【小説風プレイ日記】超探偵事件簿 レインコード【1章推理編#20】
©スパイク・チュンソフト | RAINCODE
『第二の密室』
"クギ男"事件のふたつめの現場は高級住宅街にある洋館。
石造りの外堀に囲まれた門の向こう側に見える大きな屋敷あれが現場か…。
ガチャガチャ動かしてみるけど、当然鍵がかかっていて開かない、さてどうやって中へ入ったもんか…。
「開いてるぞ?」
大きな音と共に振り返ったら、もうすでにハララさんが門を蹴破った後だった。
…あーあ。
中へ入っていくハララさんの背中を追いかけてボク達も敷地内へ、館はちゃんとした手入れはされていないようで、壁は剥げて苔が生い茂って何かの植物のツタが垂れ下がっていた。
本来は綺麗だっただろう庭は無造作に生えた雑草だらけで見るも無惨だ。
「事件が起きたのは三ヶ月ほど前…。
被害者は、この屋敷の主人であるアリ=ホアンだ。
家族はなく、1人暮らしだった。
現在、屋敷は無人でただ荒れ果てるのみ…。
現場は奥の書斎らしい。行こうか。」
ハララさんには「keepout」のテープが見えないのか。
蹴破って屋敷の中へと堂々不法に侵入する。
「一連の"クギ男"事件には、密室以外にももう1つ見過ごせない共通点があったな。
第一発見者が同じ人物…という点だ。」
「教会の信者さんですね。
やっぱり、怪しいですよね?」
「…言い分は一応筋が通っている。
彼は、以前から"クギ男"に興味を抱き、次の被害者の名を知る事のできる立場にあった。
毎回、第一発見者になったとしても、決して不思議ではない…。」
「調査に先入観は禁物って事ですね。」
「あぁ、その通りだ。」
『へんっ! 一度手を繋いだくらいで急に相棒ヅラしちゃってさー!
オレ様ちゃんとご主人様は、もっと大事な所が繋がってんだからねー!』
…変な言い方はやめてくれよ。
☩ ☩ ☩
「現場の書斎はここだな。」
「あ、開いてますよ。
ここも発見時に鍵を壊したんですかね?」
書斎の中は整然としていて、残っているのは死体があった場所を示す人型の線と元々置いてあった本くらいで、事件に関係ありそうなものはすべて片付けられていた。
「あまり気乗りはしないが…今回も"過去視"を共有するか。」
「…いいんですか?」
「気を遣われると余計に恥ずかしい。
いいから、早くしてくれ。」
スっと差し出された手を見つめる。
それにしても、ハララさんの手って、思っていたよりも細くて柔らかいよな…あれだけ強いんだから、もっとゴツイのかと思ってたけど。
『ご主人様は手を繋いだだけで欲情しちゃうの?
なんか切なくなってくるよ。』
…そんなんじゃないよ!
でも、結局…ハララさんっててどっちなんだろう?
男性なのか、女性なのか…。
「…どうした? 何か気になる事でも?」
「い、いえっ! なんでもないです!」
さすがに…いまさら本人に聞くのは失礼だしな。
ꄗ調査開始ꄗ
過去の殺人現場が鮮やかに蘇る。
永遠の眠りから目覚めるかのように、ひそやかに…しかし、死体が目を覚ます事はない。
仮に、目を覚ましたとしても、打ち付けられた釘が起き上がる事を阻むだろう。
部屋の出入り口1ヶ所…あのドアだけだ。
窓もないし、通気口もかなり小さい…密室の抜け道は何処にも見当たらない。
壁にハリツケにされたあの人形は、この奇妙な密室の謎の答えを知っているのだろうか?
