【小説風プレイ日記】超探偵事件簿 レインコード【1章推理編#12】
©スパイク・チュンソフト | RAINCODE
刻々と、時を刻む音が…
雨音に紛れて溶けていく…
夜を奏でるのは、船を叩く水の音か…
それとも、誰かの運命にクサビを打つ音か…
密室の扉が閉じられる度…
ボクは、その扉を開ける理由を探す。
第1章
『連続密室殺人鬼クギ男』
水が流れる音とシャカシャカと何かを磨く音で目が覚めた。
たぶんヤコウ所長が台所兼洗面所で、歯を磨いている音だろうな。ずぼらだから、あの人、何かする時はいつも大きな音をたててしまうんだ。
「んん…。」
起きあがる前に固まった体を伸ばす。
硬いソファーで寝たせいか体の節々が痛い。
『まさか、ご主人様の寝床が、この薄汚いソファーとはね…。』
『でも、他の超探偵達はホテルに泊まってるんでしょ?
ずるーい! 羨ましいー!』
『ていうか、差別じゃない!?
探偵も見習いたも分け隔てなくって言ったクセに!』
仕方ないよ、ボクはまだ探偵じゃないし。
探偵を目指してた理由すらも思い出せないし…。
寝起きの寝ぼけた頭じゃ、頭が回らない。…眠い。
「おはよう、ユーマ。…ってまだ眠そうだな?」
「おはようございます…所長。」
「寝不足か? なんだ…せっかく事務所に泊めてやったのに。
そんなんじゃ頭も働かないぞ、オレを見習えよ。
今日も頭だけは冴え渡っているぞ!
大して使い道もないのにな…ハッハッハッ!」
なんでこの人は朝からこんなにテンション高いんだろう。
ぼーっとしてる時に大きな声だされると、頭がガンガンとして痛い。
「とりあえず、その寝ぼけた顔でも洗ってきたら?
ボンヤリしてたら探偵業は務まらないからな。」
「は…い…。」
ふらふらと立ち上がり台所の方へと歩いていく。
事務所はヤコウ所長の私物で溢れかえっているから、物を倒さないように歩くのが大変だ。
物を片付けられない人の典型で、玄関から寝室までの動線は確保されているけどそれ以外の壁側は見るも無残な有様だから。
壁に掛けられているコルクボードには、カナイ区の地図とこれまでに請け負った依頼のメモが雑に貼られている…けど、最近は依頼を受けてないのかメモは少し茶色く変色していた。
本棚からはみ出た本たち。物理学、法医学、経理、百科事典…難しそうな本ばかりだけどヤコウ所長は本当にこれらすべての本を読んでいるのかな。
普段の所長の姿を見ると不思議でしかない。
もしかしたら依頼者へのカモフラージュかもしれない…。自分は出来る探偵ですよ、アピールみたいな。
台所の近くにはこじんまりとだけどヤコウ所長のプライベートルームがある。
物置の隙間にベッドと机を置いただけだけど。
狭い所が落ち着くらしい。
机の上の灰皿のタバコの本数がまた増えてる。
潜水艦の中で吸うと臭いがこもるから、止めるように何度も言ってるのに…。今度また注意しとかないとな。
所長の寝室の反対側は、シャワー室になっている。
洗濯機も置かれているから、籠城しようと思えば本当に出来てしまうからすごいよね。
まぁ…そんなことにならないのが一番いいんだろうけど。
☩ ☩ ☩
「はぁ」
『ボンヤリとしてたら探偵業は務まらない』か…。
重力に任せて下へ流れる水を見ながら、さっき所長に言われた事を考える。
そもそも、ボクはどうして探偵を目指してたんだろう?
特別な能力がある訳でもないのに。
何か…理由があるんだろうか?
だとしても、今のボクには、探偵を目指すべき理由なんてない…。
ただ、記憶を探す為に探偵のフリをしているだけだ。
こんな気持ちで探偵をやってていいんだろうか?
『まーた、ご主人様がくだらないポエム詠んでる…。』
くだらないってなんだよ。
これはボク自身の大事な問題なんだ。
『探偵ってのは、溜息をつく度に事件が起きて、誰かが死ぬんだから。』
じゃあ…溜息つかなければ事件は起きないの?
ぜひ、そうであって欲しいよ…。
死に神ちゃん対する怒りそのままに流しっぱなしにしていた蛇口を止めた。
☩ ☩ ☩
「そう言えば、ユーマって料理が得意なんだろ?」
振り返るとヤコウ所長がひょっこり顔を覗かせていた。
手でお腹をくるくるさすっている辺り…嫌な予感がする。
「せっかくだから、オレになんか作ってくれない?」
…やっぱり。
「頼むよー。腹減って仕方ないんだー。
それに、ほら…得意の料理をすれば、何か思い出すかもしれないぞ?」
「まぁ、そうかもしれないですけど…」
「だろ? って事で、朝飯頼むな!」
「あっ! ちょっと、所長!」
要件だけ伝えるとすぐに引っ込んでしまった。
どうしよう、参ったな…。
自分の事もさることながら、料理のレシピなんて全然覚えてない…。
ええいっ! なるようになれっ!
