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IVRyにおける新組織PMMとは?

新組織PMM誕生の背景

はじめに

こんにちは。株式会社IVRyの落合です。2023年8月に入社し、Corporate StrategyからMID&Enterprise事業を経て、2025年1月より新組織PMMを立ち上げることになりました。PMMという国内では比較的マイナーなこの職種について、現在のIVRyではどのように定義されるのか?どのような仕事内容なのか?といったテーマで、読者の方に対して少しでも新規事業の検討・拡大の一助となるような内容を記載できればと考えております。

なお私自身は外資系の経営コンサルティング会社2社及び国内SaaS企業を経て現在IVRyにジョインしておりますが、詳細につきましては以下URLを掲載していますのでご興味ある方は参考程度にご覧いただけますと幸いです。

多様なプロダクト展開フェーズへの移行、そしてPMMの発足

IVRyは対話型音声AI SaaSのIVRyを軸とした事業拡大を行ってきましたが、現在はAI音声案内から音声解析、スマホレンタル、AI FAX等様々な周辺サービスが展開されており、またこれら以外にも様々なサービスが開発されている真っ只中です。
このような多様なプロダクトを企画・開発する企業において、いかに早くプロダクトを顧客に届けるのか?は事業戦略上も非常に重要ですし、何よりプロダクトの価値をいち早く実感していただき、日々の業務の効率化に役立てていただくことで、顧客に届けられる価値が最大化できると考えております。

IVRyにおけるプロダクトのフェーズ管理はPOC、PMF、そしてGrowthという3段階に分かれており、それぞれのフェーズで検証すべき論点が解消されることで次のフェーズに移行するという考え方が浸透しています。POCではプロダクトの種づくり、PSF検証、技術検証、PMFではプロダクト化とユニットエコノミクスの初期検証、そしてGrowthではGo to marketを前提として投資・組織の拡大を行い、販売の最大化を目指すというようなイメージです。

このような組織の中に割って入る形となったのがPMMで、上述の通りPMFとGrowthの橋渡しをする、具体的にはPMFで一定の検証を経たプロダクトを、実際に販売するGrowth組織においてどのように販売するのかを検討することが、この組織の役割です。

一般的なPMMの解釈とは?

ここで改めてPMMにおける一般的な解釈について簡単に触れておきます。PMMとはProduct Marketing Managerの略称で「どのようなプロダクトが売れるかを考え、そのプロダクトを売る方法を決める仕事」と定義されています(とても分かりやすいCoral Capitalさんの記事から引用させていただきました)。

元々はGAFAをはじめとする外資Techで長く存在した職種のようですが、日本ではまだマイナーな職種で(ここ数年でちらほら見かけるようになってきましたね)かつ各社により求められる役割も大きく異なるという印象です。海外では一般的にPdM(Product Manager)と棲み分けされ、PdMはEngineerやDesigner等の開発領域に責任を持つ一方、PMMはMarketing、Sales、Customer Successの販売領域に責任を持つものとされています。

一方で双方の役割は綺麗に線引きできるものではなく、特に全体のProject設計・社内調整やプロダクトの仕様変更(機能追加やプライシング等)は二人三脚で進めていくものだとされており、密な連携が求められます。

IVRyにおけるPMMの役割

IVRyにおけるPMMについても上述の内容から大きく逸脱するものではありませんが、いくつか異なる点があります。これはあくまで正解があるわけでもなく、良し悪しがあるものでもなく、会社や事業が置かれたリソースや人員の状況においても変化があるし、IVRyのPMMもこれからどんどん変わっていくと思います。

そのような前提のもとでお話しすると、前述のとおりIVRyのPMMは「PMFからGrowthへの橋渡し」と表現しましたが、具体的にどのような検証を行うのか?を考えると、上述のMarketing、Sales、Customer Successの販売領域(以下S&M)に加え、FinanceとOrganizationの観点も検証・対応すべきスコープに入ってきます。

次章で具体的な検証観点について記載していきますが、あくまで組織発足から1か月で検証項目もこれから更に増えていくことも想定されるので、現時点で検討・検証内容を中心に記載できればと思います。