書斎には巨大な水槽があるけど、主人が亡くなってから誰も世話をしていないのかぐったりとして元気がない。
漫画とかでよくある秘密の抜け道がないか、探してみたけど現実世界にそんな奇天烈なものがある訳もなかった。
本棚の中にプロジェクターを見つけたけど、ここ最近は使われてなかった。死に神ちゃんに怪しい所はないか調べてもらったけど、特に痕跡もなく事件とは無関係のようだ。
ドアの上に通気口があるけど、小さ過ぎて、人は出入りできそうにないな…。
それに、しっかり内側からネジで止められてて、取り外す事も不可能そうだ。
『おやおや~?』
死に神ちゃんが通気口の隙間に、何か擦ったような跡を見つけたらしい。
でもあの高さじゃ、椅子を使ったとしてもボクのじゃ見えない…。
「ハララさん、ちょっとあそこの椅子を使って、通気口を覗いてみてもらえますか?」
「1万シエンで応じよう。」
「お金取るんですか!?」
「冗談だ。」
あのハララさんが冗談を言うなんて…少しは仲良くなれた、って事なのか。
でもまぁ、それはそれとして通気口の傷を確認してもらう。
「ふむ…通気口に、細い紐状の物で擦ったような跡があるな。
紐を引っかけた跡か?
君の目線からは見えないはずだが、よく気付いたな。」
「あ、えっと…もしかしたらと思って。」
死に神ちゃんの事は言えないから適当に誤魔化す。
あと気になるのはドアだけど、内側から鍵で施錠するタイプで、鍵はマスターキーのみスペアは存在しない。
さっきのカジノと同じで合鍵を使った可能性はない。
発見時、現場は施錠された状態で、マスターキーはこの室内から発見された。
カジノの密室と唯一違うところは、鍵があったのは死体の下だということ。
物に触れられない"過去視"の弱点を補うためハララさんの持っていた報道時の現場写真を見せてもらったんだけど…。
「…ん? なんですか、これ?」
「ま、待て! それじゃない!
別の写真だ! その写真は事件とは無関係だ!」
猫の写真は返してもう1枚の写真を取り出す。
「確かに、背中の真ん中あたりに鍵が落ちていますね。」
保安部にねつ造されてないか不安になったけど、奴らがしたいのは事件の早期解決、あえて隠したりして謎を増やしてややこしくするのは得策じゃない…。
もっとシンプルで、誰にでも分かるような謎の方が保安部にとっては都合がいいらしい。
写真の裏にはハララさんが現場の見取り図を書いてくれていた。
頭に叩き込むようにって言われたけど…これが事件の謎を解くのに必要って事か?
それに…さっきの猫の写真はハララさんの趣味?
意外と可愛いとこあるんだな…。
☩ ☩ ☩
次に壁側を調べてみたけど本棚には特に変化はなかった。
たくさんの本が並べられていたけど、過去と現在で内容は変わらなかった。
壁に飾られていた絵画も位置がズレていたけど、ハララさん曰くそれは現場検証した保安部がうっかり元の正しい位置に戻しただけだろうって。
うっかりで現場のものを動かしていいんだろうか…。
人形が1体だけ壁に打ち付けられている。
今までの現場では、執拗なくらいに無数の人形がハリツケにされていたけど…ここは、壁に本棚が並んでいるせいで、人形をハリツケにするスペースがなかったのかな?
ていうか、この人形、両方の目玉がくり抜かれている。
これ…犯人がわざとやったのか?
猟奇生が次第にエスカレートしている?
『なんかこの人形だけ、他と比べると素材が安っぽくない?』
あぁ、ホントだ。
磁気製じゃなくて樹脂製みたいだ。
でも、質感は安っぽいけど、こっちの方がはるかに壊れにくいはずだよ。
『その割には、目ん玉なくなっているけど!』
くり抜かれた両目の穴は、頭部内の空洞で繋がっているみたいだ。
その深い闇がのような目で、ボクをじっと見つめているような…ん?
両目の穴の鼻に近い方の縁に、細い紐状の物で擦ったような痕跡があるな。
これは…なんの痕跡だろう?
☩ ☩ ☩
「ユーマ、君に質問がある。」
「は、はいっ。なんでしょう!?」
「世界探偵機構が扱う未解決事件にも、密室殺人は少なくない…。
そこで聞くが…通常、犯人が密室を作る理由はなんだと思う?」
「えっと…被害者を自殺に見せかける為ですか?」
「その通りだ。外部との関わりを遮断する事で、被害者本人が自殺したと見せかける…。
だが、一連の"クギ男"事件では、自殺に見せかけるような傾向はない。
では、なんの為の密室なのか…。」
「なんの為…"クギ男"は実在するぞっ、てアピールする為とか?」
「そうだ、おそらく"クギ男"は自分の神秘性や、都市伝説のリアリティを補強する為に行動している。
"自己ブランディングの為の密室"といったところだ。
なかなか珍しいケースだな。」
「な、なるほど…。」
『ご主人様、ホントにわかってる?』
わかってるよ! たぶん!
