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専業主婦がシングルマザーになった-その後⑥ 分割

私達は8月に結婚式を挙げたのですが、ちょうど同時期に、Authenseは事務所を分割する経営判断を下します。なぜ、拡大した事務所を分割する判断に至ったのか?
少しだけ遡って、お話を再開したいと思います。

パートナーそれぞれの夢と思い

全面移転を終えた後、Authenseは引き続き業務を拡大し、人員が増えていきました。組織化も急速に進んでいきました。
当時の管理部には、代表の元榮と仲が良かった吉田さん(現クラウドワークスの社長)が、業務委託として週に2日~3日ほどきて部長を務めてくれていました。
私は当時、副部長という役職でしたので、吉田さんとはAuthenseの組織化の過程で苦楽を共にし、非常に多くのことを学びました。

当時のAuthenseは、元榮を代表として3人のパートナー弁護士で経営されていました。パートナー制は、法律事務所でよくある組織体系なのですが、あらゆる経営判断が基本的にパートナーの合議で進みます。
パートナーそれぞれ経営に対する思いや夢があり、その方向性が異なっていました。組織が拡大するにつれ、その方向性の違いは、組織として同じ方向に進む事が難しいレベルになっていったのです。

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その頃、弁護士ドットコムは、長年の赤字を徐々に脱しつつありました。従業員数も10名程度に増え、少しづつ良い兆しが見えてきたところでした。

将来の上場を視野に入れて、経験豊富な管理部門の責任者も1名入社しました。ただ、残念な事にその方は、1年足らずで退職してしまい、翌日からまた、弁護士ドットコムの管理部門の業務は私のところに戻ってきました。
創業期のベンチャー企業が優秀な管理部門の責任者を採用し定着させることはとても難しい事だと、その時実感します。それから数年は、私がAuthenseと合わせて、弁護士ドットコムの管理部門の業務をやり続ける事になりました。

Authenseのパートナー間で目指す方向性の相違が大きくなり、弁護士ドットコムがほんの少しだけ利益が出始めた、そんなタイミングで、元榮はAuthenseを分割する決断を下しました。
ちょうど私達が再婚した8月終わり頃の事です。その頃、Authenseは従業員数が250名を超え、引き続き案件数も多く、順調に成長していました。

家庭と仕事の両立の苦悩

再婚した私達夫婦は、私の実家からスープの冷めない距離に家を借りて生活し始めていました。
私が引き続きフルタイムで働いていたので、子供達は小学校と幼稚園が終わると、私の実家に帰宅し、私が迎えに行くのを待っているという生活パターンです。

別々に暮らすようになると、仕事と家事と育児のバランスを保つことがさらに大変になりました。
今までは、実家に一緒に住んでいたので、帰宅すると子供達は夕ご飯もお風呂も終わっていて、後は寝るだけという状態でした。

それが、子供達を連れて帰ってから、ご飯を作り、お風呂に入れ、洗濯物を取り込んで…という膨大な家事が待っている状態になったのです。今まで母が担ってくれていた役割の大きさに気づきます。
子供を連れて帰宅すると、ご飯が炊けてなかったり、洗濯物が雨でびしょ濡れになっていたりと…挫ける事件の連発でした。

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そんな調子なので、なんとか時間内に仕事を終わらせて帰らないと家庭が崩壊します。
その頃から、仕事を時間内に終わらせるための徹底した効率化と時短化をさらに追求し、家事も同様に取捨選択しながら、やりきれるように効率化していきました。

その頃は、私以外の管理職は、独身か奥様は専業主婦というスタイルの男性ばかりでした。男性が外で働き、女性が家で家事と育児をするというスタイルがまだ多くを占めていた時代に、女性が管理職として男性と同じ世界でやり遂げる事の難しさを痛感します。

なぜなら、そう言う世界で男性が働く前提で、社会も企業も動いていたからです。仮に共働きでも、男性の仕事が主で、仕事を調整するのは女性です。

何時間残業している、夜遅くまで会社にいる、それが頑張っている証拠のように評価される事に違和感を感じながらも、その価値観を変えるためには、自分が短時間でも同じかそれ以上の成果を出す事でしか、この先の理解はないと考えました。

