【小説風プレイ日記】超探偵事件簿 レインコード 【0章 推理編#6】
©スパイク・チュンソフト | RAINCODE
『五人目』
「…明るくなった。トンネルを出たみたいだ。」
出入口の覗き窓から見える景色が変わった。
外はもう日が沈みかけている。
列車に乗った時はまだ日は上の方にあったはずだから、ボクが意識を失っている間に相当な時間が流れていたことになる。
『…ってコトは、もうすぐ到着じゃん!
このままだと殺人犯を取り逃がしちゃうよ!』
「わかってるよ!
でも、ボクがどうやって犯人を──」
ガタンッ
「また揺れた?」
列車が大きく揺れた。
トンネルに入る前にあった揺れと同じくらいだ。
だけど今度は停電はしなかった。…今のはなんなんだ?
不思議に思いつつも廊下の先を見つめる。
「次の車両は…5両目だったよね。
この列車は5両編成だから…次で最後だ。」
最後…ごくりと唾を飲み込む。
ここまで1号車から順に見て行って、見つけたのは死体だけだった。
開いている部屋はすべて見てまわったから、誰か人がいないことは確かだ。
だとしたら犯人はこの先に──と考えたところでメラミさんの会話を思い出した。
「扉は故障中…って話だったよな?」
恐る恐る近づいてみる。
ボクの不安を他所に、ドアは普通に開いた。
もう直ったのかな?
☩ ☩ ☩
5号室は荒らされていた。
強い炎で一気に炙られたように壁や絨毯は黒く変色している。
車内は焦げた臭いが充満していた。
『ご主人様! あそこ!』
何かを見つけた死に神ちゃんの後を追いかけ奥へ行く。
「し…死体?」
最奥にあったのは、黒焦げに焼かれた5人目の死体。
どうして5人目の死体なんてあるんだ!?
だって…数が合わない! ボク以外の全員が死んだって事になるじゃないか!
と、とにかく今は調べてみるしかない。
「念の為に…呼吸と脈を確認してみる…。
ダメだ…間違いなく死んでる…。」
顔が判別不能になるまでこんがりと焼かれた死体。
ここで焼かれていると誰か判断がつかな──あれ?
首にかけてるこのネックレス…どこかで見た記憶が…
『死体の体つきを見ても、あの短気野郎と一致するよね…。』
「顔は燃やされててわからないけど…
やっぱり、この死体はエイフェックスさんなの?」
『信じられないけど、そうみたいだね。
で、こいつの死因も焼死で間違いないんだよね?』
「うん、他に外傷も見当たらないし…。」
エイフェックスさんの死体を改めて確認してみる。
「あ、待って! 胸のところに一箇所だけ傷がある!」
「刺傷…かな? 刃物で刺された跡みたいだ。」
刺された穴を見る限り深そうだ。
傷口はそこまで長くないから大きな刃物じゃないように思う。
ボクはそこまで刃物に対して詳しい訳じゃないから、見ただけで凶器がなんなのか…まではわからないけど。
刺されているって事は、エイフェックスさんの死因は刺殺?
いや、刺されて動けなくした後に、焼かれて殺されたのかもしれないし…これだけで、死因を特定するのは早計だと思う。
とりあえずエイフェックスさんの死体からわかることはこのぐらいかな。
次は荒らされている5号車を調べてみよう。
何か得るものがあるかもしれない。
☩ ☩ ☩
メインコントールシステム室のドアには鍵がかかっていた。
死に神ちゃんは蹴破って入れって言ってたけど、それは絶対に無理!
エイフェックスさんもプッチーさんも、間違いなくこの車両には6人しかいないって言ってた…。
だから、列車に乗っていたのは、ボクを含めた6人だけで間違い。
この列車には1つの車両にコントール室が2つある。
車両がどっちの進行方向にでも進めるようにね。
行きはここが最後尾だけど、帰りには先頭車両になるから、先にある次の車両へのドアは開かなくなっている。
☩ ☩ ☩
5号車の救護室。
ここも酷く荒らされていた。焦げ臭い臭いがする。
「ん?」
違和感を感じ内鍵を調べてみる。
内鍵は横にスライドすることで鍵がかけられるタイプ。
「OPEN」にしてる時は気が付かないけど、「CLOSE」にすると血がべっとりと付いていた。
施錠されている時に付いた血痕みたいだけど…これは誰の血だろう?
