【小説風プレイ日記】超探偵事件簿 レインコード【1章推理編#19】
©スパイク・チュンソフト | RAINCODE
『僕は君が嫌いなんだ。』
"クギ男"事件の最初の現場となったカマサキ地区のカジノに向かう道中、ずっと気になっていた事をハララさんに聞いてみることにした。
「あの…ハララさん。ふと思ったんですけど…最初の事件って、半年前なんですよね?
いまさら現場に行っても、何もないんじゃないですか?」
犯人が捕まってないとはいえ半年も前に起きた事件だ、普通は跡形もなく片付けられているだろう。
めぼしい証拠品だって押収されているはずだし、そんな状態でどうやって調査するんだろうって心配してたんだけどハララさんから帰ってきた言葉は、「僕を誰だと思っている? ハララ=ナイトメアだぞ?」だった…。
自信がある事は凄い良いことなんだけど、根拠のない自信は恐怖と紙一重なんだよ…。
目的のカジノは裏路地にあった。
入口は封鎖されたままだ。半年前の事件だからってきりもう跡形もなく片付けられて営業開始してるかと、思ったけどこれは逆に好都合…なのか?
「keepout」と書かれたテープを手刀でぶった切るとハララさんはカジノの中へズカズカ入った行く。
…不法侵入だ。
カジノの中は物に少し埃が被っている程度で、さすがに事件発見当時のまま残している事はなかった。
カジノと言ったら、ラスベガスにある豪奢なものを想像してたけど、ここは狭くて5人席の小さなバーカウンターと、その隣りにスロットマシンが4台、向かいにポーカーやルーレットをやる台が2つ置かれているだけのカジノのというわりにはこじんまりとしていた。
被害者のスグマ=イーホはこのカジノのオーナーだけど、評判ばかなり良くなかったらしい。
政府に認められていないこの店は違法カジノになっていて、法外なレート勝負やイカサマが横行し、いつも客とトラブルになっていたそうだ。
…全部ハララさんから聞いた情報だけど。
カフェでボクを待っている合間で、情報を自分なりにまとめたって言ったけど凄いな、ボクは時計塔の現場を調べるだけでていいっぱいだったのに。
「さて、この現場で特筆すべきは、やはり密室だったという点だろう。
発見時、ここのドアは内側から施錠されていた。」
店の中には窓もない。
地下にあるのだから当然だけどね。
「通気口らしき物はありますけど、頑丈そうなフタがあって通れそうにないですし…。
そもそも、あんな高い所には届きません。」
窓はなくて、かわりの通気口っぽい物は位置が高すぎてハシゴか台がないと登れない。
そもそもネジで硬く止められているから入れないか。
だとしたら唯一の出入り口になるドアだけど、こっちも内側から施錠されているからここからの脱出は無理。
『密室だー! み! っ! し! つ!
あっひゃっひゃっひゃー!』
あぶない粉を吸った人みたいにテンションマックスな死に神ちゃん…は、ともかく。
「でも、やっはりこれ以上は調べようがないですよ。
死体発見時にどんな状況だったかもよくわからないし…。」
「心配するなと言っただろう?
大丈夫だ、条件は揃った。」
「条件…?」
「まさか、僕が超探偵である事を忘れた訳じゃないだろう?」
探偵特殊能力!!
そうかハララさんの能力を使えば現場を調査できるのか!
アマテラス急行で見た超探偵たちの探偵特殊能力を思い出した、どの能力も常識の枠からひとつ外れた凄いものばかりで、使い手しだいて悪にも善にもなる強すぎる力だった。
そんな一般人から想像もできない桁外れな探偵特殊能力のなかで殺人事件に特化させたハララの能力は…。
「僕の探偵特殊能力は"過去視"…過去を視る近くだ。」
殺人現場限定の"過去視"。
超人的能力で、物の記憶を視るサイコメトリーというものがあるけど、ハララさんのはそれを探偵特殊能力として鍛え上げ、事件現場の"第一発見時の状況"を視る事ができる"事件現場限定のサイコメトリー"として昇華させた。
…シンプルに凄い。ゲームでいうとチートじゃないか。
探偵の為の能力、これぞ探偵特殊能力と言える凄すぎる能力だ。
「この能力で視えるのは、"目撃者が最初に現場を発見した瞬間"だ。
つまり、犯人でも被害者でもなく、第三の目撃者がこの現場に踏み入った時点の光景だ。
目撃者の記憶や認識は"過去視"に影響しない。
視えるのは、実際にここにあった過去そのものだ。
この能力において、目撃者はカメラや記録媒体ではなく、あくまでスイッチに過ぎない…。
あるいは、本に挟むしおりのような物だな。
ちょうど死体発見時のページに挟まれたしおり…と、説明している時間が惜しいな。
とりあえず、視るとしようか。」
そういうとハララさんは静かに能力を解放して、過去の事件現場の調査に入った。
ボクは邪魔にならないよう少し離れたところに移動して、現在の現場からわかる事がないか調べてみる事にした。
調べてみたところで何もないのだけどね…それにしても"過去視"か…。
何がどんな風に見えているんだろう。
ボクはその報告を待つ事しかできないけど…。
『そんなご主人様に朗報でーす!』
…何? 急に?