Go To Market Readyに向け、PMMが検証すべき論点

S&M(Sales & Marketing)

前提としてPMF段階で一定の初期検証を終えていますが、実際の販売組織でこれらの検証の蓋然性を高めていったり、PMFの段階で検証できなかったようなことも対象となります。例えば各ファンクションで以下のような検討論点が挙がります。

  • Marketing

    • 顧客属性を見極めながら、どのような手法でリードや商談を獲得するのかを考えます。例えば顧客規模が小さければOnline Marketingや展示会等が中心となり、大きくなればABM(Account Based Marketing)が主流になる等、またこれらをどのように組み合わせるのか、リード獲得方法や予算ポートフォリオも同時に検討します。

    • 新規顧客獲得においてはどの程度のCPAでリードを獲得できるのか、またCPAの上限値を高めたところでどの程度のボリュームのリードを獲得できるかを、実際に予算を投下しながら検証します。この過程で必要となるキーワードの選定や競合状況の把握しながら、他の事業とも比較し、許容できるスタッツに着地できるのかも検討します。

  • Inside Sales

    • 新規事業においては検証観点だと比較的BDR(Business Development Representative)の手法をとることが多いです。例えば飲食業を攻略するのであれば都道府県、ジャンル、座席数、ディナー予算等の基礎情報をベースにセグメンテーションとターゲティングを行い、その次に架電時間を午前・午後・夜間といった形で分けながら検証し、その上でトークスクリプトの磨きこみを行います。もちろん一定の量はこなしますが、最低限の検証N数を担保しながら、可能な限り様々な観点かつ高速で検証することが求められます。

    • これらの検証を通じてCall to Connect(通電率)とConnect to SAL(商談獲得率)の最大化に必要な最適解を見つけ出します。これをインプットとして商談の獲得効率性の試算が可能になります。またこの検証の中で明らかに獲得が難しいセグメントを明らかにすることも行います。

    • 最終的にSOM(Serviceable Obtainable Market:ある事業が実際にアプローチできる顧客の市場規模)においてどの程度の商談数を獲得でき、それに係るコストがどの程度必要かの試算が可能となります。(例えば一人当たりの創出商談数とコスト等を用いることが一般的です)

  • Sales

    • 商談実施後から受注に至るまでのCVR、商談回数、期間等を計測し、Salesの効率性を検証していきますが、これらの数値がPMFフェーズで描いた想定から大きく乖離する場合はファネルの歩留まりがどこにあるのか?の可視化とどのように改善できるのか?の打ち手を検討が必要となります。

    • 実際の商談で起きた事例を交えると、例えば上申に際して担当者から決裁者に正しく情報が伝わっていなかった、申し込もうと思っていたがそれに必要な情報の取得が煩雑で後回しにされていた、アカウント開設のメールが迷惑メールに入っていて見落としていたなど、些細な点がCVRを下げている要因になっていることが多く、地道なフローの可視化・確認を通じてファネルの歩留まりを解消していくことが必要です。そのため、商談のチェックポイントごとにファネルとそのCVR、リードタイムを書き込みながらあるべきCVRとのGapを明確にし、有効な施策を練ります。

    • また同時に失注理由は非常に重要です。機能要因や価格要因といきなりカテゴライズしたくなることもありますが、まずは顧客の発言内容をそのまま聞き取ったり、商談動画等を振り返りながら、どのような意図で発言されているのか?等を確認します。

    • その上で上記で得た失注理由に対し、対抗策は価格なのか、機能不足なのか、あるいはそれ以外の要因なのか?等の議論を行い、プロダクトロードマップ(どのような開発を行っていくか)やプライシングの検討に向けたインプットとしていきます。

総論、実際の販売組織のメンバーが主体となり、PMFフェーズで描いていたCVR等の各スタッツの蓋然性を検証するとともに、それに満たない要素がある場合は実際の架電や商談を通じて顧客の生の声をストレートに聴きながら対応策を導き出すことがPMMにおけるS&M領域で行うべき検証となります。

