「ちひろ美術館とエリック・カール」松本猛さんから見たエリックさん
いわさきちひろさんの個展や安曇野の「ちひろ美術館」には行ったことがあったのに、東京のちひろ美術館にはこれまで行ったことがありませんでした。
4月23日、ちひろさんの息子さんの松本猛さんが、東京のちひろ美術館で現在展示中の「エリック・カールとアメリカの絵本画家たち」に関連して「ちひろ美術館とエリック・カール」というテーマで講演会をされると知り、「この機会に!」と事前に申し込み。
住宅街の中にひっそり佇む美術館は、ちひろさんが亡くなった3年後の1977年、自宅兼アトリエがあった場所に建てられています。
今は絵本美術館もあまり珍しくはない気がしますが、当時はここが世界初の絵本美術館だったのだとか。
(その後、改築もされています)
大きな美術館ではありませんが、ちひろさんの作品はもちろん、復元されたアトリエやちひろさんが育てた草花や樹木が植えられた可愛らしい「ちひろの庭」もあり、ゆっくり楽しんで拝見しました。
松本猛さんの講演は2Fの図書室で開催されました。
猛さんは東京芸大美術学部在学中、ちひろさんというプロがおうちにいらっしゃるので家でデッサンしていてもすっとひと筆で訂正されたりして、
「画家にはならない」
と決めていらしたとか。
(「ジャーナリストになりたい」という憧れもあったのだそうです)
まさかその頃はちひろ美術館を作ることになるとは思っていなかったのでしょうが、在学中に学芸員の資格を取得します。
大学を卒業した年にちひろさんが亡くなり、、
「自分に何ができるだろうか」
と思った時に思い浮かんだのは
「母の作品を残す」
ということ。
ちひろさん同様に優れた画家の方も、ご本人が亡くなると作品が散逸してしまうことが多いのだとか。
(もしかしたら当時と現在では状況が変わっているのかもしれませんが)
かくして猛さんはちひろさんの美術館作りに取り組むことになり、1977年に「いわさきちひろ絵本美術館」を開設。
(今は安曇野の美術館もあるため、こちらは「ちひろ美術館・東京」とされています)
「はらぺこあおむし」などで有名な絵本作家のエリック・カールさんは、米国生まれのドイツ人。
1985年に初来日され、その時に猛さんはパーティーの席で初めてエリックさんに出会い、ちひろ美術館のことを話したのでそうです。
「今はまだ予算がないのでちひろの絵しかないが、将来的には世界の優れた絵本画家のコレクションもしたい」
と話すと、びっくりすることが。
数日後、エリックさんから美術館に彼のおんどりの絵が届けられたのです。(この絵も展示されています)
これがこの美術館のちひろさん以外の作品のコレクションの第一号に。
つまり、猛さんが語った夢を、エリックさんが現実にする第1ページを開いてくれたのです。
おんどりの絵を受け取った猛さんは
「本気でやるしかないと思った。
それからアメリカに行ったり来たりしてコレクションを始めました。
エリックに会っていなければ(いずれは始めていたとしても)、コレクションはもっと遅れていたかもしれません」
と話していました。
このお話からもわかるように、エリックさんはとてもあたたかな、気配りをされる方で、猛さんがエリックさんを訪ねて渡米した際にはすでに独立されていた息子さんの部屋に泊めてくださり、まるで息子のように接してくださったのだとか。
そして、猛さんはエリックさんからその人生や絵本画家としてのあり方から多くのことを学ばれたのだそうです。
のちに安曇野のちひろ美術館を作る前にはエリックさんの案内で米国の国民的画家、ノーマン・ロックウェルの美術館などを訪れ
「中小でうまくいっている美術館は公園型の美術館」
だと感じ、ミュージアムショップで売られているバラエティ豊かなグッズからグッズ製作の重要さも学ばれたのだそうです。
ちなみに、安曇野のちひろ美術館はちひろさんのご両親が住んでいた場所に建てられているのですが、広々とした公園の中に立っていて本当に一日ゆっくり過ごしたいような、素敵なところでした。
猛さんのお話は省略するにはあまりに惜しいので、続きはまた次回に。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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