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第15回 間違った「尺度」を選ぶと、未来を失う

『映画 えんとつ町のプペル』の再上映の“本当に大切な数字”


これからお見せする【数字】は、『西野亮廣エンタメ研究所』のサロンメンバーさんが調べてくださった、『映画 えんとつ町のプペル』の再上映の「1回上映あたりの平均来場者数」です。
※データは「興行収入を見守りたい!~ 映画 チケット 販売数 ランキング ~」のデイリー合算ランキングを参照し、販売数/回数により計算。
結果は以下の通りです。

↓↓↓
10/22(金) 1位 29.0人/1回
10/23(土) 2位 62.5人/1回
10/24(日) 2位 63.7人/1回
10/25(月) 1位 27.1人/1回
10/26(火) 2位 24.1人/1回
10/27(水) 1位 35.1人/1回
10/28(木) 1位 23.8人/1回
10/29(金) 1位 34.0人/1回
10/30(土) 1位 93.0人/1回
10/31(日) 1位 133.6人/1回

期間中の1回上映当たりの販売数第1位は10/31(日)の「映画えんとつ町のプペル」で、期間中唯一の100人越えでした。
(※期間中の販売数の1位は10/30(土)の『劇場版ソードアート・オンライン プログレッシブ 星なき夜のアリア』で販売数は99,277枚でしたが、1回上映当たりの販売数は91.7人/1回で2位)

……とても面白い結果です。

再上映の期間中は、話題の新作もたくさん発表されたのですが、「一回上映あたりの平均来場者数」では、ほぼ全ての日程で『映画 えんとつ町のプペル』が1位でした。

本当に皆様のおかげです。ありがとうございます。

あの…まさか、「すげぇだろ!」という自慢がしたいわけではありません。

今回の再上映の目的は「来年に繋げて、来年のハロウィンでも再上映をして、ゆくゆくは『ハロウィンは映画館にプペルを観にいく』という文化を作ること」です。

その為に、目を向けなきゃいけないのは「1回上映あたりの平均来場者数」です。

今回の再上映の「総来場者数」が、仮に(上映館数字を増やして)今回の10倍であったとしても、「1回上映あたりの平均来場者数」のランキングが1位~3位ぐらいにランクインしていないと、来年に繋げることはできませんでした。

劇場さんからすると、「1回上映あたりの平均来場者数」が低い作品を再上映するメリットがないからです。

「去年の再上映で30万人を動員したので、今年も再上映をしましょー!」と声をあげたところで、劇場さんは「是非、ウチで」と手を挙げてくれません。

その時点でゲームオーバーです。

一つのお店を生かすのも殺すのも『ミクロ(単体の/小さな)』の数字です。

『マクロ(全体の/大きな)』の数字をとった裏で、『ミクロ』の数字が犠牲になっていたら、一つのお店は存続できません。

あまり語られませんが、今回の再上映の成功は、「早々にマクロの数字を捨てた」ということに尽きると思います。

偉そうに語ってますが、これは僕のアイデアではなくて、一緒に走ってくださっているスタッフさんからのアドバイスでした。

「西野さん。マクロの結果は捨てて、ミクロの結果を取りにいきましょう(=各劇場さんを丁寧に勝たせにいきましょう)」というアドバイスです。

その提案をしてをいただいた時に「なるほどなぁ」と思ったと同時に、「マクロを取りにいって、ミクロを犠牲にして、プペルの再上映が今年で最後になる未来」も全然あったことを思い、ゾッとしました。

「再上映で10万人を動員するぞ!」という目標を掲げていてもおかしくなかったし(※西野はそういうこと言いそうじゃん!)、きっと、多くの人がその掛け声に疑問を抱かず、応えようとしてくれたでしょう。

僕らは、あそこで半歩踏み誤れば、崖に落ちていたのです。

ここからが今日の本題です。

個性の作り方が分からないのは何故か、戦略の立て方が分からないのは何故か

僕はアメリカ人に憧れているので結論を先に言っちゃいますが、
自分やチームの『姿形や理念(一般的には「個性」と呼ばれるもの)』、そして『戦略』を形成しているものは、【意思】などではなく、その時に自分が選んだ【尺度(ものさし)】であることを僕らは強く意識しておく必要があります。

YouTuberの個性や戦略を形成しているものは「再生回数」や「チャンネル登録者数」という【尺度】であり、
テレビタレントの個性や戦略を形成しているものは、「レギュラー番組の本数」という【尺度】であり、
フリーランスのインフルエンサーの個性や戦略を形成しているものは、「お金」という【尺度】です。

どの【尺度】を選ぶかによって、自分や自分のチームの個性や戦略が形成される…という話です。

「個性を作れ!」「戦略を立てろ!」と言われても、どこから手をつければいいか分かりませんが、「尺度を選べ」と言われると、少しだけ光が見えてきます。

「再生回数」という尺度の中では生まれない個性は当然あるし、
「レギュラー番組の本数」という尺度の中では生まれない個性もあります。

それは、「努力が足りない」とか「戦略の立て方が甘い」とか、そういった話ではなくて、もっと『自然』の話です。

尺度というのは、つまるところ『環境』で、海で生きるならヒレを生やさなきゃいけないし、陸で生きるなら足を生やさなきゃいけない…みたいなことです。

そんなこんなで、何が言いたいかというと…
「『尺度』というものが、これだけ僕らの姿形、あるいは戦略を決定づけるものなのにも関わらず、僕らは往々にして『尺度』の選び方が雑じゃね?」
という問題提起です。

だって、これだけ毎日考えて、毎日行動して、毎日吸収しているというのに、あの時、僕の半歩隣には、「再上映で10万人を動員するぞ!」という尺度があったんですもの。

あと少しで、僕は、それを選ぶところでした。

きっと、まったく自覚がないところで、僕は、間違った尺度を選び、その尺度の中での結果を獲得しては悦に入っていたことが過去にあったと思います。

特に気をつけなきゃいけないのが、「尺度に無自覚な多数派の意見に心が揺れる」というところです。

今回はとくにそういった声はありませんでしたが、「プペル、再上映してるのに、お客さんが一日で数千人しか入ってないじゃん。ざまぁww」という尺度オンチ(マクロバカ)の声が、僕らの身の回りには普通にあるわけで、ここに気持ちが持っていかれる可能性もゼロではありません。

どんなサービスをする時も、『尺度を見誤らない』と『尺度オンチの声に引っ張られない』の二つは強く意識しておいた方が良さそうです。

ちなみに、『映画 えんとつ町のプペル』は今回の再上映によって、

観客動員数が【178万8284人】
興行収入が【24億6790万4450円】

になったそうです。
(※正確な数字かどうかは知りませんが、だいたい合っていると思います。

とりあえず、向こう10年は(キチンと尺度を選んで)この調子で頑張っていきたいと思います。

西野亮廣

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