていると、AIスタートアップはもちろん、従来から医療機器やシステムを扱っていた大手ベンダーもAIチームを強化し、より高精度かつワークフローに溶け込む製品をアピールしていた印象です。一方で、AI Showcaseの一角を見ると、以前のような“爆発的”な新興企業の数や熱気はやや落ち着いたようにも感じました。


2. 主要AI企業の導入実績:「1000施設」が一つの目安?

今年のRSNAでは、各社が「何施設に導入されているか」を積極的にアピールしていたのがとても印象的でした。特に、胸部X線とマンモグラフィのAIで有名なLunit社 (lunit.io) は、「55カ国以上、4500施設以上に導入されている」と大々的に掲げており、勢いを感じます。さらに、日本国内では富士フイルム社 がLunitのソリューションを展開しており、すでに2000施設以上への導入実績がある(※2)とのこと。これは4500施設の中で日本が大きな割合を占めていることを示唆しており、日本市場の重要性を改めて感じさせられました。
同時に、研究開発にも力を入れているLunitは、これまでに100を超える学術発表を行っているとのこと。AIベンチャーという枠を超え、学術的なエビデンスを積み重ねる姿勢は、臨床の現場に深く入り込むための大きな武器になると感じます。

そのほか、各社の導入規模は以下のようになっています。

もちろん、導入の難易度やマーケット特性が企業ごとに異なるため、数だけで成果を一概に評価できるわけではありません。しかし、1000施設以上の導入実績がある企業は、世界的な存在感を示していると言えそうで、ひとつの“ボーダーライン”にも見えました。


3. 代表的な製品の特徴:読影支援系

Lunit

  • 主力は胸部X線とマンモグラフィAI

  • 日本では富士フイルムとの提携で2000施設以上へ導入

  • 学術発表100以上でエビデンス豊富

Aidoc (aidoc.com)

  • 複数のモダリティ・病変に対応可能なAIマーケットプレイス

  • 自社で独自のアルゴリズム開発も進める“ハイブリッド型”

  • 救急領域や重大疾患検出など、時間短縮・優先度付けで強み

Rapid AI (rapidai.com)

  • 特に脳卒中領域に注力

  • 緊急時の検査で迅速に診断をサポートするワークフローに強み

その他

  • VUNO (vuno.co)

    • 胸部X線や骨疾患検出など幅広いラインナップ

  • Subtle Medical (subtlemedical.com)

    • MRIやPET/CTなどの撮像効率を向上させるソリューションが特徴

  • ClariPi (claripi.com)

    • 多数のAIソリューションとの連携や高度なアルゴリズム開発が注目されるベンダー。画像品質向上や病変検出アルゴリズムなどを展開

  • Annalise.ai (annalise.ai)

    • 胸部・頭部など複数モダリティで高精度の読影支援を提供。大手病院での実績が増加中。

  • Neurophet (neurophet.com)

    • 脳領域に特化したAIソリューションを提供。認知症や神経変性疾患などの検出・解析を支援。保険適用もさおり、実臨床での利用が加速。


4. 業務効率化を支援するAI

読影支援AIが注目されがちですが、業務効率化を目的としたAIツールも目立っていました。

  • Smart Reporting(https://www.smart-reporting.com/

    • 診断レポート作成を効率化。構造化されたテンプレートや音声認識を組み合わせ、医師の作業負荷を大幅に軽減。

  • Vista.ai (vista.ai)

    • 読影だけでなく、放射線科部門全体のワークフローを支援する統合マーケットプレイス。画像管理から患者情報の連携までカバー。

  • Radio Reporthttps://radioreport.com/

    • レポート作成から共有までをシームレスに行うソリューション。異なる医療システム間での連携もサポート。

  • Airs Medical (airsmed.com)

