
職場の人たちの会話のつまらなさにイライラ。吉本NSC人気NO.1講師が考える対処法は?
放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。
「職場の笑いのセンスが好きではなく、つまらない話で笑っている同僚たちにイライラしています。そんなときはどうするべきでしょうか?」という御相談をいただきました。
学生時代の「教室」と違って「職場」は年齢もバックグラウンドも異なる人たちの集合体。同世代のニッチな笑い、地元あるあるなどの言語ツールを使えないので“笑いの隔たり”が生まれ、それは労働意欲やパフォーマンスにも影響していきますよね?
そこで今回は、約1万人の芸人を育成してきた僕が、「自分と職場の笑いのズレ」にまつわるツボをゆっくりほぐしていきたいと思います。
あの人は「面白くない」という視座が「面白くない」
まず、相談者さんのように「他者の笑いが好きじゃない、分からない」という感情は至極まっとうです。
芸人さんらと会話していたとき、あるM-1王者が「吉本NSCに入ったけど面白いヤツはそんなにいなかった」と回想し、売れっ子たちも賛同したことがありました。
笑いに自信がある約700人が集う芸人学校でさえそうなら、私たちの社会には“そもそも面白い人はそんなにいない”とも言える。なので、あなたの「あの人の面白さが分からない」はごく普通なんですね。
しかし、ミュージシャンの歌、俳優の演技などの「うまい/うまくない」にくらべ、お笑いの「面白い/面白くない」の基準は曖昧かつ、人それぞれです。
トイレを我慢して悶絶している人を見て、面白いと思う人もいれば、かわいそうと思う人もいるので、自分のものさしを職場やコミュニティで振りかざすと人間関係に支障がでてきます。
例えば、NSC生700人の間でも、入学して程なくすると、複数のグループや一匹狼が生まれ、「アイツらのレベルは低い」「オレのネタで笑わない同期が理解できない」などの摩擦が生じていきます。
そして、必ずパフォーマンスを下げていくのは「周りがおかしい、オレは正しい」という基準を採用した生徒たち。現在メディアで活躍している教え子は“そんなに面白いヤツはいないけど、自分は自分、他人は他人だよな”という、ものさしを軸にしていた傾向があります。
なので僕は、そういった感情の罠にハマりがちな生徒にこんなふうに伝えています。
「お笑いの最大の力は“深刻な状況をうっちゃる力”、スベる、金がない、失恋、孤独とか、そんな深刻な状況を笑いに換えていく感性だよね? だから他人の笑いの理解に苦しみイライラするという、深刻な状況をつくりだしてしまう自分が一番“面白くない”んだよ」と。
「人それぞれ」は、最近よく「多様性」という言葉に置き換えられますが、声高に多様性を唱える社会は、他人の笑いも容認していく社会であるはずだと僕は思っています。
職場の笑いのズレは、靴ズレのようなもの
コミュニティ内での「周りがおかしい」は、自分のパフォーマンスを下げていくことが分かってきました。
では、大して面白くない人たちと働いていく「職場の笑いのズレ」は、どのように解消していくべきなんでしょう?
その答えは“面白い/面白くないとは別の基準でオフィスを眺めること”です。
例えば、今この瞬間の経験は「自分のためになっている/なっていない」という視座で見れば、他者の笑いのセンスなんておかまいなし。自分×仕事というベクトルで視界が広がります。
さらに、そういった視点を手に入れると“自分のキャリアアップのためには周囲の協力も必要だ”という感情も発露します。
例えば、僕の場合はこんな感じでした。
①新しい職場は、新しい靴みたいなもんじゃないか?
②つまらない人たちとの摩擦は、靴ズレみたいなもの
③最初は痛みを伴うけど、じきに馴染んでくるはず
④ならば自分からも歩み寄らないといけないよな
このような思考で、まずは自分の笑いのセンスは横に置き、同僚との会話の総量を増やす。そう、「面白い人」ではなく「普通の話ができる人」を目指してみたのです。
笑いという戦闘力を手放してみると、それまで腹立たしかった「イラ」が「アラ?」に変わり、他者の美点に気づく。
それを取っ掛かりにして普通の対話をしていくことで職場のズレは和らぎ、馴染んでいったんですね。
桝本 壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。