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視覚障害者の叔母が、新聞を購読してる理由

父の法事があり、久しぶりにおばの家を訪ねた。

東京の下町、細い路地を曲がりくねってたどり着くその家は、
昔から変わらずきれいに掃除されている。
テイクアウトのお昼ご飯を一緒に食べながら、近況報告を交わした。
独身のおばは70を超え、実姉家族との暮らしを楽しんでいる。

昼食を終えた後、ふと目に入ったテーブル横の新聞。
「え、おばさん◯◯新聞とってるの?」
思わず驚いて声に出た。

というのも、おばは視聴覚障害を持っている。
目はほとんど見えず、さらに老眼が進んで、目の前にいる私の顔すらぼんやりとしか見えていない。それでも趣味の株価チェックだけは欠かさず、テレビ画面に顔をぴったり近づけてぼんやりとした変動を確認したり、音声機能で株価を聞いたりしている。そんなおばが新聞をとっているとは。
想像もしていなかった。

「なんで新聞とってるの?」と尋ねると、おばはこう答えた。
「広告がいいのよ。」

1つ目の理由は、地元スーパーのチラシだった。安い食材をチェックするのに役立つらしい。もちろん、それを読むには紙面に顔を近づけ、指で触って確認する必要がある。それでも、音声やデジタルではなく、この「紙に触れる」という行為が彼女にとっては一番しっくりくるのだという。

そしておばは少し笑いながら、
2つ目の理由を教えてくれた。
「販売所の人がしつこくてさーー」

販売所から来る青年が、自分の奨学金の返済が大変だとか言いながら勧誘してくるのだとか。「そう来たか!でもちょっとずるくない?笑」と、私は言ったがおばはこの勧誘員とのやりとりが楽しいらしい。
末っ子で気が強い性格の叔母が
うれしそうに話している。顔が一瞬、少女に見えた。

季節の話や世間話を交わすその時間が、
彼女にとってちょっとした楽しみになっているのだろう。
そしてなんとなく情に打たれて、契約を更新してしまうのだという。

もちろん、そう。
新聞の文字はほとんど読めないのに、だ。

この話を聞いて、私は「新聞の意味」について考えた。
ただ情報を伝えるだけなら、ネットニュースで十分だろう。
けれど、おばのように別の理由があって新聞を取り続ける人もいる。
チラシや勧誘員との人情あふれるやりとり――
それもまた、新聞の「価値」なのかもしれない。。。

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