Finance

PMFで初期的に算出した各スタッツ(CPAやCVR、ARPA等)をPMMにおける販売検証で一定の蓋然性を導き出した上で事業効率性を見極め、事業計画策定のインプットとします。特にSaaSにおいては一般的に事業効率性を見るためにCAC Pay Back Period (CAC: Customer Acquisition Cost/顧客獲得単価)を用いることが一般的です。

CAC Payback Periodは、CAC / ( 1顧客の平均単価(ARPA)× 売上総利益率 )の計算式で求められます。
例えばCACが10万円で、ARPAが1万円(月あたり)、売上総利益率が80%の場合、
10万円/(1万円×80%)=12.5(か月)となるようなイメージです。

なおCAC Payback PeriodのインプットとなるCACは上述のS&Mのパートで検証したCPA、CVRといったファネルのスタッツをベースに、実現に必要なInside SalesやField Salesの人件費等を元に算出します。PMF段階である程度これらの数値を仮置きで作ることはできますが、PMMでの販売検証を通じてこの数値のギャップを埋めた上で蓋然性を高めていくことで、Finance観点≒ここでは事業効率性における大きな問題がないかを確認することができます。なお一般的に、SaaSのプロダクトはCAC Payback Periodが12か月というのが適正指標とされているようです。(当然顧客規模や販売形態により異なりますが)

しかしながら事業効率性といっても論点は多岐にわたり、例えば単一事業で事業効率性を満たすのか?あるいはクロスセル前提で満たすのか?もありますし、そもそもクロスセルでのみ成立するプロダクトも存在します。故にCAC Payback Periodの数値自体に絶対的な正解はなく、あくまで事業ポートフォリオを総合的に見て、どの程度を目指すか?あるいは許容するか?というような考え方が重要で、これは全社のプロダクト戦略に鑑みて閾値を設定していきます。

Organization

S&M、Financeで販売の蓋然性や事業拡張・効率性を検証した後に必要となるのが組織設計です。つまり新規の事業を拡販体制の販売組織に装着する際には組織設計が非常に重要です。特に初期的に発生するいくつかの検討論点について記載していきます。

  • 販売体制を既存組織に埋め込むのか、新組織を組成するのか?

    • 過去在籍したSaaS企業や他のSaaS企業にも当てはまりますが、どのような組織カットにするのか?は新規事業に関わらず常に大きな論点となります。顧客規模、プロダクト、New logo/Expansion・・・どのようなカットで組織を分けるのか?に正解はなく、また企業や事業のフェーズにより常に変化していくものです。

    • 例えば既に展開しているプロダクトとバイヤーが同じなのか、異なるのか?は一つの重要な判断材料となります。バイヤーが同じ場合は可能な限り同じの商流にのせ、同時受注を目指していく方が生産性が上がることが一般的です。一方で既存の確立したオペレーションをチューニングする必要があったり、メンバーが新たなプロダクトの販売方法を習得する必要あったりするため、一時的に既存事業に影響を及ぼすリスクはあります。

    • 一方でバイヤーが異なる場合(例えば営業部と経理部等)は顧客規模にもよりますが、別の組織で対応することも多いです。商談を通じて他のバイヤーをトスアップしてもらうのが最も効率的である一方、別ルートで顧客獲得する方が獲得に係るリードタイムが短くなることもあります。(なお、エンタープライズ規模だとアカウント担当を置くことが一般的なためこの限りではない想定です。)

  • 人員構成は内製か、外注か?

