ロイヤル・オペラ・ハウスで見た熊川哲也さんと吉田都さんの活躍
あなたは英国ロイヤル・バレエ団の
プリンシパル(最高位のダンサー)だった
熊川哲也さんと吉田都さんを
ご存知ですか?
お二人とも英国ロイヤル・バレエ団を退団され、
熊川さんはKバレエカンパニーを率い、
吉田さんは新国立劇場の舞踏芸術監督
に就任されています。
わたしが渡英していた1997年は、
まだお二人とも英国ロイヤル・バレエ団で
活躍されていた頃でした。
ある日、「英国のお母さん」ジルが
電話をくれました。
「あなた、バレエが見たいって言ってたわよね。
『ヨシダ』ってダンサーが
ロイヤル・オペラ・ハウスで踊るんですって。
『ヨシダ』って、日本の名前じゃない?」
「確か、吉田都さんっていう
日本人ダンサーがいるはずだから、その人かも。
ありがとう、調べてみますね。」
コベント・ガーデンの
ロイヤル・オペラ・ハウスに行って
パンフレットを見てみると、
ジルが言っていたのはやはり、
当時英国ロイヤル・バレエ団で
プリンシパルとして活躍していた
吉田都さんのことでした。
そして、その公演には
熊川哲也さんも出演されると知ったのです。
わたしがその二年前に初めての海外旅行で
ロンドンを訪れた時には
熊川さんはすでに
プリンシパルとして活躍していました。
彼が北海道出身ということもあり、
渡英前から彼のことは
新聞や雑誌で読んで知っていました。
ですから、いつか彼のバレエを見て見たいなと
思っていたのです。
実はロイヤル・オペラ・ハウスは
1997年の夏から
修復のために長期で閉館することが決まっており
「その前にロイヤル・オペラ・ハウスの空間を体験してみたい」
という気持ちもありました。
「クローズ前のロイヤル・オペラ・ハウスで
熊川さんと吉田さんが踊るのを
見られるなんて!」
教えてくれたジルに感謝しつつ、
土曜日の朝、当日券を求める人の列に並び、
昼公演のチケットをゲット。
(実際にはもっと並んでいて、
ようやくカウンターが近くなって撮影。)
舞台よりも天井に近い代わりに
綺麗に全体が見渡せる席に座ると、
周りにはバレエをしている人なのか、
愛好者なのか、
かなりバレエに詳しそうな話をしている方も
いらっしゃいました。
この日の演目は四つ。
・プッシュ・カムズ・トゥ・ショヴ(Push comes to Shove)
・ステップテキスト(Steptext)
・タリスマン・パ・ド・ドゥ(Talisman Pas De Doux)
・シンフォニー・イン・シー(Symphony in C)
Push comes to shove
(When push comes to shoveで「いざとなったら」の意味で使う言葉)では、
熊川さんが明らかにスターでした。
この演目はとてもモダンで、
バレエというよりは
ジャズダンスのようでもあり、
振り付け自体がユニークなのですが、
熊川さんの動作の一つ一つがチャーミングで、
踊ることを楽しんでいることが
伝わってくるようで、
目を話すことができませんでした。
また、熊川さんは高い跳躍力でも有名ですが、
かなり高い場所にあった
わたしの席からでもわかるくらい
ジャンプが高くて、
驚愕せずにはいられませんでした。
(わたしの席ははるか天井に近い席。
いくら当時視力が良くても、あのジャンプの高さは
驚異的に見えました)
わたしは日本人で、かつ北海道出身なので
余計に親近感を感じて、
熊川さんから目が離せない部分もありましたが、
他の観客も
彼の独特な雰囲気を楽しんでいるようでした。
この演目が終わった後、
全てのダンサーがカーテンコールで現れた時も、
熊川さんは最大の拍手を受けていました。
彼の合図で他のダンサーたちが
ポーズをとって見せたのも格好がよくて、
「世界中から集まった才能あるダンサーの中で
プリンシパルになる人って、
こういう人なんだな。」
と圧倒されながら、わたしも拍手を送りました。
そして、吉田都さんは
「タリスマン」のパ・ド・ドゥと
「シンフォニー・イン・シー」で登場。
彼女が「タリスマン」でソロで踊っている時、
全く知識のないわたしがただうっとりと見とれていると、
近くの席にいた
ある程度バレエの知識のありそうな女性たちが
「素晴らしいわね!」
「彼女、水際だってる!」
などと感心したように話していて、
わたしまで誇らしい気持ちになりました。
パートナーの男性ダンサーはとても背が高く、
彼のダイナミックなダンスも素晴らしくて、
この演目が終わった時、
観客からはびっくりするくらいの大きな拍手が。
ところが、吉田さんは
ロイヤル・オペラ・ハウスで
「タリスマン」を踊るのは
この時が初めてだったとかで、
彼女は緊張の糸が解けたのか、あっという間に
舞台から引っ込んでしまったのです。
若干ののちに恥ずかしそうに
舞台に戻ってきたのも微笑ましく、
観客ももう一度大きな拍手を送っていました。
今となっては、あの日、
熊川哲也さんと吉田都さんのバレエを
ロイヤル・オペラ・ハウスで見られたことが、
本当に奇跡のように思えます
今回も最後まで読んでいただき、
ありがとうございました。
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上記の公演についても、
Vol.4にはもう少し詳しく書いています。
鋭意執筆中!