『ご主人様、よーく思い出して。
アマテラス急行の中で、何か感じなかった?
ほら、他の超探偵が探偵特殊能力を使った時にさ。』
そう言えば…超探偵の誰かが能力を使った時、それがボクにはわかるというか…感じるというか…。
『ただし、発動するには条件があって…能力者とキスしなければならない。』
「えっ!? ボクがハララさんとっ!?」
『はい、ウソでしたー!
顔真っ赤にして…まんざらでもなかった?
男か女かもかわらない相手に?』
くっ…。残念とかそういうことはないけど、とにかく能力を共有するには相手から承諾を得て、能力を発動してる間はずっと手を繋いでればいいんだね?
…わかった、それくらいならやってみる。
手を繋ぐくらいならキスなんかより全然…。
「あの…ハララさん…ハララさん?」
「静かにしてくれないか。今、集中しているんだ。」
「す、すみません。ただ、ちょっとお話が…。」
かくかく、しかじか…。
「…能力共有だって?
手を繋ぐ? 僕と…君が?」
「…はい。そうすれば、ボクにも過去が視える…はずです。」
合流する前、ハララさんはヤコウ所長とデスヒコさんと協力してアマテラス急行でやってくる超探偵の人達の事を調べていた。
当然ボクの素性だって調べていて、ボクになんの能力もない事や、そもそも研修中の見習いだった事も知っている。
だけどそこは気合いと根性でゴリ押していく。
「とりあえず、時間がないですし、試しにやってみましょう!」
「…僕は誰とも馴れ合うつもりはない。」
「いえ、あの…馴れ合うとかそういうのじゃなくて…。」
「僕は君が嫌いなんだ。」
「ええっ!?」
まさかの理由で断られたっ!?
「ましてや、手を繋ぐなんて…想像しただけで虫唾が走る。」
顔は青ざめ額からは汗がにじみ出てる本当に嫌そうなのが伝わってくる。
「ボク…そんなに嫌われてたんですね…。」
特になにかしたような記憶はないけど、知らないうちにハララさんに嫌われるような事してしまったんだな…。
「誤解しないでくれ。君が特別嫌いな訳じゃない。
この世の人間すべて、みんな等しく嫌いなだけだ。
僕は誰も信用していない。信用できるのは…死んだ人間だけだ。」
『きゃっきゃっきゃっ! 薄々わかってたけど、悪魔ちゃんは、やっぱり心も悪魔ちゃんだったね!』
ハララさんがどうしてそんな人間を嫌いになってしまったのか、それも気になるけど今は…。
「どうして、今こうしてボクの調査を手伝ってくれてるんですか?」
人間が嫌いなら、ボクが嫌いならあのまま見捨てる事だってできたはずなのにどうして。
図星をついてしまったのか、ハララさんの顔は曇ったままだ。
ここで引いてはいけない! ゴリ押し作戦続行だ。
「最初に言ったはずだ。
支払われた依頼料に誠意は尽くす、と。
君が支払いを約束する限り、僕もプロとしての誠意を約束する。」
「だったら、手を繋いでください! 調査の為に必要なんです!
それも依頼料に含めてくれていいです。
それなら、いいんでしょう?」
「ふぅ…仕方ない。
探偵として必要な行為ならば認めるほかない。」
☩ ☩ ☩
「あっ…視えます! さっきまでとは違う光景が…!
す、凄い! これが"過去視"なんですね!?」
「…本当に視えるのか?
