エリック・カールさんが絵本で伝えたこと
前回に続き、4月23日にちひろ美術館・東京で伺った松本猛さんの講演
「ちひろ美術館とエリック・カール」
のお話です。
猛さんがエリックさんの自宅に滞在している時、自宅とエリックさんのアトリエの間を散歩しながら行き来する時、ルートを変えたりしながら、エリックさんは様々なお話をしてくださったそうです。
前回に書いたお父さんのことや子供時代のこともそんな時に伺ったのだとか。
そして、エリックさんは1952年、ドイツから米国に戻りますが、米国生まれたとはいえ、6歳からドイツですごしていた彼は英語でのコミュニケーションで苦労したこともあったのでは、とのこと。
彼は猛さんとは英語で話していたわけですが、猛さんは
「彼ほど英語の下手な人に対する心遣いがある人に会ったことがない。
人の心の痛みもわかる人だった。」
と話していました。
そして、エリックさんは
「戦争は攻める側も攻められる側も傷つく。
どんな時も戦争をしてはいけない」
といって、2001年9月11日の米国同時多発テロの後に当時のブッシュ大統領がアフガニスタン戦争を始めた時も米国政府を強く批判していたそうです。
また、エリックさんが再婚した奥様、バーバラさんは障害のある子供達の教育に携わっていた方で、とても素敵な方だったのだとか。
そして、エリックさんは絵本作家として世界中で知られるようになり、経済的に余裕ができてからも
「自分は今こんな家でおいしいワインも飲めるけど、自分がこんな暮らしをしていいのだろうか」と、苦しかった貧しい時代のことをいつも意識していたそうです。
また、エリックさんはスイス生まれの画家、パウル・クレーの絵を
「内面の豊かさがあり、とても自由だ」といい、大好きだったそうです。
もう一人、16世紀のフランドルの画家、ピーター・ブリューゲルの作品も
「人々の生活を描いている。土の匂いがする」
と好んでいたとか。
また、エリックさんの作品で「うたがみえる きこえるよ」という絵本があるのですが、猛さんはその本には
「彼の精神性が入っていると思う」
と言います。
「絵本にはページをめくることの喜びがある。
絵本は彼の中では音楽でもあり、ページとページの間の変化を楽しむもの。」
わたしは猛さんのお話を伺った後、実際にその絵本を読んでみました。
最初はモノトーンで描かれるバイオリンが演奏を始めると、色とりどりの音が宙を漂い、月や太陽を感じさせ、それは生きとし生けるものの命を感じさせ、ひとの心を動かし、心の中にしみ込んでいきます。
そして、その音楽の世界は感動の花を咲かせ、音楽の余韻が人々の心を満たしている中、バイオリニストは演奏を終えるのです。
最後にお辞儀をして去っていく彼は、シルエットは最初の登場と同じなのですが、彼自身も音楽の余韻で色鮮やかに染まっているのです。
(ただし、この本の解釈はひとそれぞれなので、別の感想を持たれる方もいらっしゃると思います)
音楽を絵本で表現するということも斬新ですが、アートがどのようにひとの琴線に触れるのか、アートに触れることで人の心がいかに豊かになるか、ということがページをめくるほどにどんどん伝わってくることにびっくりしました。
「画面と画面をどう繋げるとどんなイメージが出るのか。
絵本を大人も楽しめるようにしたいという事もこの美術館の目的の一つ」
という猛さんのお話も、なるほどなあ、と思いました。
エリックさんはかつて日本の子供たちに
「忘れないでほしいのは、楽しむこと、遊ぶ時間をつくること、そして自分でいること!」
というメッセージをくださったそうです。
大人にも響くメッセージですね。
今回の講演会はちひろ美術館・東京で松本猛さんからエリック・カールさんのお話を伺えた、本当に貴重なひとときでした。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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