思いつく限りの事をして、チャーハンを作った。
神様、どうかヤコウ所長の口に合いますように!
「所長、朝食ができましたよ。」
「おっ、いい匂いしてるじゃないか。どれどれ…」
うきうきと山盛りに掬ったチャーハンを口に運ぶ所長…だったがその顔はどんどん青ざめていき尋常じゃないレベルの汗が吹き出てきて…。
「ぐ、ぐぇ…! なんだこりゃ…!?」
『顔が真っ青だったね…死んでなきゃいいけど。』
そんなまさか…。
「しょ、所長! 大事ですかー!?」
数分後…。出すものすべて出した所長はゲッソリと窶れて戻ってきた。
「し、死ぬかと思った…。
まさか…毒を盛ったんじゃないだろうな…?」
この件でボクは記憶が戻るまでは一切料理を作る事を禁じられた。
まぁ、ボクもしたいとは思わないからいいけど…結局、ボクが『料理が得意』だっていうのはなんだったんだ…。
☩ ☩ ☩
本日の朝食はヤコウ所長お気に入りの肉まんという事になった。
肉まんはカナイ区のソウルフードで、リーズナブルな値段で買えるから所長の大好物だ。
でも、放っておくと肉まんばかり食べるから栄養が偏ってないか心配になる。
「それにしても、驚いたよなー。
まさか、ナンバー1から直々に指令があるとはな。」
「"カナイ区最大の秘密"を探れ…ですね。」
指令がふわっとし過ぎていていまいち内容が掴めないけど、要はカナイ区の事実上の支配者であるアマテラス社と真正面からやり合って秘密を暴いてやろう、的な話なんだよな。
アマテラス社は非人道的な事を平気な顔してやれる連中の集まり、そんな彼らとの戦いは互いの命をかけた大戦になるのは避けられない。
だからヤコウ所長はずっとしり込みして、今回の事にはあまり乗り気じゃない。
「あー、本当に厄介だよ。
オレだって、未解決事件について何度かアマテラス社に探りを入れてみた事もある…。
けど、その度に、連中を怒らせて拷問まがいの説教だ。
お陰で、事務所も取り上げられて…この有様さ。」
「今まで、世界探偵機構は助けてくれなかったんですか?」
「何回か打診した事はあるんだが…抱えている事件が山積みだからって後回しだった。」
カナイ区が鎖国して、世界から孤立したから情報のやり取りが上手くいかなくて、街がどれだけ深刻な事態なのか伝わってなかったのかもしれない。
「それが…どうして急にカナイ区に乗り出してきたんでしょう?」
「おそらく"世界規模の未解決事件"ってヤツがよっぽどの事件なんだろう…。
ナンバー1が出張ってくるくらいだしさ。」
…ナンバー1。
テレビ越しに話した老人の顔が浮かぶ。
「世界探偵機構のトップの人なんですよね?
そんな凄い人なんだったら、ナンバー1が直接来てくれたらいいのに…。」
「確かに、そいつはもっともだ。
ナンバー1なら、きっと完璧に解決してくれるはずだ。
噂では、彼はいったん自分で担当すると決めたら、どんな事件でも1人で完璧に解決してしまうらしい。」
「1人で…完璧に…?」
『そこまでのヒトには見えなかったけどなー。』
「ま、切り札は最後まで取っておくもんだ。
それまでは、オレ達が手札を増やしておく…その為に、お前達が呼ばれたんだしな。
…って、肝心の仲間達は!? いつになっても集まらないじゃないか!」
時計を見ると約束した時間はとっくの昔に過ぎていた。
個性の強い人達だったから、みんな協調性ゼロだな…。
「そうだ、ユーマ。お前に最初の仕事をやろう。」
「仕事…ですか?」
ヤコウ所長のニヤケ顔がさらにニヤニヤとだらしのない顔になってる。
あぁ、…面倒事を頼む時の顔だ。
「他の探偵達を呼んで来てくれ。
カマサキ地区にあるホテルに専用の部屋を借りている。
オレの予想だと、まだホテルを出てすらいないぞ。
一癖も二癖もある連中だからな。
いいか、ユーマ。彼らを説得して連れてくるまでが仕事だ。」
『仕事と言いつつ、ただのパシリじゃーん!』
「…わかりました。ホテルですね。」
「よろしくー。くれぐれも保安部には目を付けられないようになー。」
さて、もうひと眠りと寝床を整えている所長の声は無視して事務所を出た。
カナイ区は今日も雨だ。
太陽の明かりのない空はどんよりと曇っていて、今が朝なのか夜なのかもわからない。
『記念すべき最初の仕事がパシリとはね…。
こんなんでいいの、見習い探偵さん?』
「船の中に閉じこもっているよりはマシだよ。
ところで、死に神ちゃんは、ナンバー1の事を何かしらないの?」
『えっ!? な、なんで…そう思うの!?』
「いや…なんとなく聞いただけなんだけど…。
…あれ? もしかして本当に知ってる?」
『あ、あんなジジイと知り合いだなんてやめてよ!
