【小説風】怨讐の鬼~復讐は我に在り~【FateSR】
20231106.
二周目から解放される異傅まとめ。
-異傅-
千代に立つ城を堕とさんが為
慈悲無き業火にすべてを奪われ
復讐の鬼へと身を堕とした少年がいた
その名は地右衛門
かの日より彼の胸を焦がし続けた怨嗟の炎は
望月の夜、運命と呼ぶべき出逢いをもたらした
──数日前、江戸・小石川
「──神よ。赦したまえ、我が復讐を。」
朽ち荒れ果てた村の跡地、男は一人儀式をしていた。
今日、この日のために南蛮より手に入れた魔術書。
異国の言葉で書かれている為、解読するのに多少なりの時間はかかったがそれも彼奴らへの復讐の為ならば惜しくはなかった。
「…………。」
瞼を閉じれば蘇るあの日の光景。
家屋は業火に焼かれ、村中に響きわたる悲鳴と嗤い声。
真っ赤に染まる世界で舞った血飛沫。
それは村人のものだったか、自分を庇った父と母のものだったか──。
甦る忌まわしい記憶を断ち切るように頭を大きく横に振る。今は儀式に集中しなければ。これが成功すれば復讐を叶える為の道具が手に入いる。
何度も。何度も。何度も繰り返した呪を唱える。
間違わないよう丁寧に、そして奴らへの憎しみを込めて。
「──告げる
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
この音、この理に従うならば応えよ
汝、三大の言霊を纏う七天
抑止の輪より来たれ
天秤の守り手よ──!」
「……絶望。悔根。憎悪。憤怒。
滾り迸る憤情に、我が魂は煤け堕つ……サーヴァント・ランサー。」
これが復讐に身を堕とした男と、慈悲深き聖なる乙女の出逢いだ。
地右衛門が願うのはただひとつ。
己がすべてを奪い。積み重なった屍の上で、酒をかっ食らう徳川の連中に地獄を見せること──そして。
-異傅-
未だ戦火の余燼は消えず
伊織らが、アサシンの行方を追う一方
正雪の盟手・地右衛門は
江戸城の下見を終えた後
本拠にて一人、微睡みの中にあった。
「おっ母! おっ母ー!」
微睡みに見た夢は"あの日"のもの。
焦土となった故郷。父親に引っ張られ家族全員で逃げる最中、母親が御家人に掴まった。
母を助けようとする少年を、父は「堪忍せい……」と泣きながら止める。少年は喚くが大人の方が力は強い。
為す術はなく少年の目の前で母親は斬られた。
暴れる少年を抑えていたせいで逃げ遅れた父親もまた──。
生き残ってしまった。家族を。村の人たちを。
皆、逝ってしまったのに自分だけ生き残ってしまった。
……確かあの日の元凶は裏切り者だったか。
自分だけ助かろうと幕府に皆を売った男。
だが今はもうそんな男の事なぞ微塵も想っていない。
そいつは皆を裏切ったその日に幕府からも裏切られたから。
もう"そんなことはどうでもいい"。
「俺が、俺のせいで……おっ母も、おっ父も……」
煤の臭いが充満した焦土の世界で少年が一人泣いている。
どうして父と母は自分を庇ったのか。何故。なんで。
自分に守る価値なんて……。
「──ター、マスター!」
天から聞きなれた女の声が聞こえた。目覚めの時が近い。
地右衛門はただ泣き喚くだけの少年に背を向け、
「……おい、ガキ。
テメェの望む光景なら、すぐに見せてやる。
だから──今はまだ、出てくんな。」
目が覚めた。見えたのは業火などではなく、背景の青空がまったく似合わない陰湿で暗い女の顔。
マスターとサーヴァントは精神で繋がっている。宮本伊織が夢でセイバーの過去を垣間見ることがあったように、ランサーもまた地右衛門の過去を見たようだ。
慈悲無き乙女は地右衛門にもその慈悲を惜しげなく与えようとするが、復讐の鬼はそれを拒む。
例え真の意味で救うことが出来ぬとしても……。
去りゆく小さな背中に"あること"を誓った。
-異傅-
薄明に続くは払暁か黄昏か
己が願いの贄とするべく
地右衛門は、伊織の妹・カヤを略取する
事が上手く運び、ほくそ笑む彼の元に
予期せぬ追っ手が迫っていた
十五騎目。盈月の儀において鍵となる大事な英霊。
元々は由井正雪の指示で「十五騎目の顕現を確かめる」だけの筈だったが、そのまま従うだけでは敵に塩を送るようなもの。
故に自分の物とし、己の願いの為に贄として使う。
十五騎目を盈月に捧げて、必ずや地獄の門を──といったところで来客だ。