救護用ベッドは真っ黒に焦げて、横に倒されている。
どうしてこのベッドだけこんな風に倒されているんだろう…?
床には消化器が落ちていた。
☩ ☩ ☩
洗面所の方もひどい有様だ…。
鏡は真っ黒にすすけて、ひび割れている。
トイレの中には、誰もいないみたいだ。
☩ ☩ ☩
5号車の先頭部分まで戻ってきた。
いろいろ見てまわったけど、この周辺だけ異様に焦げている。
…号車数を示すプレートかな?
☩ ☩ ☩
『タイムミリット』
「本日はカナイ区直通、アマテラス急行特別臨時便をご利用頂き、ありがとうございました。」
「まもなく、カナイ区に到着します。
お忘れ物などありませんよう、ご注意ください。」
終着駅に着いたことを知らせるアナウンスが流れた。
それはつまりタイムリミットが迫っているってことだ。
『ご主人様、駅に着いちゃうって!
早く犯人捕まえないと!』
「捕まえるって誰を!?
だって、ボク以外は全員死んでんだよ!?」
『ホントに全員?
落ち着いて、考え直してみてよ。』
すーっ、はーっ、深呼吸して呼吸を整える。
1号車にジルチさん…。
2号車にメラミさん…。
3号車にプッチーさん。
4号車にザンゲさん…。
…そして、5号車にエイフェックスさん。
「やっぱり5人だ!
ボク以外、全員死んでるよ!」
『じゃあ、犯人の可能性があるのはご主人様だけじゃん。ご主人様がやったの?』
「ち、違う! そんな訳ない!」
…とは言いきれないよな。
記憶喪失に加えて、訳のわからない死神の存在まで。
ボクは…普通じゃない。
それに、死神って人間の魂を奪っていくものだろうし、ひょっとすると、ボクは死神にとり憑かれて…無意識の内に…他の超探偵達を…。
「まもなく、カナイ区です。
お降りの際は足元にお気を付けてください。」
タイムオーバーを知らせるアナウンスが流れる。
窓の外を見ると顔を覆ったマスクを被った不気味な集団がホームで列車を囲んでいた。
その手には光る棒、警棒が握られ威圧するように振るっている。
どう見ても駅員には見えないその集団は、列車に乗り込んで来てボクら見つけた瞬間「捕らえろ!」一気に襲いかかってきた。
『とにかく今は逃げるんだよ!』
「逃げるって言ったって…あぁ、もうっ!」
ホームにはあの集団がいて逃げられない。
仕方なく前の車両へと逃げ行く。
あの集団が何者かはわからないけど少なくとも、ボクの味方ではなさそう。
このまま奴らに捕まってしまうとこの事件の犯人にされてしまいそうだ。
必死になって逃げて行くけど列車は5両編成。逃げ道も自ずとなくなる。
ボクたちは、仕方なくホームへと投げ出されてしまった。
『あ〜あ。終わった…。』
じりじりと覆面集団が詰め寄ってくる。
「ま、待ってください! 話だけでも聞いてください!
こうなったのには訳があって…。」
「フンッ! 話だと?
貴様、世界探偵機構の超探偵だな。」
「アマテラス社…保安部?」
「我が保安部は、カナイ区の法律の番人にして執行人だ。
もし、我が庭に"正しくない者"が紛れ込んだなら…粛々と排除する。」
カナイ区は確かアマテラス社に事実上支配されてるって言っていたよね。
…って事は、この人達って、カナイ区における"警察"みたいな存在ってこと? イチ企業の保安部が?
「それで、貴様はこの状況をどう説明するんだ?
貴様らを歓迎する為に用意した列車の中で、まさか、内輪モメの殺し合いをしでかすとはな…。」
「ち、違うんです! これには深い事情が…。」
「犯人は貴様だな!」
「ち、違います! ボクは本当に何も知らないんです!