唯一の女性管理職だった私が上手く行かなければ、「やっぱり子育てしながら、キャリアを積むのは難しい。アシスタント業務など負荷がかからない仕事をしてもらうのが本人のため」と思われてしまうのではないか。それはある種の優しさかもしれないけれど、私にとって望む未来ではなかったからです。

これは、相当上手くやらないと、自分がやりたい事を成し遂げられない…
家庭も子育てもキャリアも、どれも諦めない生き方は、どうやったら成し遂げられるのだろう。
実家を出た私は、これから先の自分のキャリアと家庭とのバランスを真剣に考え始めるのでした。

再婚したのだから、仕事を辞めて、子供と一緒にいる時間を増やしたらどうか?母は内心そう思っていたと思います。周囲からもそんな助言もいただきました。
でも、自立すると決めたあの時の自分の意志を貫き通したかった。 
夜暗い中、子供達と手を繋いで、実家から自分の家に帰る道のりで、学校の出来事やお友達の話しを聞き、夜ご飯を一緒に食べる、今は、それが精一杯でも。

分割そしてAuthense2.0へ

Authenseを分割して、自分は外に出る。
今のAuthenseの成長を担っている分野から完全に撤退し、新しい領域へ事業分野を変更する。弁護士ドットコムを一緒に連れていき上場を目指す。

だから、自分と一緒について来てほしい。

元榮はそんな話を私にしました。
Authenseからは数名しか連れて行かない予定でした。私は、迷いなく「わかりました」と即答しました。
私がAuthenseに入ったのは、元榮の未来を真っすぐに見てポジティブに突き進む姿勢に共感し、一緒にその未来を見たいと思ったからでしたので、元榮が外に出るのであればついて行こうと思いました。

その時、元榮がAuthenseから連れて行く事にしたのは、約9名ほどのAuthenseメンバーと弁護士ドットコムのみでした。あと「Authense」という名前をもらう事を希望しました。それ以外は全て置いて外に出ると言う約束でした。

9月に入って、Authenseを分割する事を全社員に伝え、分割完了日を12月にすることが決まりました。全体告知から分割完了までわずか3カ月しかありません…

そこから分割作業が急ピッチで進みました。
管理部門は、私と前回お話ししたメモを取らない女性の2人になりました。
元榮はオフィスも設備もすべて置いて出る事になっていたので、出る側の私達は、引っ越し先のオフィス探しから始まり、移転先の工事や備品の発注、足りない人員の採用活動を通常業務に加えて行うというかなりハードな状況に陥りました。

一方、元榮が連れて行く弁護士とパラリーガルも同様に窮地に陥りました。
分割が決まった事により、残る側、出る側でうまく行かない問題も発生し、それまで協力して行っていた案件の協力が得られなくなり、元榮側についた弁護士とパラリーガルは膨大な案件をこなすために、帰れない日が続きました。

しかもその頃、元榮は、分割後の主力分野になるであろう領域に着手し、案件処理体制を一気に整えようと動いていたため、新規分野の立ち上げと体制構築という最も負荷のかかる業務もオンされていました。

普通だったら、挫けそうな過酷な状況でしたが、誰一人不満も言わず、超集中状態で走り続けました。
移転先の工事と家具の発注もギリギリのところでなんとか間に合い、とうとう分割日を迎えます。
引越し日も案件処理が終わらないパラリーガルは、深夜まで働き、ダンボールに荷物を詰めそびれて、自分で持って走るという状態でした…

私と夫は、週末の引越し作業に立ち会うために、子供達を連れて、引越し作業中の新オフィスで立ち合いをし、夜遅く家に帰りました。

なんとか3ヶ月足らずの分割作業は完了しました。
引越しを終えた後、私達は、新Authense初めての忘年会を近くの居酒屋で行いました。
250人以上いた社員が1テーブルに座れる人数になり、全てが1からのスタートとなりました。

新Authenseにその時あったのは、元榮個人の顧問先と新規分野の不動産法務、90人採用で大騒ぎしたあのPJの続編のみでした。

次のステージ

Authenseは、ここから、総合法律事務所を目指し、弁護士ドットコムは、上場を目指し、組織を1から作り上げる第2の創業期を迎える事になりました。

この時、弁護士ドットコムは、まだ、新Authenseの片隅に1島のスペースで肩身が狭い状態で奮闘中。Authenseは、事業分野を一新してほぼ0からのスタートそんな状態でした。


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