迷惑でしかない客は逸れのセイバー。
悪鬼と呼ぶ、ライダーを追いかけてここまで来たのだろう。悪に染まるなら皆同じと、太刀を振るう白武者。
宝具まで解放してくる相手だ。あまり相手をしていりるとこちらも危ない。 ──ならば。
──吼え猛る獣には餌を。
求めるものを、与えよさましょうか。
-異傅-
獄道に情けは要らず
土御門康広の策謀により、儀は混迷を極める
その様を傍目見て嗤う地右衛門
思惑渦巻き、苛烈さを増す儀に在って
彼もまた、修羅の妄執を深めつつあった
「──どうだった。」
「マスターの見立て通りです。
セイバーらは、土御門のいる寛永寺へ。」
やはりか。儀の見届け役の土御門が裏で何か仕組んでいたのは気づいていた。幕臣の連中が江戸の町を我が物顔でほっつき歩いていたからな。
……大方まだ出て来てねぇキャスター辺りか。
まあ奴らが争うのは好都合だ。土御門もセイバーも、好きなだけ噛み合わさえばいい。
……だが。
ある男の顔がちらつく。自分は聖人君子です、といってる見てえな面をした宮本伊織。テメェだけは別だ。
儀が進み、むせ返る程の血の匂いが漂う江戸であの野郎は尚、眉根を寄せていることだろう。己の性に嘘をついて、善人面して満足か? ……口の端に垂れる世誰を、俺が見逃すとでも?
「……ああ、虫酸が走る。
腐った皮は、急いで剥ぎ取らねえと……。」
「…………。」
宮本伊織。奴だけは俺がやらねえと。
奴の目を覚ませるのは同じ地獄を知る俺だけだ。
「……宮本伊織を、この手で屠る。
行くぞ、ランサー。」
「……はい、マスター。」
──神の遣いはこれだから。
土御門の罠に引っかかった俺を守ろうとランサーは単騎で怪異に立ち向かう。
ああ……胸糞悪い。弱体化してる状態で単騎戦なんて出来るわけもねえだろ。扉をぶち壊し怪異とランサーの間に割って入り、塵芥虫を一掃する。
「ランサー。
おまえ、いったいどういうつもりだ? なぜ過敏に俺を庇う?」
「サーヴァントである以上、マスターを守るのは当然かと。」
理由を聞いたところで返ってくる答えはこれだ。
そんなに脆く見えるか俺は。おまえら英霊と比べたら脆く出来てるだろうが、そんな過敏に守られる程じゃない。
「神に見放され、地獄へ向かう俺など、守られてよい道理も価値もない。
だというのにランサー、おまえはなぜ……」
「……マスター。
主が貴方を愛さず、救わぬと仰るのならば──代わりに私が、どこまでも愛しましょう。
たとえこの手が貴方を救えなくても、共に地獄へ落ちることは、できるでしょうから。」
慈愛に満ちた微笑み。母に包まれるような暖かい言葉。
聖女に身を委ねれば俺の苦しみは減るのだろうか。いや忘れちゃいけねえ……あの時の光景を、あの日の想いを。俺は地獄に落ちなくちゃいけねえんだ。
「……神の遣いはこれだから。」
《あとがき》聖なる乙女って結局……。
わりと中途半端な終わり方となってしまいましたが、『異傅-ランサー陣営編』はこれにて終了となります。
生き残ってしまった地右衛門の苦しみ。
地右衛門を救いたいのに、その慈悲が届かないジャンヌ・ダルクの苦しみ。
より二人の苦しさ分かるサブストーリーでしたね。
『四章上・ルート』で明らかとなったんですが、今回召喚されたジャンヌ・ダルクはあのフランスで活躍した聖なる乙女その人でした。
地右衛門の負の感情によって精神が汚染されてあのジャンヌ・ダルク・オルタのような見た目になってしまったと。
精神汚染に加え、強引な手法で召喚されたことにより、サーヴァントとしての能力は極めて弱体化。
でも、それゆえに地右衛門のような二流のマスターでも彼女を縛り付け、命令に従わせることが出来たそうです。
もし白い方、 つまり本来のジャンヌ・ダルクが気になる方は「LINK」をお勧めします。
販売元は「マーベラス」さんですが、なんちゃって無双……みないな感じでアクションゲームが得意じゃない自分はやりやすく面白かったので。
結構前のだし。レムナントは一年がかりのDLCがあるので白ジャンヌも実装されそうっちゃ、そうですよね。……白ジャンヌvs黒ジャンヌとか面白そう。
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