    • MRIスキャンの最適化や撮像時間の短縮など、放射線科のワークフロー改善を目指す業務効率化の代表格。病院側の負担軽減に貢献。

これらのツールは、単なる画像解析から一歩先に踏み込んで「業務フローをいかに最適化するか」「経営効率」を重視しているのが特徴です。


5. “マーケットプレイス”が加速:Blackford / deepc / Carpl / RAD AI / Aidoc

今年は「マーケットプレイス」というキーワードを至る所で耳にしました。AIソリューションを個別に導入するのではなく、PACSにゲートウェイサーバーを接続して数多くのAIをまとめて“取捨選択”できる仕組みが主流になりつつあります。

  • Blackford (blackfordanalysis.com) /
    deepc (deepc.ai) /
    Carpl (carpl.ai) /
    RAD AI (rad.ai)

    • 100以上のAIと連携し、クラウドとオンプレのハイブリッドでオーケストレーションを行うサービスを展開。自社でAIを開発するのではなく、“つなぎ役”に特化しているところが特徴。

  • Aidoc (aidoc.com)

    • マーケットプレイスとして他社のAIを取り込む一方、自社で開発したアルゴリズムも併せ持つ“ハイブリッド型”。まだ競合が少ない領域のAIを自社で積極的に開発しながら、他社の強みを取り込む形でサービスを拡大。

“どの企業のどのAIを導入すればいいのか分からない”, “AIごとのバージョンアップやインストールが煩雑”といった病院の課題を、こうしたマーケットプレイス型の企業が解消している印象でした。


6. 消えたブースと気になる展開:TEMPUS(旧Arterys)の動向

ここ数年、AI Showcaseで存在感を放っていたArterys社 (arterys.com) を買収したTEMPUS (tempus.com) は、昨年はブースを出していたものの、今年は姿を消していました。
ArterysはAI showcaseの初期の頃からエリアスポンサーをしていたり存在感があり、クラウドベースで複数のモダリティに対応するソリューションを提供していた企業として目立っていましたが、TEMPUSはライフサイエンスを含めた広範な領域を扱うため、放射線分野を主戦場とはみなしていないのかもしれません。
一方で、生成AIの文脈でも注目されるTEMPUSが今後どのような展開を示すのかは要注目です。放射線画像に限らず、医療データ全般を取り扱う基盤として事業を拡大していく可能性もあるだけに、次回以降のRSNAや他学会での登場が待たれます。


7. MicrosoftのCopilot:HIMSSの時とは違う“マイルドさ”

Microsoft (microsoft.com) は今年のHIMSSに続き、RSNAでも“仕切りに覆われたスペース”を用意し、Copilotの説明を定期的に行っていました。HIMSSではレポーティングや地域医療連携に特化した深い内容が紹介されていましたが、法規制対応に厳しい視線が向けられる放射線学会だからか、今回はかなりマイルドな内容。
Officeソフトウェア(PowerPointなど)を活用した実例紹介が中心だったり、ある意味安全運転とも言えますが、HIMSSの時を知っている身からすると少しダウングレードにも感じられました。なお、HIMSS時にはいただけたお土産の人形は今回は手に入りませんでした…。

HIMSSの時にCopilotのshowcaseでいただいたぬいぐるみ

8. AI Showcaseに見る韓国の強さと日本の存在感

AI Showcaseを見渡すと、今年も韓国企業の存在感が非常に大きいと感じました。大きなブースを出している企業もあれば、政治・行政がサポートする“Korean Pavilion”の下で初出展しているスタートアップもいくつかありました。彼らに話を伺うと、出展費用の半分以上がサポートされるケースもあるとのことで、海外で薬事承認を取得する際にも政治・行政が費用面で支援してくれるそうです。
さらに、韓国の個人情報保護委員会にあたる機関がKaggleのコンペのような形でデータを活用する仕組みをつくるなど、国全体で医療画像AIを“勝てる産業”に育てていく施策が実施されているようです。その結果、Lunit (lunit.io) のように世界で活躍するAI企業が次々と羽ばたいているのは印象的でした。

