短編小説:あの砦を護れ第3話
第3話:基本教練
朝6時
「パッパパッパッパパッパパ~」ラッパ音が鳴り響く
眠たい目を擦りながらムクっとベッドから起き上がる。
「なにボサッとしている!!点呼だ!!!外に集合だ!!!」
教官の怒鳴り声が響く。俺たちは慌てながらもとりあえず寮の前の広場に集合した。
台に上がっている教官が「おはよう!!!!」1人から発せられたとは思えない凄く大きな声で発声した。
教官が続けてこう言った。「いいか貴様ら!入隊式が終わったら貴様らは「お客様」じゃなくなるぞ!これから軍隊の基本をみっちり教えてやる!今のうちから気合入れとけよ!!」そう短く、とてつもなく大きな声でそう俺らに話した。
お客様ってなんだ?そう思いながら俺は広場に集まっている同期の数の多さに圧倒されていた。
今回俺らは少年兵学校の3期生で250人が入っていた。クラスは9つ、ここでは「区隊」と表現されていて、俺は9区隊に所属することになっている。俺は同じ志を持っている奴らが250人もいるのか。そう思い、圧倒されていた。
そして集まりが終わり、部屋に戻る。するとバディの森田が「おい、三谷!お客様ってどう言う意味なの?」そう俺に聞いてきた。そうだ俺もそれが気になっていた。質問を聞き返そうとした時、同じ部屋の松田が「お客様っていうのはまだ入隊式が終わっていない状態で、今はまだ正式な軍人になる前で、厳しいことはやられないから「お客様」と言われているんだよ。」と言った。
俺は「なんでそんなこと知っているんだ?」と松田に質問した。
話を聴いてみると、松田の親は軍人で、昔の自衛隊の時代からずっとこの業界に身を置いているそうだ。
俺は「これは想像以上に過酷なものになりそうだな・・・」そう思い、少しビビっていた。
部屋の奴らと食堂に向かう。食堂の中には先輩の少年兵や、俺らと同期の者もいたが、先輩の威圧感、体格の大きさに俺は完全にビビッていた。
なんとか食事を済ませた。いよいよ少年兵学校の最初の1日目が始まる。
食事を済ませた俺らは8時に教室に向かい、すこし、気を落ち着かせていた。
そして教官が教室に入り、
8時15分、「気をつけ!」教官の掛け声が教室内を駆け巡る。国歌と共に、国旗が駐屯地に揚がる。教官はピクリとも動かない。その姿に圧倒されていた。
そして国旗が上がり、国歌が鳴りやむと、教官が俺らに着席するよう促した。そして、俺らが席に座ると、教官がニコリと笑って「さあ、まずは自己紹介しようか」爽やかに言った。まずは教官の自己紹介から始まる。教官は3人いて、その3人を統括するのが区隊長という偉い人だ。
教官たちは俺らの緊張を解くために笑いを取ったり、気さくに自己紹介をしてくれた。区隊長もいい人そうだ。俺はさっき食堂にいた。先輩の少年兵の人たちをみて完全にビビっていたが、ここでは少し安心できた。
そして生徒の俺たちも自己紹介をした。9区隊は全部で28人、本当それぞれの地方から色んな奴が集まっていることを感じていた。
そして自己紹介が終わると、教官が俺らに「いいか君たち、ここにいる28名で1つのチームだ。これから苦難も多いだろうが、みんなで助け合って困難を乗り切るんだぞ!」そう激励してくれた。
そして、俺らに少年兵学校の成り立ち、今日からどのようなことをやっていくかを教えてくれた。少年兵学校では、軍人としての訓練はもちろん、高校の勉強も実際の高校教師の資格をもった先生が教えてくれる。つまり一応高校卒業の資格をもらうことができることを意味していた。
そして軍人でもあるので給料も支払われる。これは嬉しかった。
説明が終わり、教官が「さあ、まずはこれに署名してもらう。署名は強制ではないが、署名できなければ君らは軍人にはなれない。」と言い俺らに「ある紙」を渡してきた。
そこには、「我々は我が国の平和と独立を護る軍人としての使命を自覚し、事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえることを誓います。」と書かれていて、その文の下に署名するようになっていた。
俺らはしばらく沈黙していた。まだガキではあるが、この文章の重みを感じていたのだ。
そして一人、一人と覚悟を決めたのか、ボールペンを走らせる音が聞こえてくる。そして俺も署名をした。
全員が署名をし終わると「おめでとう!これで君らは晴れて今日から軍人だ。入隊式は1週間後の4月7日だ。それまでに基本教練をみっちり教える。入隊式はお前らの親もくるからしっかりした軍人らしい姿を見せてやれ。」そう笑いながら俺らに言った。
そして、署名が終わり、さっそく基本教練のレクチャーに入る。基本教練とは軍人の基本動作で「気をつけ」「敬礼」「回れ右」などを身に着ける必要があった。それが規律正しく強靭な軍隊を作る元になるらしい。
教官から細かい指導が入る。気をつけの手の位置、足の開きの角度、敬礼の角度等、1週間の長きにわたる時間を基本教練に費やした。
その日の夕方、教官が俺らを教室に呼んだ。もう一人の教官がバリカンを持っている。教官が言った。「さあ、そのボサボサした頭を刈るぞ」断髪式の始まりだ。
皆の頭が刈られていく。そして俺の髪の毛も・・・
丸刈りにするのは人生初のことだった。気づけば一休さんみたいな頭になっていた。これでは外を出歩くのが恥ずかしい!と脳裏をよぎったが、ここは軍隊で、外にもあまり出歩くこともないし、皆が坊主頭になっていくのを見て、どうでもいいやという気持ちになっていた。
そして、連日の基本教練の訓練が終わり、入隊式を迎えた。
国歌斉唱から始まり、校歌斉唱、宣誓が行われた。
会場は厳かな空気で包まれていた。俺の親は遠くてこれなかったが、同期の親が何組か来ていた。
そして入隊式を終えた俺らはもう「お客様」ではなくなっていた。
第4話に続く
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