「プラン75」がもし本当にあったら。
先日、封切られたばかりの邦画、「プラン75」を見てきました。
この映画で早川千絵監督が今年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で新人監督賞にあたるカメラドールのスペシャル・メンション(特別表彰)を受けたので、ご存知の方も多いかもしれません。
わたしが見に行った日は上映前に早川監督と出演者の河合優美さんのトークを聞くことができたので、ほぼ満席。
「まだみなさんご覧になっていないので」
と監督も河合さんも気を遣ってくださり、詳しいことにはあえて触れずにお話ししてくださったので、お二人とも少し話しにくそうではありました。
河合さんは
「監督は少女のようなところがあって、他の監督はなかなか言わない素直な感想を言ってくれることがあった」
「(主役の)倍賞千恵子さんと共演できたことは自分にとっては財産。
倍賞さんは自分の出番ではない時にボランティアの方の演技を見ていて
『素敵ね』
『私もあんな演技ができたらいいな』
と言ったり、エキストラさんにも自分から
「おはようございます、倍賞千恵子です。
みなさん、お寒い中、ありがとうございます』と挨拶するような方だった」
と話してくれました。
また、監督は河合さんが演じる遥子を(「プラン75」のコールセンターで申込者をサポートするスタッフ)当初はもう少し年上の、複雑な背景を持つ女性としていたのだそうです。
でも、河合さんと話してみて、もっと若い、本当に普通の何気ない女性として描くことにしたのだとか。
(注:ここからの記載にはネタバレも含みます)
映画のタイトルでもある「プラン75」は、「75歳以上の国民が自らの生死を選択できる」という架空の制度。
さらりと説明されるとそのまま受け止めてしまいそうになりますが、
これは
「75歳を過ぎた国民に、自ら尊厳死を選ぶ選択肢を与え、国がその人の最期をサポートする制度」
なのです。
映画の中では超高齢化が進む日本の社会の中でこの制度が国会で可決され、
当たり前のことのように政府のキャンペーンが行われます。
申請すると、10万円のお金(支度金?)を受け取ることができ、国の支援のもと安らかな最後を迎えられる。
(いくつかのプランが選べるようですが、個別ではなく、合同埋葬のような「一括処理」を選択すると、「一番簡単にお得に」最後を迎えられる)
一見、「お得な選択」に見えてしまうのが怖いところ。
親切そうに見えますが、
「国がお金のかかる高齢者に対して尊厳死を推奨する制度」
なのです。
(言い方は悪いですが、制度の目的は、超高齢化社会が進む中で高齢者にかかる経費を削減するため、としか思えません。)
役所に行けば年金の手続きと同様に「プラン75」の説明・申し込みの部署があり、そこでは多くの高齢者が順番を待っています。
順番を待っている人たちの前のモニターで流れるプロモーション動画?では「プラン75」を選択したと思しき女性がにこやかに話しています。
「生まれてくるときは選べないから、死ぬときくらい選びたいと思って。
そういうこと決めたら安心した。
(そんな自分のことを)
『いい人生だったんじゃない?』っていうと思う、みんな。」
こうやって、尊厳死を選ぶプランを選択することがいかにも正しいことのように刷り込まれていくことが恐ろしい。
そして、これは役所の窓口のことだけではありません。
屋外で食べるものに困る方達のための炊き出しの列の近くにもこの「プラン75」の受付のデスクが設けられています。
(命を永らえるための食事を配布するそばで高齢者に尊厳死を進めるシステムの受付が行われていることにもゾッとします)
倍賞千恵子さんが演じる主人公のミチは78歳。
一人暮らしの彼女はホテルの客室清掃員として働いていますが、同じくらいの年代の女性の同僚たちとおしゃべりをしたり、時にはカラオケに行ったりしながら、ささやかながらも穏やかな毎日を楽しんでいます。
でも、やはり年齢が原因でミチもこれまでの生活を続けられないことに。
彼女なりに手を尽くしても、仕事もお金も、住まいもなくなる可能性を前に思い切って生活保護窓口に行くと、すでにその日、窓口は業務を終了した後。
そして、彼女は「プラン75」に申し込むのです。
架空のストーリーではあるけれど、今の日本を見ていると、可能性としてゼロと言えないのが恐ろしい。
この映画については、もう少し書きたいことがあるので、また次回に。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。