一方、日本企業の存在感は正直薄いのが現状です。技術力がある企業は存在しているものの、グローバルな展開力や政府レベルでのサポートが課題として浮かび上がっています。

Korea Pavilion
China Pavilion

9. Japanブースの試み:MAPI & MNESがタッグで挑戦

Japan booth

そんな中、私が所属する医療AI推進機構(MAPI) と、MNES社 (https://mnes.life/) がタッグを組み、Japanブースを企画・出展しました。MNESは現在、1200施設以上に導入実績のあるクラウド医療画像管理システムやビューワーを開発しており、2025年からはAIマーケットプレイスを本格化させます。もし日本市場に興味を持つ海外企業があれば、MAPIがデータ提供や研究・製品開発・法規制対応をサポートし、MNESがマーケットプレイスの一つとして受け皿になる。
これによって、海外AI企業と日本の医療現場をつなぎ、日本発のAIソリューションを海外展開していくことも視野に入れられる、というわけです。

今回は5社のスタートアップが共同展示を行い、今後のグローバル展開を支援する取り組みを始動しました。さらに、MAPIではデータ売上の1%を、稀少疾患など市場経済だけでは支えきれない領域をサポートするために充てる方針があります。RSNA会場でも、こうした支援活動や社会的意義に関する取り組みをアピールしました。

日本の企業がグローバルに進出するための仕組みづくりとして、“民間同士”の連携だけでなく、“行政レベル”のバックアップが今後どこまで強化されるのかがカギになると感じています。韓国の事例は良い参考例になりそうです。


10. まとめ:医療画像AIが当たり前の世界へ

今年のRSNAを通じて改めて感じたのは、AIそのものが“特別な存在”ではなくなり、「どんなニーズに対してどのAIをどう組み合わせるのか」が重要なフェーズに突入したということです。導入実績の数字が示すように、世界中の病院にAIが本格的に浸透し始めており、さらに多くの臨床現場からのフィードバックを得て、サービスがより洗練されていくでしょう。

ワークフロー全体の最適化、病院経営の改善、そして患者さんのQOL向上を視野に入れた医療画像AIが求められる中で、いよいよ医療画像AIは本格導入の段階に差し掛かっていると確信しています。ただし、今回の参加者数やAI Showcaseの動向が示すように、マーケットは次のステージへ移行しつつあるとも感じました。数だけでなく質が問われる時代に、どれだけ現場ニーズに合ったソリューションを出せるかが企業の生き残りを左右しそうです。

画像は医療AIの一つにすぎないため、画像を強みとして持ちつつもマルチモーダルなAIの研究開発と、レポートシステムや他のデータベース・ワークフロー連携をしていくことが、医療AIベンダーとしての生き残りの手段となりそうです。一方で、展示されているAIは脳・肺・骨などのメジャーな疾患がメインで、その他の領域はまだまだ参入の余地があります。特定の疾患に特化したAIは、グローバルのマーケットプレイスの進展とともに、まだまだチャンスがあるでしょう。市場規模が小さい疾患でも、これまで業界に蓄積されたノウハウやリソースを賢く使い、スマートな研究開発や製品開発体制を構築すれば、small-winやquick-winを目指すことは十分可能です。

MAPIとしては、国内外の連携やデータ基盤の整備など、多角的に医療画像AIの発展を後押ししていきたいと考えています。引き続き、医療従事者・研究者・エンジニアや産官学で協力しながら、より良い医療を実現するための仕組みづくりを進めていきたいと思います。
以上、RSNA 2024のレポートでした。これからも医療画像AIの最前線から、感じたことをシェアしていければと思います。最後までお読みいただきありがとうございました!

↓シカゴ現地で収録したThe Medical AI TimesのPodcastも合わせてご確認ください!


参考文献・情報ソース一覧

  1. RSNA 2024 Official Website / Meeting Wrap-up

  2. 富士フイルム公式プレスリリース(LunitのAI活用実績 2000施設突破)


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