ボクが眠っている間に、みんな殺されていて…。」
「逆だろう? 他の探偵達が眠っている間に、貴様が殺したんだ。
その証拠に、このコーヒーとワインは…。」
「こ、これは…!?」
スパンクさんが持っていたコーヒーカップとワインボトルを掲げると、後ろに控えていた覆面の人達がばたっと倒れた。
「このコーヒーとワインは、いずれも食堂車にあった物だ。
さっき2号車を通った際に部下達に飲ませてみたが、結果はこの通り…ほとんどの飲み物に、睡眠薬が混入されているようだ。」
つまりスパンクさんはこの睡眠薬入りの飲み物をボクがみんなに飲ませて、彼らの意識が昏睡している間に殺害したといいたいようだ。
『へー、下っ端くさい割には段取りがいいね。
なかなか面倒な相手かも…。』
確かに…。
列車から降りてきた部下がスパンクに耳打ちする。
「全員焼死で間違いありません」
黒焦げに焼かれていたんだから、焼死で間違いないはずだけど…あれ、なにか違和感が。
けど今はその違和感を確かめる前にこの場を切り抜けないと、どうしたらボクが犯人じゃないとわかってもらえる?
「ボ、ボクは…犯人じゃありません…。」
否定できる証拠がない状態じゃ、ボクじゃないと言うしか他はなかった。
当然信じてもらえるわけもなく相手の逆鱗に触れるだけとなってしまったけど。
「いいや、貴様だ! 貴様が犯人なんだっ!!」
「ち、違う…ボクは…。」
そこまで言いかけて止まる。
頑なに自分は犯人じゃないと思おうとしてるけど、本当にそうだと言いきれるのか?
この状況で、ボク以外に犯人がらいるのか?
この列車にいたのは間違いなく6人だけで、その内5人が殺されている…。
だったら、考えられる可能性って…。
「いい加減、認めたらどうだ!
貴様が犯人なのはわかっているんだ!」
ボクは…どうしたらいいんだ?
「認めろ! 犯人は貴様だ!」
ボクが犯人…なのか?
「さぁ、認めろ!」
いったん認めた方が…いいのかも…。
ひとまず、この場をやり過ごした方が、落ち着いて考えられるかも。
『…って、やってもないのに認めてどうすんのっ!
ご主人様のバカ! ぶっキルよ!!』
「え? 聞こえたの? 声に出してないのに?」
「まーた独り言が始まったか。
いよいよ、異常者のようだな。」
死に神ちゃんの姿はボク以外には見えない。
声も聞こえないから、傍から見ればボクは大きな声で独り言を言ってる異常者に見えるらしい。
…心の声でも会話ができるのならもっと早く教えてほしかった。せめて異常者と思われる前に。
『てゆーか、なんで諦めてんのさっ!』
「で、でも…ボクにはもうどうする事も…。」
『ううん! むしろ謎解きはここからだよ!
なんの為に、オレ様ちゃんと契約したのさ!』
「え? 謎解きはここからって…どうゆう意味?」
言うが早いか死に神ちゃんはそーれー! と、光ったと思うと…。
世界が停止した。
あんなに怒鳴り散らしていたスパンクさんが、歯茎むき出しの顔で固まったいる。
瞬きひとつしてないなんてこれはいったい…。
後ずさるボクにポヨンっと柔らかいものが当たった。
振り返るとそこに居たのは、胸元がばっくりと開いたゴシックの衣装を身にまとった女の子だった。
「うわぁっ! だ、誰!?」
『誰って…さっきからずっと一緒にいたじゃん。』
「もしかして…死に神ちゃん!?」
『あぁ、そっか。
フワフワじゃないから気付かなかった?
フルパワーを出さないと"謎迷宮"には行けないから、この形態になったんだけど…』
『この姿でも一部はちゃんとフワフワだよ?
ホントだよ、触ってみる?』
「それより…これってどうなっているの?
時間が止まっているみたいだけど…。それに、あの穴は?」
ピタリと止まり動かない人達。
駅に備え付けられている時計の針も微動だにしない。
それに何よりも気になるのはホームに現れた穴だ。
ブラックホールみたいな何でも飲み込んでしまいそうな大きな穴。
確実にいい予感はしない。
『あの穴は"謎迷宮"に繋がっているんだよ。』
と、いいながら死に神ちゃんはぐいくいとボクの背中を押して穴へ入らせようとする。
「ちょ、ちょっと待ってよ!
ちゃんと説明して! 謎迷宮ってなんなの!」
うわああああああああああ〜!
きゃきゃきゃ!
いざ、迷宮入りーーーー!!
to be continued..
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