キャスティングという仕事「キャスティング・ディレクター」
映画やドラマを見て、
「この人ははまり役!」
とファンになったり、そのドラマや映画自体も大好きになること、ありますよね。
その陰にある「キャスティング(配役)」という仕事の重要性をわたしはあまり意識したことがありませんでした。
先日見たドキュメンタリー映画
「キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性」
(Casting By)
で初めてその重要性を学びました。
主人公のマリオン・ドハティは2011年に亡くなっていますが、映画の中では生前の彼女へのインタビューだけでなく、彼女が関わった映画監督や彼女が発掘した錚々たる俳優陣へのインタビュー、彼女がキャスティングした作品の名場面が満載。
(ウディ・アレン、ロバート・レッドフォード、クリント・イーストウッド、ダスティン・ホフマン、グレン・クローズ、ベッド・ミドラー、などなど!!)
インタビューの中ではマーチン・スコセッシ監督が
「映画監督の仕事の9割はキャスティングの質で決まってしまう」
と話し、上記のような人たちがそれぞれにマリオンとの思い出や、彼女への感謝の思いを語っています。
わたしが吉祥寺の「Uplink吉祥寺」でこの映画を見た日、上映後にはピーター・バラカンさんとこの映画の配給会社でもあるテレビ・ユニオンの大野さんのトークショーが行われました。
バラカンさんもトークショーの前に観客と一緒にもう一度ご覧になっていたそうです。
バラカンさんは学生時代、彼女がキャスティングしていた
「俺たちに明日はない」「スティング」
などが大好きで、映画館に通って何度も見ていたそうで、
「キャスティングが完璧だった」
と話していました。
この映画は2012年の米国映画で、日本では配信で見ることはできたものの、今年になるまで劇場未公開でした。
最初の公開から10年経ったこのタイミングで日本での劇場公開にふみ切った理由として、大野さんは
「キャスティングの重要性を考える時代になったこと」
「こんなにすごい役者層が出てきた時代があったこと」
をあげていましたが、映画を見ると本当にそのことに驚愕します。
主人公のマリオン・ドハティ(1923-2011)は「キャスティング」という仕事が正しく評価されていなかった頃から米国の様々なドラマな映画のキャスティングを担当し、監督が描く作品の世界にぴったりなキャストを探し出します。
といっても、彼女の場合は自らオフブロードウェイ、オフオフブロードウェイなどに芝居を見に行き、これはという役者を探し出すのです。
マリオンがキャスティングを始めた最初の頃は、テレビのドラマも録画ではなく、毎回生放送。
ですから、毎週毎週、番組ごとに役にふさわしい俳優を予算に収まるよう見つけ出し、手配しなくてはいけません。
しかも、主役だけではなく、複数の役の候補を複数選び出すことも必要だったのですから、たやすいことではありません。
彼女がこの仕事を始めた当時、ありがちなキャスティングは
「この役者はこの役」
「こういう役にはこの役者」
というステレオタイプのもの。
でも、彼女は役者の個性やそれまでの実績、監督の求めるその役に適した役者かどうかなど繊細に見極めてキャスティングをして行きます。
のちに彼女は米国の大ヒットドラマ「ルート66」のキャスティングも担当するように。
この作品はどんどん撮影場所も移動していくのですが、撮影隊が移動すると、各現場に完璧にキャスティングされた役者が揃えられていたそうです。
それだけではなく、キャスティングした役者が失敗をしても、彼女は見込みがある役者のことは見捨てません。
彼女がキャスティングした無名時代のジェームズ・ディーンが遅刻をして起用が立ち消えになりそうになった時も、彼を謝罪に行かせて無事に役を勝ち取らせたり、撮影現場で求められる演技ができず、監督を激怒させた俳優ものちに別の役で起用したり。
また、「リーサル・ウェポン」でメル・ギブソンの相手役に彼女はダニー・グローヴァーを推しました。
彼が黒人であることを理由に断ろうとしたリチャード・ドナー監督を,
マリアンは
「脚本にはこの役が白人だとは書かれていない」
と説得し、最終的にダニエル・グローヴァーが起用され、リーサル・ウェポンシリーズは大ヒット。
もしマータフ役を他の役者が演じていたら、きっと映画は全く違うものになっていたはず。
この時の経験は監督の考え方も変えることになったようで、リチャード・ドナー監督は
「その後の自分の人生にも影響を与えた」
と話していました。
マリオンは亡くなりましたが、彼女の元で育った後輩たちが今もスコセッシ監督やウディ・アレン監督の映画でキャスティングを担当しているのだとか。
ちなみに、こんなにも映画・ドラマ製作に貢献したにもかかわらず、キャスティングの仕事はなかなか評価されず、以前は映画やドラマにはキャスティング担当者の名前はクレジットすらされていませんでした。
いまだに「キャスティングディレクター」という言葉自体を嫌う監督までいて、米国アカデミー賞には最優秀キャスティングディレクターを評価する部門がありません。
これまで何度も作ろうとする動きがあったにもかかわらず、その度に強い反対意見が出て実現していないのだそうで、個人的には非常に腑に落ちない気がいたします。
(なお、英国アカデミー賞では2019年に(ようやく?)キャスティング部門が新設されたそうです)
マリオン・ドハティの仕事とともに、米国映画製作の変遷もたどる、見応えのある映画でした。
吉祥寺UPLINKでは7/14までの1週間限定の上映です。
興味のある方は、ぜひ。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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