能力共有というのは本当だったのか…。
まさか、君にも探偵特殊能力があったとはな。」
信じてなかったんだ…。まぁ、ボク自身も信じてないから仕方ないか、説明もあやふやで最後はゴリ押したし…。
ハララさんの目を通りしてボクにも過去の現場が"視える"ようになった訳だから、ここからはボクが先導して調査する事になった。
ハララさんは本来の依頼通り助手を勤めるらしい。
「さぁ、お手並み拝見といこうか。」
☩ ☩ ☩
ꄗ調査開始ꄗ
鍵が壊されている…。
時計塔の密室と同じように、発見時に鍵を壊して無理やり開けたのかな?
見たところ、鍵やドアに細工された痕跡はなさそうだ…。
右を向くとバーカウンターの椅子が倒されていた。
「これは、被害者と犯人が争った跡でしょうか?」
「…どうだろうな、犯人が捜査をかく乱するつもりで、わざと転がしたのかもしれない。」
事件に関係あるかどうかはいまのところ何とも言えないか…。
カウンターの上に、グラスが置かれている。
事件以来放置されていた為か、薄く埃が積もっている。
「あ、グラスの中に鍵があります。
これって、この部屋の鍵ですかね?」
「あぁ、そのようだな。
ちなみ、非合法カジノという場所の都合上、セキュリティは厳重で、鍵はマスターキーのみ…。
しかも、複製できない特殊なからしいぞ。」
密室といえばの通気口の外から投げ入れたのかと思ったけど通気口からカウンターまではかなり距離があって投げたくらじゃ、このグラスの中に入っているわけないよな…。
『じゃあ、ここも密室で間違いないね!
バンザーイ! キミと会えて良かったー!』
☩ ☩ ☩
「死体だ。本当に死体が視える…。」
ハララさんの目を通して見る過去の殺人現場は、とても静けさに満ちていた。
壁や床に釘でハリツケにされた人形達も…。
人形と同じようにハリツケにされた死体も…。
夢の中の出来事のように、まるで現実感がない。
異常な装飾が施されたこの現場さえ、ただただ静かだ…。
「やっぱり秘密クラブでも、壁に人形が打ち付けられていますね…。」
「"クギ男"が犯行を行った証、だろうな。」
打ち付けられている場所や向きもバラバラで特に共通点は見当たらない…。
犯人に繋がりそうな情報はないな。他の場所を調べてみよう。
「あれ? この通気口…四隅にネジがない。
フタはネジ止めされずに、はめ込まれているだけだ。」
過去視で視たものには触れることが出来ないらしい。
…けど、それでも視えてくるものがある。
通気口の大きさは40センチ×30センチ程度か…細身の大人なら通れそうだな。
「うっ。」
通気口を調べるのに無知で気づかなかった。
苦しそうに顔を歪め恨めしそうに上を見つめる男性と目があってしまった。
年齢は60歳前後だろうか?
全身に無数の釘が打たれていて、その釘によって、死体が壁にハリツケにされている…。
出血量が少ないみたいだから、きっと死後に釘が打たれたんだろう。
首には絞殺されたような痕跡ある。
縦の引っ掻き傷…これは抵抗した際に被害者自身が付けたものだ。
「この状況…時計塔の殺人とまったく同じです。」
「犯人はまず首を絞めて殺害し、その後で、この部屋の装飾に取り掛ったようだ。」
でも、なんの為にそんな事を…。
「ところで、ユーマ…通気口の下の釘には気付いたか?」
「通気口の…下?」
言われて見てみると確かに通気口の下にある釘だけ下方向に大きさまがっていた。
殺害してから装飾した訳だし、急いで釘打ちして誤って曲がってしまったのかな。
ハララさんは偶然の産物じゃない、なにか別の理由がありそうな言い分だったけど、釘をあえて曲げて打つ理由…なんてあるのか?
ꄗ調査終了ꄗ
「…こんなところか。
他に調べるべき場所はなさそうだな。」
一通り調べ終えて手を離す。
冷たい物言いのハララさんだけど、手は暖かかったな…。
やんわりと残る温もりに名残惜しいと感じながら…。
「しかし、僕としても初めての経験だったが、"過去視"を共有できるのは、意外と楽でいいな。
僕にしか視えていないものを依頼者に説明するのは、いつも気の滅入る作業だからな。」
「…そうなんですか?」
「人間は見えないものを信じようとはしない。
嘘つき呼ばわりされる事も、今まで少なくはなかった。」
「探偵特殊能力も…便利なだけじゃないんですね。」
ハララさんの人間嫌いな理由もそういった出来事が原因だったりするのかな。
握られていた手のひらはまだ暖かい、手が暖かい人は心も暖かいというけれど、ハララさんも見た目とは裏腹に本当は優しい人なのに…。
To Be Continued..
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