オレ様ちゃんにだって好みがあるんだから!』
『そもそも…オレ様ちゃんに人間の知り合いなんているワケがないでしょ!
だって、死神属性だよ!?
出会ったヒトはみんな死んでるって!』
言われてみれば確かに…。
挙動がおかしかったように見えたけど、死に神ちゃんがおかしいのはいつもの事だから気のせいかな。
今は所長に言われた通り、ホテルに行って超探偵のみんなを説得して事務所に来るように呼んでこよう。
☩ ☩ ☩
カナイ区にあるホテルはひとつしかないから、場所はすぐにわかった。
歴史を感じさせる建物の中は大理石かな、光が反射した綺麗な石で、天井には宝石がキラキラと眩しいシャンデリアが垂れ下がっている。
見習いはソファーで、超探偵はこんな豪華なホテルの一室…差別だ。
「どうしたもんか…。
でも他にお客様がいる訳じゃないから放っておいていいのか?」
受け付けにいたホテルマンが首を傾げてる。何か困り事かな?
話しかけてみると、数日前からエントランスにあるピアノの下に住み着いているお客さんがいるらしく、ホテル側としては迷惑しているのだけどでもその人以外に客もあまりいる訳じゃないから…どうしたものかと頭を悩ませているらしい。
ピアノの下に住み着いている人ってもしかして…。
「ヴィヴィア…さん?」
「あぁ、ユーマくんか…おはよう。」
「おはようって…こんな所で何してるんですか?」
「ん…? 本を読んでいるんだよ。」
見て分かる答えがそのまま返ってきた。
ボクはどうしてピアノの下で読んでいるのかが知りたかったんだけど…。
「これはね…湖で出会った女の子と一緒に、波打ち際で砂の城を作る物語なんだ。」
「ユーマくん、キミはどうしてだと思う?」
「女の子は主人公の事が好きだったんじゃないですか?」
「なるほどね…砂の城を壊せば、また主人公が作りに来る…。
そうして城作りを続けていれば、いつまでも一緒にいられる…という訳だね。
不器用で健気な女の子だね。
一言、また明日も来てと言えればよかったのに…。
なかなかロマンティックな意見だと思うよ…ユーマくんらしいね。」
そこまで言うとヴィヴィアさんはまた本に目を向けた。
「あの…答えは?」
「…答え?」
キョトンとした顔で再び顔を上げる。
意味がわからないのはボクの方なんだけどな。
「それについては、何も書かれていない。
女の子が何を考えていたのかは想像するしかない…。
それが…物語というものなんだ。」
「どう? 美しい話でしょう?」
「は、はぁ…。」
『なんか、このヒトって友達少なそー。』
ヴィヴィアさんおすすめの本の内容を聞いた後、事務所に来るように、ヤコウ所長からの伝言を伝えたけど、『行く』と伝えといて、だからな…これは行く気ないな。ピアノの下から起きあがる気配がまったくないもの。
他の人達はまだ朝食を食べているらしい。
レストランの方へ行くと、デスヒコさんとフブキさんが楽しく食事をしていた。
この2人もヴィヴィアさんに負けじ劣らずでいろいろ言っていたけど根は真面目だからか朝食を食べたら、事務所に行ってくれる事を約束してくれた。
あとはハララさんだけど…。
朝食にフブキさんが部屋を尋ねた時にはもう居なかったらしい。
自力で探し出すしかないか…ハララさんどこに行ったんだ?
レインコードでは毎章色んなジャンルの事件が起こるみたいですね!
0章はある意味の密室で、1章は都市伝説をモチーフにした連続殺人事件……くぅ〜たぎってキター!!
日常パートは今回だけなので、ギャグ会話をもう少し本編から引っ張ってこようかと思ってたんですが、ヴィヴィアの本の話をコピーするので力尽きました…。
本当はこの後、お使いクエストのチュートリアルがあって「鴉と鳩の…弱肉強食…なんたら」があったのですが、割愛します。
クエストはRPGゲームみたいなアッチ行け、今度はコッチに…みたいな面倒くさいヤツですけど、登場人物たちのその後とか、カナイ区の実情みたいのが垣間見れるのでわたしは好きです。
メインキャラ達とのキャラエピも面白いし。
(時計塔のヤツ取り忘れたんだが、取り戻し不可とか言わないよな? なァ?)
次回から待望の調査パートです! お楽しみ〜☆
To Be Continued..
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