    • 常に事業拡大のスピードに採用を追いつかせるのがスタートアップの使命ですが、その際にアサインする人材をどのように集めるのか?は非常に重要で、社員採用と外部委託をうまく組み合わせながら効率的に事業拡大を目指す必要があります。

    • 例えば、今後の事業拡張性を加味した際に、中長期的に事業が拡大する想定で自社の核となるプロダクトである場合は、内製でチームを組成しながら組織も拡大し、顧客やプロダクトのナレッジを蓄積していくことが望ましいと思われる反面、例えばある程度SOMが決まっていたり、オペレーションが一定型化され横展開が容易でコスト効率が次の論点となっており、スピード勝負で一気にそのマーケットに攻め込みたい場合は即戦力の外注リソースをうまく活用して攻めるのも一案だと考えます。

    • 実際に両者には一長一短あるので、自社の組織体制やフェーズにうまく組み合わせながらハイブリッドで進めていくのが良いと思います。中長期の事業計画をベースに、どの程度のスピードでマーケットインしたいか?あるいは他の事業とのリソース配分等を加味し、Finance観点も加味しながら検討していく必要があります。

  • 他の検討論点

    • 結局のところクロスセルやアップセルといった主要プロダクト以外のものを拡販にするにあたっては、KPIとセットで販売組織に落とし込むこと、さらにInside SalesやField Salesのインセンティブ構造にも組み込むことまで合わせて行うことが重要と考えております。性善説で良しなに売ってくださいと投げるのであれば、真面目で堅実な組織ほど足元の目指す数字を追う傾向が強く、結果新規プロダクトの販売が進みづらいことはよく起こります。故にこれら新規プロダクトはARPAを上げるために重要であったり、新たな顧客層の開拓に向け中長期のMRRにヒットするといったような全社戦略にアラインした前提説明に加え、実際に多数あるプロダクトをどのような優先順位で提案すべきか?を顧客要望やペインと合わせてどのようなリコメンド・提案ストーリーとするかを型化し組織に装着していく必要があります。

終わりに

総論、PMMの役割は、PMFフェーズで検討した内容の蓋然性をS&M、Finance、Organizationの3つの観点で検討し、いかに最速でGo to market Readyの状態を作りこむか?に収斂すると考えます。加えて本稿では割愛しておりますが、他にもMAやSFAの設計・構築から請求管理といったOperation周りや、販売に係るSales Enablement等も対応が必要であったり、プロダクトの形態によってはアライアンス等を含めた他社との連携・協働も発生するため、PMMが検証すべき論点は多岐にわたります。その上でこれまでの経験を踏まえると、新規事業におけるGo To Market Readyな状態を目指す上で、以下のような点が重要だと考えています。

  • Go to Market Readyの状態のTOBE像を明確にし、何がどのような状態になればOKなのか?に常にピン止めして考えること

    • どうしても検証項目が多く、常に新しい課題が出てくる新規事業においては、ふと何を検証しているのかがわからず、永遠に検証のループに陥ったり、あるいはとにかく売り上げ拡大に走り当初検討していた検証が進まず、どこかでその成長が歩留まりになる(大体は既存課金顧客で自社のファン層に売れただけ)こともあります。

  • 可能な限り1次情報を拾いに行くこと、そしてそれをチームで共有し議論すること

    • 特にマネジメント層はInside SalesやField Salesの報告内容で様々な意思決定を要しますが、一方特にプロダクトの初期段階においては、彼らの架電や商談の音声や動画を確認したり、実際に商談に出向き、顧客がどのような反応を示しているのか?を見た方が結果として顧客の解像度が上がりやすいと考えています。

    • また各ファンクションやプロダクトで検証するメンバーはよくて1名だったりすると、横同士でも議論ができないことから主観が強くなる傾向が強いです。故にチームで必ず議論の場を設けていくことで、相互に壁打ちができ、各メンバーの理解促進にもつながると考えています。


PMMという組織は発足してまだ1か月足らずで発展途上ですが、現在も並行して様々な新規事業の検証を行っています。IVRyから今後生まれていく様々なプロダクトをいち早くGo To Market Readyの状態にもっていき、1日でも早く価値提供できるよう努めて参ります。

また上述の通り非常に手触り感のある、非常に良い意味でカオスな組織となっているので、常に変化する新規事業に携わりたい方、変数が多く複雑性の高い論点を検証したい方、事業全体を俯瞰し一つの事業を運営していきたい方など、一緒に働ける仲間も大募集しておりますので、気になる方は是非カジュアル面談でお話しできれば幸いです!

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