☩ ☩ ☩
第一目撃者の発見時、死体は部屋の中央に仰向けにして寝かされていた。
床には今でも血の跡が残り続けている。
血の量から考えると、被害者はこの場所で殺されたんだろうな。
被害者は…体格のいい男性だ。年齢は30前後だろうか。
この死体にも釘が複数打ち込まれている…床にハリツケにするように、両足や胸や腕に何ヶ所も。
「洋館の主であるその男は、若くして不動産売買で財をなした人物だ。
ただし、強引な地上げや不正取引は当たり前…アマテラス社とも黒い関係を築いていたようだ。
恨まれる理由はたくさんある。
遅かれ早かれ、教会の森で人形を打ち付けられる運命だ。」
「呪いをかけた人物は、相手が実際に死んでどう思っているんでしょうね…。」
「責任など感じていないだろう。
しょせんは、都市伝説へのタダ乗りだからな。」
「そんなものでしょうか…。」
…あれ? これって?
よく見ると…死体に打ち込まれている釘の長さがそれぞれ違う…いや、釘の長さじゃない打ち込まれた強さが違うんだ。
下半身に打ち込まれた釘は、体を貫通して床に突き刺さっているのに、上半身の釘は、体を貫通せずに途中で止まっている。
上半身だけ釘を打つ際に手加減をした? なんでそんな面倒な事を…。
それに不自然なのはそれだけじゃない。
よく見ると出血の状態がおかしい。
下半身に刺さっている釘からの出血は、横へ流れているのに対して、上半身に刺さっている釘からの出血は、身体の縦方向…腰に向かって流れている。
「上半身と下半身で血の流れ方が違う…?
死体を移動させたとしても…どうやって? 」
『上半身と下半身が別人の物じゃない?
で、死んだ後にそれらをくっつけたんだよ。』
…気持ち悪い事言わないでよ。
「この人の死因も…絞殺みたいですね。
今までと同じように、ロープ状の絞殺痕と抵抗した際の痕跡がありますし…。
あっ! でも、よく見ると…首の後ろ側にだけ、細い紐をの痕跡が残されています!」
2本の紐状の痕跡か…。
首を絞めた後にもう一度絞め直したのか?
それにしては、首の後ろにしか痕がないのが不自然だ。
わざわざ別の太さの紐にしているのも気になるし…。
☩ ☩ ☩
「…これで証拠さ出揃ったな。
一見複雑そうに見えて、答えは単純だったか…。」
「え? もしかして…ハララさん、密室の謎が解けたんですか?」
「もしかして…解けてないのか?」
え…なにその解けて当たり前みたいな顔。
「たったこれだけの情報で解ける訳ないですよ…で、一体どうやって密室が作られたんですか?」
「それは、探偵が探偵に聞いていい言葉ではない。
探偵としての誇りがあるのなら、自分で考えたまえ。」
探偵としての誇り? そんなものないです。
「ふっ…解決まで僕に依頼するか? 僕は安くないぞ?」
「じ、自分で考えます…。」
…返すお金もありません。
これ以上借金が膨れ上がったら、一生働いても返せる自信がないよ。
『ホント…"金""かね""カネ"だよね。
この悪魔ちゃんって。』
一緒にいたら、どんどん借金が増えていきそう…だんだんハララさんの事が怖くなってきたよ。
「さぁ、可及的速やかに移動だ。次が最後の現場だぞ。」
「ま、待ってください!」
飛び出した背中を追いかけて次に向かうのは場所は、ギンマ地区にある美術館だ。
そろそろ時間も迫ってきた、ヤコウ所長があのボソボソ喋る保安部の人にいじめられてないか心配だ…。
…胃に穴あいてないといいけど。
To Be Continued..
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